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2、

 

二話連続投稿です。

よろしくお願いいたします。



途中抜けていた部分を追加しました。





 立食パーティ以降、クリストファーに対する

周囲の反応が目に見えて、変化していた。


女子生徒からは冷たい視線を投げられ、男子生徒

からは侮蔑や同情的な視線が投げられた。

すれ違いざまに、嘲笑される事さえあった。


侯爵家嫡男という高貴な立場において、有り得ない

状況だった。




************




 騎士科寮の自室で、寛ぐクリストファーを、

訪問する者があった。


クリストファーの幼馴染で、親友でもある、この国の

第二王子、エリュシオンだった。



「なぁ、クリス、淑女科の例の婚約者だって?」


「……違う、と思う。俺の婚約者の名前じゃないし……」


「へぇ?婚約者の名前って、何?何処の令嬢?」


「……名前はマルグリット、ブーゲンビレア伯爵令嬢だよ」


「あれ?例のあのもブーゲンビレア伯爵家の……」


「彼女は、婚約者の妹だよ」


「へぇ~、何か複雑だな……それで、お前の婚約者の

マルグリットは、学園には、いるんだよなぁ?」

 

貴族の子が学園に入って学ぶ事は、国の定めだ……

いないという事は、重大な王国法違反になる。


「……魔法科の、二年生らしい……」


クリストファーは、小さく舌打ちすると、眉根を寄せ、

吐き捨てるように答えた。


「魔法科の二年……?それって、あのか?」


「あの?シオンは何か知っているのか?」


「魔法科のマルグリットっていえば、『氷乙女(アイスレディ)』の事だろう?」


「……『氷乙女(アイスレディ)』?」


「婚約者なのに、知らないのか?」


エリュシオンは、婚約者の通り名を知らないという、

クリストファーを、驚愕の目で見ていた。


「デヴュッタントの舞踏会のエスコートに行った時だって、妹の……淑女科の例のあのの相手をさせられたんだ。具合の悪い姉の代わりに妹のデヴュッタントのエスコートをって……」


「それ以降、何度伯爵家へ行っても、妹を押し付けられて婚約者の……姉には会ったことが無いんだ。

顔を合わせた事も、言葉を交わしたことも、無いんだぞ」



「はぁ?それで、どうして婚約者が彼女だって、

わかったんだ?」



 魔法科の二年生、マルグリットの通り名は

騎士科でも有名だが、家名については知っている

者は誰もいない。彼女が伯爵令嬢だという事も、

知られていないだろう。


「立食パーティの時、フェリシアが『お姉様』

って、呟いていた……。誰?って聞いたら知らない

って、言いなおしたよ」


「ふ~ん……。それで、クリスはどうするんだ?」


「どう、って?」


「姉妹のどちらと…ってあれ?二人同じ年齢とし?」


「そういえば……同じ時に、デヴュッタントだって……」


「そもそも、何で彼女と婚約を?顔を合わせた事も

無いんだろう?」


「あ~…なんか、母上が彼女の母親と約束して、

婚約者になったらしい」


「クリスの御母上が?」


「ああ、そうだよ……」


「ふ~ん、侯爵夫人がねぇ……少し、調べてみるか……」


 エリュシオン第二王子は親友のクリストファーの婚約と、伯爵家についての調査をする事を決意していた。




************




 次の日の朝、いつもより早い時間に鍛錬場に顔を

出したクリストファーと、エリュシオン第二王子は、

見慣れない光景に、息を飲んだ。


「な、なぁ、クリス……あれは、なんだ?」


「知りませんよ。私に聞かないでください」


エリュシオン第二王子とクリストファーが鍛錬場で

見たものは、騎士科の女子生徒が一斉に動いている、

妙な動きだった。


二十人ほどの女子生徒が、並んで同じ動きを、

同じタイミングでやっていた。


微かに軽快な楽器の音も聴こえてきていた。




************




 マルグリットは、頭を抱えていた……。

(何故……どうして……)



マルグリットはいつも、鍛錬前の準備にと、

ラジオ体操をしてから鍛錬をしていた。


最初(はじめ)は……一人だったのに……


遠征訓練の後の立食パーティ以降、騎士科の女生徒と親しくなって、鍛錬場でも話をしたり、一緒に鍛錬をする内に

準備運動は大切だという話から、何故かラジオ体操の

参加者が増えて……


何時の間にか、騎士科の女子生徒だけじゃなく、

魔法科の女子生徒も一緒になって、ラジオ体操をする

ようになっていた。


人数が増えるにしたがって、脳内音楽と掛け声だけでは

合わせにくくなり、バラバラなラジオ体操なんて、

有り得ない……と、マルグリットは音の出る魔道具を

作って、ラジオ体操の()()()

流すようになっていた。


ラジオ体操が終わると、騎士科の生徒は各々の鍛錬

を始めていた。


騎士科の鍛錬場では、魔法の鍛錬ができないからか、

魔法科の生徒は、寮に戻る生徒が多かった。


マルグリットは腰に付けたホルダーから、

ペン型の魔道具を取り出すと、バトンの様に

クルクルと、回し始めた。


ペン型の魔道具は、マルグリットがクルクルと

手で回す度、段々と長くなっていった。

 

自分の身長よりも、頭二つ分ぐらい長くなった

棒を両手に取り、マルグリットは鍛錬を始めた。


棒は剣と違って、斬る事は出来ないが、打撃系の武器

として、使い勝手がいい。その上、魔道具なのだから

見た目通りの棒ではない。


時にメイスになり、槍になったり、モーニングスター

にもなる、便利なペンだった。


マルグリットが、棒を構え打つ、払う、突く、回す……

その一連の動作はまるで、演舞でもしている様だった。



 棒術の鍛錬をしているマルグリットを、

ジッと見つめている目があった。


(……無駄のない、きれいな動きだな……)

エリュシオン王子は、鍛練用の模擬剣を手に取ると、

マルグリットに向かって、斬りかかって行った。


クリストファーは頭を抱え、マルグリットが

怪我をしないか、心配をしていた。


エリュシオンの突然の乱入にも、マルグリットはすぐに

反応する事が出来ていた。


棒で剣を受け流し、相手の脇腹めがけて、

横から棒を打ち込んだ。


対するエリュシオン王子も棒を剣で受け流し、木剣と

棒の撃ち合わされる音が、鍛錬場に響いていた。 


流れる様な二人の動きは、まるで剣舞でもしているかの様だった。


模擬戦でもしているかの様な二人に気が付いた

鍛錬場にいた他の生徒達が周りを囲んで、声をあげ、

どちらが勝つか賭けをする生徒までいた。


エリュシオン王子は、マルグリットとやり合って

いる内に、段々と楽しくなってきていた。


「フフッ……いいね…」


「な、にが…?ハァッ…」


肩を揺らし息を整えているマルグリットの白い手首に

エリュシオンが振り下した模擬剣が当たった。


「痛っ……」


手首に走った痛みに、マルグリットは、棒を

手から落としてしまった。


痛む手首を押さえ、屈んで棒を拾うマルグリットに、

エリュシオン王子は手を差し出した。


「僕の勝ちだね……ほら、手を貸そう……」


マルグリットは、目の前に出された手を

取る代わりに、肘の内側、ビリッとする部分を、

強く押すのだった。


「!!ッツ~~~……」


 初めての痛みに、顔をしかめ、うずくまる

エリュシオン王子を横にマルグリットは棒で、

体を支え、立ち上がった。


二人を囲んでいた生徒達はざわついていた。

エリュシオン王子と、マルグリット……戦いの

勝者はどちらなのか?



「私の負けね……」


「平気か?シオン……」


シオンを守るように、クリストファーは、彼を

引上げ、立ち上がらせた。


そして身体の向きを変えると、マルグリットを責め始めた。


「打ち負けたからって、魔法攻撃するなんて…」


「魔法攻撃なんて、していないわ」


「だったら、何をした?」


「コレよ!」


マルグリットは、いきなり割り込んで来て責め始めた

クリストファーの右肘に、ビリっとする攻撃を食らわせた。


「痛っ~…電撃魔法か?」


左手で右肘を擦りながら、クリストファーは、まだ

マルグリットが魔法で攻撃したと言っていた……。


マルグリットは呆れて、溜息を吐いた。


「魔法攻撃じゃないわ。“ファニィーボーン”よ」


「「ファニィーボーン!?」」


「ええ、そうよ…フフッ」


魔法じゃないけど、魔法の呪文の様な、その名称に

マルグリットは、ついつい笑い出していた。


エリュシオン王子と、クリストファーの二人は

氷乙女(アイスレディ)』の

こぼれる様な笑顔に、かける

言葉を失い、心を奪われたのだった。



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