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16、


読みに来ていただき

有難うございます。


登録や評価を下さって

有難うございます。


大変励みになっております。


薄紫の空には、未だ幾ばくかの星が瞬き

遥かな地平に、仄かに光が差し始め……

切り取る様に空の色が変わりだし、

騒がしかった夜の獣たちが、我先にと

巣穴(いえ)に帰るころ……





 夜明け前……まだ朝とは言えぬ暁時(あかつきどき)に、

マルグリットは子狼を腕に抱き、西の森に来ていた。


「さて、と……」


腕の中でまどろんでいる子狼を撫でながら、どうやって

親狼の元に返すかを、マルグリットは考えていた……


広大な西の森の、何処に親狼がいるのか……


マーキングしていない生物個体の所在まで把握できるほど、

見えない画面(ナビゲーター)も万能では無かった。


森の事を、誰よりも知っているのは……


木の精霊王アークトゥルス……


マルグリットの魂に刻まれた記憶の数々……その中に、

精霊の巫女として生きた記憶があった。


産れてすぐに神殿に引き取られ、自由に過ごすことは無く、その一生を精霊達に捧げていた。


「木の精霊王アークトゥルス、我が呼び掛けに応えて……」


マルグリットが呼び掛けた瞬間、背後からマルグリットを

いだく何者かがあった。


『ようやく、我を呼んだな……我が巫女……』


「アーク……今の私は、精霊の巫女だった()()時の私とは違うわ……今の私は別なのよ」


『いいや……姿形は違っても、内なる輝き(たましい)は不変のモノ……少しも変わっておらぬ』


「アーク……」


木の精霊王アークトゥルスはマルグリットを腕に

囲い込んだまま、反転させ向き合うと、マルグリットの顔を

確かめる様に、撫で擦った。


『フッ……顔の造りは変わらぬ……二つのまなこ、形の良い鼻に、程よい大きさの口が一つ……』


そう言うと、アークトゥルスはマルグリットの鼻を

摘まんだ。


マルグリットは子狼を腕に抱え、アークトゥルスの手を

振り払う事が出来なかった。


「……ムムゥ~……」


マルグリットは、自身に身体強化をかけてから、

アークトゥルスの足を思いっきり踏むのだった。


『!……ふっ、ふふふ』


木の精霊王アークトゥルスは、苦笑を漏らしながら、

マルグリットを子供を抱くように抱き上げた。


『ふ……随分と、可愛らしい抵抗よなぁ?昨日に比べ……』


「き、昨日は私一人じゃ無かったし……悪かったわ……」


子供の様に抱っこされて、マルグリットは顔を赤くし、

唇を尖らせていた。


『我を呼んだのは、獣の子の事であろう?』


「え、ええ……親元に返したいの……居場所はわかる?」


『森の事で、我に分からぬ事など……だが、親元に返すのは難しいだろう……』


「な、どうして?まだ小さいのに……」


『出来れば我とて、親元に返したい……だが、そやつは既に親では無く、其方を選んだようだがな……』


腕の中で寝ていた子狼が、何時の間にか起きて、

マルグリットの顔をジッと見ていた。


「……元気になった?お母さんの所に帰りたいよねぇ?」


マルグリットは子狼の頭をワシワシと撫でていた。


『そいつは、<帰りたくない>とさ……邪魔っ気な子狼(イヌ)が……』


忌々しそうに言うと、アークトゥルスは子狼の首根っこを

掴み上げ、マルグリットの腕から奪い取っていた。


『グウェンダリン……っと、現生(いま)はマルグリット……マギィ、か子狼(コイツ)に名を付けるがいい』


「名を付けるがいいって、それは……」


名前を付けるという事は、所有するという事で……

まぁ、ちょっと牙の鋭い犬と思えば……う~~ん……


マルグリットは暫し熟考した後、子狼に名を付け、

面倒を見る事を覚悟していた。


(くぅ~~モフモフの誘惑には勝てないわー)

「名前……ウルフィ、はどうかな?」


<ウァン>


『おや、その名前が気に入ったようだ……子狼(ウルフィ)か……』


「そう、気に入ったの…君の名前、ウルフィに決定ね」


マルグリットは、アークトゥルスからウルフィを取り戻すと顎や喉の辺りを撫で、モフモフを堪能していた。


「はぁ、貴方を呼び出した意味があったのかしら……」


『意味など無くても……其方をこうして腕に抱き、言葉を交わし、この上なく気分が良い……』


「ちょ、っと……アーク!や、ダメ……」


『フフフ……相変わらず耳元(ここ)が弱いのだな……』


マルグリットの耳元で囁くように話をしていた

アークトゥルスは、悪戯が成功した様な顔をしていた。


マルグリットは小さく溜息を吐くと、ジト~っとした目で

目の前にいる木の精霊王を見つめていた。


精霊に大きく(おとなに)なったね……なんて、人間(ひと)である私が言うのは、おかしなこと



前の生で、関わり合った頃のアークトゥルスは、

少年の姿をしていて、彼自身も精霊として意識してから

数年の、まだまだ若い精霊だった。


『その様に熱い瞳で我を見つめて……我と添い遂げる気になったか?』


「なって無いから!!」


『ムムム……そんな照れなくても、我は何時でもウェルカムだぞ』


「はぁ……抜けてきたから、気づかれる前に帰るわ……」


『行ってしまうのか?森から離れられぬ我が身が、痛恨の極みぞ……』


悲壮感漂うアークトゥルスは、子狼(ウルフィ)の目が

嬉しそうにしているのを感じ取っていた。


『クッ……犬ッコロめ……』


「うん?アーク、何か言った?」


拗ねたように、アークトゥルスは口をへの字にし、

ブチブチと何かを呟いていた。


『はぁ、離れたくない……いっそ棘の檻に閉じ込めて……』


聞き捨てならないことを呟くアークトゥルスを、なだめる様にマルグリットは、その頬に口づけをした。


「また、来るから……ね?土の精霊(ツッチー)に、

後始末お願いして……頼りにしてるね?アーク」


『……!』


木の精霊アークトゥルスは、衝撃に顔を真っ赤にし、

餌を求める魚の様に口をパクパクさせていた。


マルグリットは、アークトゥルスが動揺している内に、

腕にウルフィを抱き、屋敷の自室へと転移していた。



 起床するにはまだ早い……


マルグリットは靴を脱ぎ、そのままベッドに入ると、

ウルフィを抱いたまま眠りにつくのだった。





************





 二度寝をして……寝過ごしたマルグリットは、

部屋の扉を叩く音で目を覚ました。


「うぅ~ん……」


……コンコン……


「お嬢様……起きて下さい……お嬢様!」


マルゴ商会従業員で、執事見習いのハンスは、お嬢様(マルグリット)の寝起きの悪さに、頭を抱えていた。


「はぁ~あ、お嬢様、入りますよ……」

(客人二人が既に居間で待っているのに……)


マルグリットの私室に、ハンスが入ると、

足元で子狼のウルフィが、呻っていた。


<ガルゥウ~……>


「ん?な、なんで、獣が?お、お嬢様~……」


<ガルゥ~~>


「わわわ……こ、こっち来るな!」


ウルフィは侵入者と認識したハンスの脛に

齧りついていた。


ハンスは小動物が苦手なのか、それとも小さくても狼だから

恐れているのだろうか?


「どうしたの?何を騒いで……」


マルグリットはウルフィに脛を齧られて、騒いでいる

ハンスをみて、目をパチパチさせていた。


「ハンス……」


「お、お嬢様ぁ、見ていないで助けて下さぁい……」


執事見習のハンスは、足を齧られているとはいえ、小さな……子犬の様な()()を、乱暴に扱う事など出来なかった。


「ウルフィ、止め!座って待機」


マルグリットの言う事に、ウルフィは素直に従っていた。


ハンスはウルフィに齧られ続け、ズボンの裾が

涎でグチャグチャになっていた。


「ハンス、この子はウルフィ……新しい仲間よ」


マルグリットはハンスのズボンを清浄(クリーン)修復(リペア)すると、ウルフィの世話を頼み込んだ。


「ウルフィ、私が学園に行っている間は、ハンスの言う事を

よく聞いて、イイ子でね。噛みついたり、悪戯したらだめだよ」


マルグリットは学園にいる間は、共に過ごせない事、

屋敷にいる時は、大人しくハンスのいう事を聞くようにと、

ウルフィに言い聞かせていた。


<クゥウ~ン>


マルグリットと一緒に居られないことが分かっているのか、

ウルフィは悲しそうな声で鳴いていた。


「くぅうう~可愛い……ハンスぅ~、ウルフィの事、

よろしく頼むねぇ」


「うっ……ファ~ィ……」


ハンスは小動物……犬が苦手なのだろうか?ウルフィの世話をする様に言われて、涙目になっていた。






************






 朝食を終えたマルグリット、ドナルド、グリフィスの

三人は、屋敷を出てハンターギルドに向かっていた。


 大きな扉の中央にあるスイングドアを開けて、

三人はギルドの中に足を踏み入れた。


朝一番の依頼発注を終えたギルドの中は、比較的落ち着いた

雰囲気が漂っていた。


この時間に居るのは依頼を終えて一息ついているハンターや

二日酔いでグッタリしているハンター、新人ハンター、

余裕があるハンターなどだった。


特に付き合いが無くても、何度か顔を合わせる内に、

“顔見知り”程度にはなっているものだが、その日は

新人でもないのに、見た事が無いハンターが数人、

食堂で遅い朝食を食べていた。


 マルグリットとドナルド、グリフィスが依頼達成の

報告の為に受付カウンターに行くと、昨日依頼を受けた時に

担当したのとは別の、若い受付嬢が応対を始めた。


 ローブ姿のマルグリットとドナルドには目を向けず、

騎士科だけあって整った顔立ちに、程よく筋肉が付いて

引き締まった体躯のグリフィスにばかり話しかけていた。


「それでぇ~、本日はぁ~どんなご用件でぇ~?

ご依頼ですかぁ~?お名前聞いてもぉ~いいですかぁ~?」


「い、いや……俺は……」


独特な話し方をする若い受付嬢は、普段は週末勤務を

嫌がり、平日のみ仕事をしていた。


そんな彼女がどうして休日出勤を進んでしているのか、

それは昨日……美形男子がギルドに来た、という話を

聞きつけたからだった。


鼻にかけた様な甘えた声で、自分にばかり話しかける

受付嬢を、新人ハンターのグリフィスは上手に

躱すことが出来なかった。


 普段であれば、知り合いでも他人事と、

笑って眺めているマルグリットとドナルドだったが、

今回は犠牲者の報告もしなければならない……


役に立たない受付嬢とグリフィスのやり取りに、

二人はいい加減イラッとしていた。


他の職員に話し掛けようとしたその時、食堂に居た

見慣れないハンターの一人が、受付まで聞こえる様に

声高に喋っていた。




「なんだぁ、()()()のギルドは、

ハンターも大したこと無さそうだが、受付もロクなもんじゃないな……」


初めて見る顔の、年若いハンターが、不快感タップリに

溢していた。


「な……」


面と向かって苦情を言われた事も無いその受付嬢は、

最低限の質(ロク)も無いと言われて顔を赤くし

ワナワナと震えていた。


「おぅおぅ!聞き捨てならねぇなぁ……ここのハンターがなんだってぇ?」


ハンター仲間と椅子に座って談笑していた一人が、

大したこと無さそうと、言うのを耳にして牙をむいた。


「別に、アンタの事ってわけじゃ……それとも、

自分の事だと思ったワケ?自覚してんの?」


「んっだぁあ?てめぇ、誰に向かって…っな口きいて……」


「嫌だなぁ……目の前に汚らしい腕、出さないでくれる?

それと、唾飛んで来るから、近寄らないでよね……」


「おぅおぅ、上等だぜ、兄ちゃん……表に出ろや…」


年上の中堅ハンターを煽る様な年若いハンターを、

その仲間は止めようともしていなかった。


机を挟んで睨み合い、今にも手を出しそうなハンターの腕を、マルグリットが掴んで止めに入っていた。


「済まない、元はと言えば、ウチの新人が受付嬢を

躱せなかったのが悪い……」


年若いハンターを、殴りそうになっていたハンターに、

被っていたフードを外してマルグリットが、頭を下げていた。


「私に免じて、矛を収めてくれるだろうか?……」


灰青色(スモークブルー)の巻き毛に瑠璃色の瞳をした

マギィを見た中堅ハンターの男は、顔を赤くして、暫し

固まった様に静止していたが、やがて真っ青になっていた。


「い、いやいや……マ、マギィさんに言われちゃぁあ、

若い兄ちゃんの言う事なんて、何とも、無いです……はい」


「そう?良かった。ハンター同士の私闘は禁止されてるからねぇ……暴れたいなら、手合わせでもしてみる?」


「と、とと、と、とんでもございません。マギィさんの

お相手なんて……し、失礼しましたぁああ……」


中堅ハンターはそう言うと、マルグリットの前から脱兎の

ごとく居なくなり、仲間の待つテーブルへと戻って行った。





「お前……何者(ナニモン)だ?いったい……」


年若いハンターは、今にも殴り掛かってきそうだった

中堅(おっさん)ハンターを止めたマルグリットを

訝しんだ……


マルグリットは、見慣れない年若いハンターの仲間を

一瞥すると、騒動を起こした青年……というより少年と

言っても良さそうな年若いハンターを見つめるのだった。


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