10、
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ハンターギルドを出たマルグリット達が向かったのは、
マルゴ商会だった。
小さな噴水の前を横切って、ハンターギルドとは反対の
位置にある商業ギルド……その三軒向こうにあるのが、
マルゴ商会だった。
商会の看板にある商標マークは、丸に漢数字の五で、
丸五商会……
この先……もしもこの世界に、日本からの転移者や転生者が
現れたら、商会創設者が転生者だったと、気づくかも
しれない……
マルグリット達が、マルゴ商会の入り口を潜る直前に、
エリュシオンとクリストファーの二人が追い付いてきていた。
「ハァハァ……おい、て、行くなんて、冷たいなぁ……」
「何も、黙って行かなくても……」
クリストファーまでが、マルグリットに向かって、
文句を言っていた。
二人の必死な姿に、ハンターギルドで何があったのか、
何となく想像が出来たマルグリットは、ついつい
笑ってしまうのだった。
「クスクス……もしかして女性ハンターに囲まれました?」
マルグリットの指摘に、エリュシオンは眉を寄せて、
うんざりした顔をしていた。
「狩られるかと思った……」
「……」
クリストファーは恐怖に歪んだ顔をして、黙って首を上下に振っていた。
「プププ……クスクス……そ、そんなに焦らなくても……
食べられそうだったの?」
「ハンター女子コワイ……」
エリュシオンの呟きに、ドナルドも頷いていた。
「あら、もしかして私の事もコワイって事?」
「なんたって、マギィ様だから、な……ブフォ……ゥグッ……」
ウンウンと、頷きながらマルグリットの二つ名を
言おうとしていたドナルドの脇腹にマルグリットの
肘が、ドスッと突き刺さった。
「ダックぅ……森に放置して欲しい?ねぇ?」
「う……ゴメンナサイ、モウイイマセン」
「どうしよっかなぁ~……」
「マギィ、買い物するんじゃないのか?」
慣れ合うマルグリットとドナルド……二人の会話を
遮る様に、マルグリットにエリュシオンが話し掛けた。
マルグリットは、額を押さえ深く溜息をつきながら、
エリュシオンの質問に質問で返した。
「シオン……貴方達、何処までついてくるつもりなの?」
「……そ、んなに俺は……邪魔か?」
酷く傷ついたような……縋る様な目で見てくる
エリュシオンに、マルグリットが折れた……
「はぁ……ついて来ても構いませんけど、抜ける事は、
出来なくなりますよ。それでも良ければ……」
「それは……どういう意味だ?何をしようとしている?」
エリュシオンの側近で護衛も兼ねているクリストファーが、鋭い目でマルグリットの事を睨みつけた。
「別に犯罪行為をするとか、悪い事をするわけじゃないわ。
ただ、この後も行動を共にすると言うなら、この後
見る物、知る事に対して、秘密は守ってもらうわ……」
それだけ言うと、マルグリットはエリュシオンと
クリストファーの二人に振り向くこともせず、マルゴ商会の入り口を開けて、中に入って行った。
カラン、カラン……
商会の扉についていたドアベルが、客が訪れた事を、
知らせていた。
一階の一般客用の売り場には、マルグリットが日本で
生きていた時に低価格で均一価格で売られていた商品を、
再現した物が売られていた。
再現した商品は、低価格で定額では採算が取れないので、
それなりに高い金額で売られていた。
調理器具、皮むき器は、便利だが細工が細かいので、
一般家庭に普及されるのは、難しそうだった。
魔道具ではないが調理器具として、マルグリットが
再現した、土鍋、キャセロール、深くて大きな耐熱皿、
一人用耐熱皿と、ラザニアのレシピが人気があった。
キャセロールを見つけたエリュシオンが、この鍋で
作られた料理は、温かいまま食べる事が出来てイイんだ……
と、説明していた。
買い物に来たわけでは無い、マルグリットは、奥から
出てきた店主らしき男と顔を合わせると、軽く言葉を交わし、連れの四人についてサクッと説明をしていた。
その男は、マルグリットの話しを聞きながら、四人が敵か味方か見極めるかの様に、心の内側……その奥の奥までもを読み取るかのような、鋭く冷えた瞳で四人を……特にエリュシオンの事を見ていた。
マルグリットはその男と話した後、商会の売り場奥の通路を進み、裏口から外へ出た。
ドナルド、グリフィス、エリュシオン、クリストファーの
四人を連れて、マルグリットは商会の裏にある屋敷の中に、
入って行った。
屋敷の中に入ると、二人のメイドが近付いてきた。
「「お帰りなさいませ、お嬢様……」」
二人のメイドは、一人はマギィの、もう一人が自分たちの
応対をするのかとエリュシオンは思っていた。
「すぐに出かけるわ。昼食の用意は出来ているかしら?」
「はい、お嬢様。此方にいつもと同じ内容で、三人分ですね。」
マルグリットは昨日、三人で出掛ける事が決まって、
昼食の用意を三人分、頼んでいた。
用意してくれる一人分の量が多いので特に追加せず、
マルグリットは三人分の昼食を、すぐに取り出せるよう
イメージして、亜空間収納ボックスに入れた。
メイドが三人分の昼食です、と言って用意していた籠が、
マルグリットが触れただけで、その場から消失するのを見た
エリュシオンは、アイテムボックス……と呟いていた。
「夕食と部屋の用意を……」
「はい、お客様のご用意もですね、お嬢様」
「ええ……それと、お祖父様に、
今日の晩餐はご一緒出来ませんと、詫状をお願い……」
「……承りました、お嬢様」
二人のメイドは、マルグリットに礼を取り、
離れて行った。
エリュシオンは、マルグリットについて……実家の、
ブーゲンビレア伯爵家について、調査していた。
マルグリットがマルゴ商会の関係者という事は、
調査報告には一片たりとも、挙がっていなかった。
「此処は……なんだ?」
ブーゲンビレア家の内情まで明らかにした
自分の調査が、完璧だと思っていたエリュシオンは、
狼狽し、取り繕う事無く、素のまま疑問を口にしていた……
「それは、後で……取り敢えず西の森へ急ぐよ」
マルグリットは、四人を引き連れて、通路を進み、
突き当りにある右側の部屋に入った。
部屋の中は五メートル四方の、換気用の窓があるだけの、
何一つ置かれていない、何も無い部屋だった。
四方を囲む壁の角には、大きな魔石が埋め込まれていた。
床には、特殊加工した魔石が床一面に塗り固められていた。
天井は円く透き通った硝子で出来ており、降り注ぐ陽光に、
部屋の中は明るく照らされていた。
魔石……魔力石には、物を動かす力がある。その力を
継続させるためには、一定量の魔力を注ぐか、自然に溜る
まで、放置するしか無かった。
この部屋にある魔石は、陽光を十分に浴びて、放置していてもすぐに力を貯められるようになっていた。
特殊加工した床は、ソーラーパネルの発想を元に
マルグリットが開発した物だった。
マルグリットが利用しない時は、物干し部屋(特に天気の悪い日)になっている事は、メイドたちの間の公然の秘密だった。
マルグリットはドナルドに目配せをして、グリフィスと
クリストファーの手を取った。
「!」
クリストファーは、マルグリットに左手を握られ、
慌てて離そうとしていた。
「離さないで!しっかり解けないように……」
マルグリットはクリストファーの左手に右手をしっかりと
絡めて(恋人繋ぎともいう)いた……
(うぁあ……スベスベで柔らかい……)
グリフィスは、マルグリットの白く滑らかな手の感触に
ドキドキしていた。
マルグリットはドナルドに、エリュシオンと
手を繋ぐように指示を出した。
「はい、はい……っと」
ドナルドはエリュシオンに、気軽に手を
差し出した。
「な、んで……」
エリュシオンは、マルグリットが片手を繋いでいるのが、
クリストファーは婚約者だから、まだいいとして……
もう片方の手を繋いでいるのが何故、自分ではないのかと、
口に出してしまいそうになっていた……
「あ~エリュシオン様、魔力有りでしょう?」
ドナルドは差し出したのと反対の手で、後頭部を撫でながら、エリュシオンに説明していた。
「だからですよ……」
「?……」
マルグリットはこれから、転移魔法で西の森へ
行く事を説明していた。
「何も考えないで、考えるのは西の森へ行くことだけ、
考える様にして……。シオン、クリスと手を繋いで、
グリフィスもドナルドと手を繋いで、輪になって……」
………………
マルグリットは、四人が大人しく手を繋いでいるのを
確認すると、行き先を告げて、転移魔法の魔法陣を
発動させた。
「転移陣発動、西の森へ!」
手を繋ぎ、輪になった五人の足元に、転移魔法の魔法陣が
現れ、眩く光り輝いた。
転移魔法を初めて体験するエリュシオン、クリストファー、
グリフィスの三人は、急に足元が、グニャリと、歪んでいく
様な気がしていた……