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1、


新たな物語を始めてしまいました。


よろしくお願いいたします。



「マルグリット……君と......結婚する事は出来ない。

私は……君の妹と…...フェ...フェリシアとけ、結婚しなければならない」



「お姉様、ごめんなさい。クリストファー様は私が好きなの。お姉様より私を愛しているの。それに、私のお腹には……」


「そうだ…シアの腹には子が……子供がいるのだ……すまない……許してくれ……」







 結婚式当日……

挙式を目前にした控え室で、純白の花嫁衣装を身に纏ったその娘は、目の前で繰り広げられている花婿と妹の様子を、まるで他人事のように……下手な寸劇でも見ているかの様に……無表情に見つめていた。


 娘の名は、マルグリット……

ブーゲンビレア伯爵家唯一の正統な()()の令嬢だった……。




************




 マルグリットの両親は典型的な政略結婚だった。

二人の間に愛情は無く、妻の懐妊がわかると、

最低限の義務は果たしたとばかりに、夫は愛人の

家に行ったままだった。


 娘が産まれた時も、妻が危篤の時も、夫が家に

戻る事は無かった。


 マルグリットの母が亡くなると、一人残された三歳の曾孫の為に、曾祖父は葬儀が終っても直ぐには自分の(いえ)に帰る事が出来なかった。


 伯爵家の後継という事情から、自国へと連れて帰ることが出来ない孫娘の忘れ形見の為に、曾祖父は信用のおける家令、乳母とメイド、配下(かげ)を付け、家に居着かないマルグリットの父親、孫娘の婿に懸念を抱きながら隣国へと帰っていった。


 曾祖父に付けられた乳母とメイド、家令に可愛がられ、マルグリットは五歳になっていた。

愛人の家の事業が傾き、資産が底をついた父親が、愛人を

伴い、マルグリットと同じ年齢(とし)の娘を連れて、

伯爵家に戻ってきた。


曾祖父が帰国するまでは、マルグリットを可愛がる

振りをしていた父と継母だったが、祖父の目がなくなると、

マルグリットを雑に扱うようになっていった。


 マルグリットは、二人の娘のフェリシアに、

今迄過ごしていた部屋、ドレス、装飾品、全てを

譲る様に言われたが、直ぐに返事が出来なかった。


そんなマルグリットに、妹が可愛くないのか?

なんて冷たい娘だと、継母はマルグリットを

張り倒し、蹴り続けた。


床で頭を打った衝撃に意識を失い、高熱を出し、

マルグリットは一週間も寝込んでいた。


熱が下がり、意識を取り戻したマルグリットは、

魂に刻み込まれた記憶を思い出していた。


 寝込んでいる間に、マルグリットは今迄いた

部屋から、妹が使っていた部屋へと移されていた。


マルグリットが寝込んでいる間に失ったものは

部屋だけでなく、曾祖父が付けていた家令、乳母、

専属メイドは、解雇され、影だけが、ひっそりと、

見守っているのだった。


 家族としては無視されたマルグリットだったが、

伯爵家の娘という体面だけは、最低限取り繕われていた。


成人した後には、金持ちの年寄りか特殊性癖持ちの訳アリ

貴族にでも、高く売りつける算段だった。

その為には、最低限令嬢としての生活と、学園に通わせる為最低限必要な教育は受けさせられていた。


 マルグリットは家の中でも常に気を張り、

父親からも、継母からも、目を付けられぬよう静かに

息を潜めるように過ごしていた。


家庭教師とも必要な事以外、会話することは無かった。


 マルグリットも、十五歳になり、社交界に

デヴューする年齢としになった。


デヴュッタントが集う社交シーズン始めの、

王宮での舞踏会当日、マルグリットの婚約者が、

エスコートをする為に、屋敷を訪れたのだ。


母親同士の口約束から為された婚約だったが、王からの承認も受けた()()なものだった。


 父親は狼狽えたが、継母が機転を利かせ、

マルグリットを出さず、代わりに妹フェリシアの

エスコートをと、その青年に頼むのだった。


青年の名はクリストファーといい、侯爵家の嫡男だった。

フェリシアは一目でクリストファーが

好きになっていた。


 両親の愛情を受け、フェリシアは我慢という

言葉を知らずに育っていった。


浪費家の母親に似て、社交には常に最先端の

豪華なドレスを身に纏い参加していた。

 


 

************




 マルグリットの国では、貴族の子息、令嬢達は、

十五歳から三年間全寮制の王立学園に通う事が

義務付けられていた。


 王立学園に子供を入学させる事は、貴族の…

臣下としての義務でもあった。


国王名による召喚状が貴族位の子息、令嬢に、

漏れることなく、届けられた。


 伯爵家の、おもてに出ないマルグリット宛にも、

国王名義の召喚状が届いていた。


封書の中には入園証の他、学園での注意事項、規則、

選択科目希望書、入寮に際しての注意事項、事前に

用意する物のリスト等が入っていた。


マルグリットには届いた封書だったが、フェリシアには

届く事が無かった。


冬の、社交の無い時期に産まれ、正式な伯爵家の令嬢でも無いフェリシアに、国王名義の封書が届く筈も無かった。


「どうして、あの娘にさえ届いた封書が、フェリシアに

届かないのです?」


「それは……フェリシアの出生届を出すのを一年遅らせたから……」 


 伯爵は、フェリシアが伯爵令嬢として認められていない

という事を、妻にも、娘のフェリシアにも、言う事が出来なかった。


「そうだわ、あの娘の代わりに、フェリシアが学園に行けばいいのよ。社交にも出ていないもの、気が付かれないわ」


「そんな事をして、伯爵家をつぶす気か!バカなことを考えるんじゃない……」


 貴族として産まれた者は、国に登録され、婚姻はおろか、死ぬまで管理されていた。


伯爵は、マルグリットが産まれた時に、死んだ妻から

そのことを聞いて知っていた。

自分以外から産まれた者が伯爵家を継ぐことが出来ない

という事も……


 マルグリットが成人するまでの間に、人脈を作り、

領地からの財を使えば、何とでもなるだろう……

()()伯爵はそう勘違いをしていた。


 マルグリットは、入園式典の前日に学園の

門を潜ると、書類を提出し受付を済ませ、荷物を手に

寮へと向かった。


 手続きが遅れたフェリシアは、同じ年齢

であっても、一年遅れで学園に入る事になった。


 淑女科を選択していたフェシリアは、本来なら

()()()()のマルグリットに用意された部屋に、メイド付きで入寮していた。


マルグリットは、学園の選択科目に魔法科を選んでいた。


入園式典で魔法科の席に座っているマルグリットを

視認したフェリシアは、マルグリットの事を、

魔力も無いくせに身の程知らず……と、嘲笑するのだった。


 学園では、選択科目で校舎も寮も、別棟に分かれていた。

その為入園後の二人にほぼ接点は無かった。


マルグリットは一般的な個室で、一人で寮生活を

送っていた。

甘やかされ、何一つ出来ない妹のフェリシアと違って、

マルグリットは身の回りの事、ほぼ全てを一人でする事が出来ていた。

それはあの日、今生前の人生を思い出したからでもあった。


様々な人生を送った中で、地球にある日本という国で自由に生きていた時が、一番幸せだと感じていた。


魔法が無い代わりに、科学・医療・文明が進み、物が溢れ、身分差などなく自由で平和な国だった。


 また、ある人生では、優れた魔導士だった。

無詠唱で魔術を使い、魔道具を作り、薬草学、薬学にも

秀で、効力の高い薬液ポーションを作成したり

薬草を育てたりしていた。




************




 講義が始まり、本格的な学園生活が開始された。

マルグリットは長期休暇にも家に帰ることは無く、

ほぼ学園で過ごしていた。


 隣国にいる曾祖父は、影からの報告を読むたび、

孫娘の忘れ形見の憐れな娘マルグリットの事を、

引き取りたいと、曾祖父は思い続けていた。

 

だが、ある事情からマルグリットは、十八歳になるまで、

国を出て移住することは出来なかった。


その原因の一つは、マルグリットが()()

婚約している事だった。



 社交界に顔を出さないマルグリットを、伯爵家の令嬢と

認識する者はいなかった。


()()な婚約者のはずのクリストファーでさえ、マルグリットに会う事は出来なかった。

何度伯爵家を訪れても妹のフェリシアの相手を

させられていた。


名前が違うというのに、フェリシアは、自分が

クリストファーの婚約者だと、思い込んでいくのだった。




************




 マルグリットは学園で過ごす間、目立ぬようにと

成績は常に平均よりも少し上程度に抑えていた。


 美しいが常に無表情なマルグリットは、

普段一人でいることが多く、美しい銀の巻き毛を持つ事から

孤高の『氷乙女(アイスレディ)』と周囲から言われていた。



 学園生活も二年目となるとマルグリットにも、多少は

話をする学友、研究仲間が出来ていた。

また二年生になったマルグリットは自由研究で、魔道具の研究を始めた。


マルグリットが開発した魔道具はこの(せかい)には

無かった、温風機(ドライヤー)風送機(せんぷうき)だった。


 商業ギルドに登録したマルグリットは商会を立ち上げた。

商会の従業員は全員曾祖父の配下だった。信頼のおける者が数名……特許等の手続き、製造、販売、資金管理、雑事の全てを伯爵家に、悟られぬようサポートしていた。


マルグリットが立ち上げた商会の名前は、マルゴ商会という名前だった。

製造販売している魔道具の多くは、地球で使っていた

便利な製品が多かった。




************




 魔法科と騎士科では二、三年生による合同の

遠征訓練が、年二回から三回行われていた。


頭脳集団の魔法科生と、脳まで筋肉の脳筋集団、

騎士科の生徒は、表面上は協力していても、裏では

お互いを貧弱根暗、脳筋と馬鹿にし合っていた。


始めて参加した学園での合同訓練で体力の無さを実感した

マルグリットは、認識疎外の魔法を使い、騎士科の女生徒に変装すると、朝の自主鍛錬に潜り込み、身体を鍛えた。


 春に行われた第一回合同遠征訓練で、徒歩での移動や登山訓練、脱落者の多い魔法科生の中涼しい顔でとこなしていくマルグリットが騎士科生の間で話題になっていた。


中には声を掛け(ナンパ)てくる勇者もいたが、何を言っても無表情なマルグリットに、あえなく撃沈されていた。


 騎士科三年生のクリストファーは、噂になっている

魔法科生の名が婚約者と同じマルグリットと聞き、

家名を確認したが、誰一人知る者はいなかった。


 遠征訓練から戻ると騎士科、魔法科合同の

反省会と慰労会が、大講堂で開かれた。


慰労会という名の立食式パーティに、当然の様に

フェリシアが入り込んでクリストファーの婚約者

だと公言していた。


本来関係の無い淑女科のフェリシアが入り込んだ事で、

クリストファーは魔法科と、特に騎士科の女生徒達から

冷たい視線を浴びせられていた。


そんな中マルグリットは我関せず、とばかりに

並べられた料理と果物、デザートの焼き菓子を、

満足そうに食べていた。


普段の無表情とは違い、幸せそうに緩んだ表情(かお)を見た魔法科の研究仲間、遠征訓練で同じ班だった

騎士科の生徒は、その可愛さ(ギャップ)に驚いていた。 


他の生徒達から距離を取られているクリストファーと、

フェリシアの二人とは対照的に、料理を前に、

マルグリットは大勢の生徒に囲まれていた。


「あれは……お姉様?」 


生徒達の輪の中心で、人気者の様に見える

マルグリットを見たフェリシアの呟きが

クリストファーの耳に届いていた。


 立食パーティの後、『氷乙女(アイスレディ)』と

食事を共にし、満足させる事が出来ると、貴重(レア)な微笑みを見る事が出来るという、妙な噂が魔法科と騎士科の一部の生徒の間で、まことしやかに流れていた。


当の本人は、そんな噂など知らず、研究仲間以外とは

食堂に行く事も、外食に出掛ける事も無かった。


 誘われても、誰にもついて行ったりせず、

八方美人な態度をとる様な事も無いマルグリットは、

フェリシアと違い、騎士科の女子生徒達の反感を

買うどころか、朝の鍛錬に誘われる様になっていた。


 魔法科の女子生徒の間でも、マルグリットの

誠実で控えめな態度が好感を呼び、無表情クール

姿に、熱烈な支持者(ファンクラブ)が出来ていた。




 目立つことが無いよう注意していたはずなのに、

おかしい……どうして、こうなった……と、

マルグリットは頭を抱えていた。


 

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