【手を繋げば】【夢朧】
【手を繋げば】
さあ、手を繋ぎましょうか。
新しい世界の始まりには、新しいふたりが必要でしょう。
さあ、夢を語りましょうか。
新しい日々の貴女は幸せですか?
貴女が笑うその横で、僕は笑っていますか?
貴女が見つめるその先に、僕はいますか?
思えば、実に長い遠回りをして来ました。
何しろ、色恋沙汰に乏しいふたりだったので、まるで割物を扱うかのような純愛でした。
傷付ける事を恐れ、踏入る事に迷う。そんなふたりでした。
僕は所謂、捻くれ者でしたので、参考書通りの言葉からは全く愛を見出だす事が出来ませんでした。
かと言って、大切に温めて来た言葉程嘘で塗固められたものはありません。
言葉とは時に、実に頼り無く移ろうものです。
僕が欲しかったのは、貴女のその体温でした。暖かな指先が僕の荒んだ心を包み、解すのです。
相手の未来を憂うならば成程、傷付ける事が必要でしょう。
相手の心を解すならば成程、相手の全てに踏入る事が必要でしょう。
良いじゃないですか。
生涯、人は傷付け合う悲しい生き物です。
相手を癒す為に傷付け合うのならば、良いじゃないですか。
さあ、手を繋ぎましょう。
言葉よりも、文字よりも、私達は感じ合えます。
新しい世界です。全てを超越したふたりで、良いじゃないですか。
【夢朧】
瞼に焼付く程、恋焦がれた夢があります。
それは、日常を謳っています。そんなに遠くない、未来の日常です。
そこでは僕は貴女の夫(或いは彼氏)と成って、貴女の側にいます。
「嗚呼、幸せだ」と僕が呟くと、貴女はまんまるな瞳をパチクリとさせるのです。
「どうしたの、急に」君は言います。
「なんでも無いよ」
そう、なんでもありません。
僕が欲しかったもの。夢にまで見た、何気ない日常の一コマ。