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 飲食店を出ると、ジャックは

「俺はちょっとサヴルム王国に行って来る。お前達はしばらくここで観光でもしていてくれ」

 と、四人の仲間に言った。

 すると早速、

「何しに行くの?」

 とアドリアーナから疑問が挙がる。

「ああ、サヴルムは砂漠にある国なんだが、ルドルフォから聞いた話によると池や川が干上がって、最近は水不足に陥っているらしい。俺の能力ならサヴルムを救うこともできるかと思ってな」

 無論、それは表向きの理由であり、真の目的は全ての準備が整った後に出兵してくれるようサヴルムに交渉に行くためである。

 すると、彼女は

「あたしも行く」

 と言い出した。彼の動向を監視するつもりなのだろう。

 彼女ら姉妹と、大樹には他国から村を守るためにも協力してくれと言ってついてきて貰っているため、他国の協力を仰ぐ際について来られると非常に困る。周りに流されやすい大樹や、判断力がまだ成長しきっていないベラならともかく、彼女がついて来るとなると特に危険だろう。

 なのでジャックは、砂漠の道がいかに危険であるかをアドリアーナに説明したが、どうしても首を縦に振らない。

 終いには大樹から、

「ジャックがついていれば安全だろうし、連れて行ってやってくれませんか?」

 と、言われてしまったため、断る理由が見つからず連れて行かざるを得なくなった。

 彼はアイラに、

「お前もここに来るのは久しぶりだろうからルドルフォと話をしてくるといい」

 と言って、必要な事は全てルドルフォに話してある事を彼女に暗に伝えると、武器や食料などの荷物とアドリアーナを馬の背に乗せて、サヴルム王国へと馬首を向けた。


 サヴルム王国の領土は大半が砂漠であるが、純粋に砂だけで構成された不毛の地というのは少なく、大半は砂礫や岩石で構成されている。

 そのため、少ないながらも馬の餌となり得る植物は生息しており、ジャックの場合は水不足の心配もないのでかなりスムーズに進めた。

 しかし、どれだけ速く進んでもそこに到着するまで三日はかかる。

 ジャックは特に問題なかったが、身体が成長しきっていないアドリアーナは一日目にして疲れ切ってしまった。

「ついて来た事を後悔しているか?」

 と、馬の毛づくろいをしながら、ジャックは彼女に尋ねる。

「少しね。でも、自分で行くって言い出したんだから文句は言わないよ」

 焚き火にあたりながら彼女は答えた。疲れもそうだが、寒さもキツいらしい。

「あと、これが二日は続く事になる。嫌なら明日の朝サリスへと連れて言ってやるぞ」

「いいよ、このままジャックと一緒に行く」

 それからしばらく沈黙が続いたが、

「ねぇ、この前言っていた魔王ってどういうこと?」

 と彼女は彼に尋ねてきた。

 彼女は別にジャックと話をしたい訳ではなかったが、この時彼女は眠気に襲われており、今眠ったら凍死してしまうのではないかという不安から彼に話しかけている。

 ジャックはその様子を見ながら、

「そうだなぁ、明日になったら答えてやる」

 などと、からかい気味に言った。

「いや、今答えてよ」

 やや不機嫌そうにアドリアーナが返す。

「俺が答えなくてもお前なら何となく察しはついているんだろう。俺はおよそ二百年前に一時期世界を征服仕掛けた魔王の末裔だ。もっとも、魔王らしい特徴は無詠唱で大規模な水魔法が使えるくらいの特徴しかないが、これでも色濃く特徴が出ている方らしい」

「その魔王が人助けのために王と戦うの? 変な話じゃない?」

「先祖からは世界を征服しろとは言われていないし、二百年も経てば考え方も変わって来ることもあるだろう」

 そう言った後、重ねて

「凍死はしないだろうから安心してもう寝ろ。凍死する場合は予兆として暑いと感じ始めるらしいが、そういうのは今のところないだろう。どうしても心配なら俺が火の番をしておいてやる」

 と言った。

 アドリアーナは大樹の『魅了』を受けており、他の人間の言う事を聞き難い状態になっているが、その状態でもジャックの言葉には説得力を感じたため彼に言われた通りに眠ってしまった。

 ジャックは言った通りしばらく火の番をしていたが、燃やせるような枯れ草がなくなると、自分も眠った。

 翌朝、少し離れた所から響いて来る蹄鉄の音によって二人は目を覚ました。

 アドリアーナは起きるなり、

「火の番をしているって言ってなかった?」

 と言ったが、

「一晩中見ているとは言っていない。それより、おそらく敵が来るぞ。敵とは俺が戦うが、お前も何か荷物の中から武器を取り出しておけ」

 と、ジャックは軽く流して、傍に転がしてあった自身の剣を手繰り寄せた。

 襲来した敵は六人ほどの賊だった。

 服装から察するに、全員サヴルム王国出身らしい。

 サヴルム王国はそこまで裕福な国ではないからか賊になる者も多く、彼らもその中の一部なのだろう。

「見ての通り二人旅で、盗る物もないはずだ。他を当たってくれ」

 ジャックはそう言いながら、相手の得物や力量、増援の有無などについて観察した。

 武器は馬に乗っている二人が槍で残りは剣であった。

 姿勢や構えを見る限り腕は大した事はなさそうであるが、槍はリーチが長いため注意が必要になるだろう。

 他に足音などは聞こえないため、おそらく増援はない。

 そこまで観察を終えたところで、

「持っている武器、着ているもの、それから馬、小娘、売り物になる」

 と言って六人はジャックへと向かって来た。覚束ないラヴィスヴィーパ語が不気味さに拍車を掛けており、それによってアドリアーナは少し萎縮してしまったが、ジャックには効かない。

 その為、彼は一切怖じる事なく、

「愚かな、寝込みを襲撃すればまだ勝ち目があったものを」

 と言いつつ、先行して来た馬上の二人へと水魔法を放って落馬させた。

 魔法は未だにカストゥルム国でしか習得出来ない技術であり、とりわけ彼の魔法はカストゥルムで天才と呼ばれている者ですら砂利扱いできる程の物なので、賊達は当然怯む。

 その隙に彼は騎兵が持っていた槍二本を奪うと、片方を地面に突き立てていつでも使えるように準備をし、もう片方を使って剣を持って突っ込んで来る敵を一人突き殺した。

 敵を突き刺した槍はかなり深くまで突き刺さり抜けなくなったので、それは捨てて次の槍へと即座に持ち変えると、さらにもう一人を突き、そのまま横に凪いで敵同士を衝突させる。

 それでも、敵で無事だった最後の一人はジャックの猛攻に怯みながらも、間合いに入って頭上から剣を振り下ろそうとする。

 しかし、それよりも素早くジャックは体勢を低くしつつ、その男の脛を抜剣の勢いで薙ぎ払っており、男がバランスを崩したところで右斬り上げを放って斬殺した。

 その後、敵をぶつけて転倒させていた男にトドメを刺すと、先程落馬させて現在悶絶している二人へと近づき、

「金目の物を置いて消えろ」

 と言った。

 別に金に困っていたわけではなかったが、賊相手なら強盗働きをしても構うことはないだろうという考えである。

 二人の男は持っていた物や着ていた物を全てそこに置き、怪我をした体を引きずりながら命からがら逃げて行く。

 ジャックは

「連中を追えば、賊のアジトを探り出せるかもしれないが追撃でもかけるか? 馬車なんかがあれば旅も少しは楽になるかもしれんぞ」

 とアドリアーナに言ってみたが、彼女はドン引きしている。

 曰く、

「盗賊達の盗品は元々誰かが盗まれた物でしょ、それをあたし達が盗んでどうするの…」

 との事である。

 しかし、相変わらず顔は引き攣り気味だったが、

「だけど、前のドラゴンの時といい、今回といい、助けてくれた事については感謝してる。ありがとう」

 とも言った。

「追撃に関しては冗談だ、元々連中より俺の方が財産を持っているだろうし、襲撃された際に咄嗟の応戦がし難くなるから馬車なんぞいらん。先を急ぐぞ。誰かさんがあまりにも珍しい事を言うもんだから雨が降るかもしれんしな」

「それ、どういう意味?」

 そのやりとりの後、二人は再びサヴルム王国へと向けて出発した。

 二日目の夜、二人は小さなオアシスにあった一軒家へと泊めて貰い、三日目にサヴルム王国の都へと入った。

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