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 村からサリスまでは数日間かかる。

 なので、途中寝泊まりする場所を見つけなければならないが、この国では他国からの侵略や、単に人が都市へと移動してしまう事によって消滅する村も増えてきているため、都合よく旅籠が見つからないこともある。

 この日の夜も、道路からやや遠く離れた所に見えた廃村で一行は寝泊まりする事になった。

 その村は急峻な山の麓に位置している事からも分かる通り、元々防御には気を使っていたらしい。

 山以外にも、村の周りには年月が経って浅くはなっているが堀が掘られており、村の中にも塹壕や古びた柵が設けられていて、防御施設は充実している。

 さらに、村の家々にも放置された剣や槍、銃や弓がいくつもあったので外敵によって滅びた訳ではなさそうであった。

(都市への人口流失によって滅びた村か…同じ原因で滅びかけている村は以前見た事があるが、実際に滅びたケースは初見だな。俺の村もいずれはこうなるのかもな)

 ジャックはそう思ったが、不思議と悲しくはない。

 しかし、廃村を初めて見るらしい大樹とアドリアーナ、ベラの姉妹はかなり悲しそうな顔をしていた。

 その様子をみていたアイラが

「まぁ、ここに住んでいた人たちは強かったみたいですし、きっとどこかで今も生きていますよ」

 と言って三人を励ました。

 彼女にはどこか愉快犯のようなところがあり、決していい人間とは言い切れないのだが、ジャックとは違い、他人を疑うというような事は少ないので仲間になった彼らとは頻繁に話すようになっている。

 その影響か、アドリアーナとベラの姉妹は彼女に懐き始めており、大樹が単独で行動する時は専らその二人は彼女と一緒にいた。

 しかし、その後アイラと大樹は食料の調達と、周囲に敵の有無を確認しに廃村の外へと行ってしまったため、姉妹はジャックとともに火を起こす準備や廃屋の掃除などをする事になった。

 廃屋の掃除を姉妹に任せ、ジャックは薪を拾い集めていると、しばらくしてアドリアーナが出て来て彼の元へと寄ってきた。

「どうした?」

 とジャックが尋ねると、

「あなた、国を救うみたいな事を言っていたけれど、本当は良からぬ事を考えているでしょう。あたしには何となく分かるの」

 との事であった。

(この勘の良さは驚異だな)

 ジャックはそう思ったが、せっかくの『魅了』と『嵐』という駒を捨てなくてはならなくなるため、彼女を殺処分する訳にはいかない。

 仕方なく、

「まぁ、信頼されないのも無理はない。俺はお前達の生活を一変させてしまった張本人だからな。悪いようにはしないから、安心しろ」

 と言った。

『悪いようにはしない』という言葉は古今東西使われてきているが、現在に至るまでほとんど守られた事はなく、無論彼もそれを守る事など考えてはいない。

 それを察してか、彼女は

「少しでもあなたがタイジュとベラを裏切ったり、危害を加えるような素振りを見せたら許さないから」

 と返してきた。

 が、ジャックはそれをほとんど聞いていなかった。

 正確には、聞いてはいたが彼女の声と一緒に聞こえてきた何かが羽ばたくような音の方に意識を集中していたため、耳を通り越してしまったという方が正しいだろう。

 音は徐々にこの村へと近づいてくる。

「聞いているの、ジャック!?」

 アドリアーナが声を荒げた。

 ジャックはそれを制止し、

「アドリアーナ、ベラと一緒にどっかに隠れていろ。何かこっちに向かっているようだ。アイラやタイジュではない」

 と静かに言った。

 が、彼女が隠れる暇もなく空から突然熱線が飛来した。

「伏せていろ」

 と言いつつ、ジャックは魔法で膨大な量の水を噴射してそれを相殺する。

 アドリアーナを廃屋へと避難させ、ジャックは空を見上げると、村の上空には既に褐色のドラゴンが飛んでいた。

「人が三匹か。俺がここらに住み着いた時にはこの村は既に滅んでいたと思ったが、まだ人がいたとは嬉しい誤算だ。最近は羊ばかり食っていて飽きていたところだからな」

 とそのドラゴンは話し始める。

 人語が理解できるようだ。

『三匹』ということはアイラと大樹はまだ見つかっていないらしい。

 知能が高い魔物らしいので、ジャックは

「俺はただの人間ではなく、魔王の血を引いている。お前は知能と力がありそうだから、泣いて頼めば部下にしてやらんでもないぞ。馬の代わりくらいの役割はやらせてやる」

 と、スカウトしてみた。

「魔王…?」

 それを聞いたアドリアーナがそう呟く。

 この事によって彼女にはジャックの正体がほぼ気づかれてしまったが、アイラ以外の三人にも既に魔法を見せてしまっている今、魔王の子孫だという事は話しても話さなくてもどっちでもいい事に成り下がってしまっており、彼は気にしない。

「俺が生まれた頃には消滅しちまっていた奴の血を引いていたとしても大した驚異ではない。それに、貴様は魔王というほどの魔力は持っていないようだな。俺と同程度かやや低いくらいだろう」

 このドラゴンの推測は当たっていた。

 ジャックは隔世遺伝で魔王の特徴をやや色濃く受け継いでいるが、オリジナルには魔力も身体能力も遥かに及ばない。

 魔法使いとしては群を抜いて優秀な部類ではあったが、魔物の物差しで測った場合はせいぜい魔王の城の見張りくらいの力だろう。

 対してこのドラゴンは人語を話し、炎を扱っているところを見ると、少なくとも魔王が征服した土地に置いていたという代官くらいの力はあるはずである。

 それでも負ける気がしなかったジャックは、微笑を浮かべながら

「アドリアーナ、ベラ、今日の晩飯が決まったぞ。ドラゴンの丸焼きだ」

 と、啖呵を切った。

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