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 五十嵐大樹は旅の準備を終えると、アドリアーナとベラという二人の姉妹を連れてジャックとアイラが待つ酒場へとやって来た。

「その二人はどなたですか?」

 とアイラは彼に尋ねる。

「ここに来るまでの間、仲間に出来る限り声をかけてみたんですよ。残して行くのは心配だから一緒に行かないかって。そうしたら、帰るところがないこの二人だけが応じてくれたんです。他の仲間はここに残って僕が帰る場所を守っておくとの事だった」

 と大樹は答えた。

 このやり取りでジャックは大樹が持つ『魅了』には人を引きつける力はあっても、完全に惹きつける事は出来ないという事をより深く把握した。もし、それが他人の精神を侵食するものであるなら彼について来る者はもっと多いはずだと思ったためである。

 もっと『魅了』に関するサンプルがあってもいいかもしれないが、それは移動した先でも確認できるので、

「もう準備はできたのか?」

 とジャックは彼に尋ねた。

 完了していればすぐに村を出るつもりである。

「ええ、すぐに行けますよ。村のみんなには既に挨拶を終えている」

 その大樹の言葉に、彼の取り巻きの二人も首肯する。

「わかった、それならまずは都では無くサリスへと向かうぞ。あちらの方が戦いの準備はし易い」

 と言ってジャックはアイラと共に席を立ち、大樹ら三人もそれに続いた。

 ちなみにサリスというのはこの国で二番目に規模が大きい都市である。ジャックは以前、数年間そこに住んでいた事があり、独学で習得した武芸以外は全てそこで習得していた。

 とりわけ、鍛治と武具の販売ルートについてはかなり太いパイプがあるため、直接、首都アトモ・フィリオへと向かうよりはそちらへ向かった方がいいだろうという判断である。

 彼らが酒場を出ようとすると、店主や客など店にいた全員が大樹達が出て行くのを見送ってくれた。

 さらに、店の外にも村の人間が集まっており、彼へと言葉をかけてくれている。文言も彼を応援するというよりは彼の無事を祈る言葉が多いのも彼が信頼されている証であろう。

 それらの声援に見送られながら大樹達五人は村を出発した。

 店を出る際はジャックが先頭だったが、この時点で先頭を行くのは大樹であった。


 二百年前に魔王が復活してからは動物の他に魔物が世界の至る所に跋扈しており、この大陸も例外ではない。それらは、魔王が消えた今でもずっと存在し続けている。

 とりわけ、この大陸は食物連鎖上位である狼や獅子などの肉食動物が元々少ないため、魔物の絶対数は多い。その中には強力な種類のものも多数いる。

 一行は村を出て数十分後に早速、魔物の大群に遭遇した。

 少なくとも六十体はいるだろう。

 その魔物の外見は人間に近いが頭は無く、代わりに胴体に顔があり、手には剣と盾を持っているというものである。

 人に近い見た目ながら知能は低いらしく、動きに統率は見られない。思い思いにジャック達に接近してきているようだ。

 迎撃するべくジャック、アイラ、大樹は戦闘の準備をし、アドリアーナ、ベラはその後ろに隠れる。

 ふと、アイラは

(魔王の子孫なら魔物達の統率もできるのでは?)

 と思いジャックに耳打ちで聞いてみたところ、

「知能がある魔物であれば義理を立てて味方についてくれるかもしれんが、こいつらは無理だ。俺の先祖も低知能の魔物を操る際はタイジュの『魅了』に近い性質の魔法を使ったらしいんだが、俺にはその魔法は使えない」

 との事であった。

 二人が相談していると、大樹は

「二人はバックアップとアドリアーナ、ベラの事をお願いします」

 と言って抜剣しながら突撃して行き、水と風の魔法で身を守りながら、剣と雷の魔法を使って戦い始めた。彼は剣さばきは拙いが、魔法の扱いが非常に上手く、風を使って敵同士をぶつけてみたり、周囲を水浸しにしてそこに雷の魔法を流してみたりと、一体多数に適した戦い方をしている。さらに、風魔法を敵との間合いを急速に変化させたり、剣を振るスピードを速めるために使ったりと、剣さばきの強化にも使っているため、剣の拙さも大した弱点にはなっていない。

 一応、苦戦してはいないようだが、とりあえずアイラも彼の援護を始めた。

 彼女は接近戦が得意ではないのでアドリアーナとベラを守りながら、護身用として持ってきていたフリントロックピストルを取り出してやや離れた位置にいる敵へと攻撃していく。

 が、ジャックはまだ戦わない。

 いつも通りの戦いをするか、派手な戦い方をするか考えていたためである。

 ジャックは大規模な水魔法を詠唱無しで使う事ができるが、普段それをあまり使う事はない。

 水魔法は他の属性よりも遥かに自由が利く。例えば、相手の顔面にそれをぶつければ、水を体内へと侵入させて気道を塞いで窒息させたり、肺に入れて溺れさせたり、極め付けには相手の体内の水分に自分の魔力を介在させ傀儡にする事も可能である。

 彼はそのような特長を利用して、少量の水を応用して使う事を好んでいた。

 しかし、村を出てからは大樹がリーダーのように振る舞う事が増えてきており、それを諌めるために、大規模な魔法を使ってどちらが格上かを見せておいた方がいいのではないかとも思い始めている。

(このままズルズルとこの状況を放置して指示が二元化すると、味方はどちらの方針を取ればいいのか迷って混乱したり、動きに迅速さが欠けたりと弊害が多くなる。芽は早いうちに刈り取っておくか)

 そう考えをまとめると、

「一気に片をつける。お前らはすっこんでいろ」

 と言い、山よりも大きな水の塊を空中に発生させた。

 そして、大樹が風を使って急速に退いたと同時にそれを魔物の群れへと叩きつける。

 魔物はまだ残り四十体はいたが、魔法の範囲が広すぎるので一体も回避する事はできず、全て水のハンマーの餌食となった。

 轟音を立てて叩きつけられた水はそのまま周囲に広がり始めるが、次の瞬間には消滅し、跡には濡れた地面と倒れた魔物の体だけが残った。

 倒れている魔物の生死を確認してみると、今の一撃で倒す事ができたらしく、全て死んでいる。

 戦闘を終えると、

「驚いた、ジャックも魔法を使えるんですね。しかも僕の水魔法よりも遥かに強力なものを」

 と、大樹がジャックに話しかけてきた。見ると、恐怖と感動が入り混じっているような表情をしている。

 彼の取り巻きの二人も、莫大な量の水魔法には恐怖を感じたらしく身震いしていた。

(とりあえず釘をさすことはできただろう。また、リーダーになろうとしたら今度は別の方法で阻害してやる)

 不敵な笑みを浮かべながらジャックはそう考えた。

 その後、再び一行はサリスへと向かって歩き出す。

 さっきの戦闘で空中に現れた水の塊はかなり遠くからも見えたらしく、しばらくの間はそれを警戒した盗賊団や、獣、魔物達は彼らを襲ってこなかった。

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