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レックスの死後、一旦、大樹をラヴィスヴィーパの代表にしてジャックとアイラがその補佐をする事になった。
大樹の『魅了』は神輿として使うには最高の能力であり、彼の発言で女性を動かして田舎へと向かわせて、さらにそれに引き寄せられる男性も間接的に操作できるのでラヴィスヴィーパには過疎地域というものが無くなり、他国からの偵察兵もあまり侵入してこなくなった。
サカノ国もラヴィスヴィーパに勝利するという悲願を達成し、且つ、大量の財宝を得たため偵察兵は送らないようになり、今は乳製品や羊などの売買や物々交換をしに隊商がやって来るだけになっている。
さらに、ジャックのツテを使ってサヴルム王国から不足していた兵力を借りる事が出来たので治安もやや改善し、その返礼に水や塩を大量に送ったのでその関係はより良好になった。
ただ、いつまでも兵力を借りているわけにもいかないので屯田兵を増やすための支援やまともな軍人の募集なども幅広く行なっている。
そういった事を行なっていったため、ラヴィスヴィーパ王国は一年間でかなりの復活を遂げたが、大樹があまりにも忙しくなってしまったので彼が村に残してきた女性とベラからはジャックに対して抗議があった。
この日も、アトモ・フィリオ城跡の二の丸に作られた仮設の城にあるジャックの部屋にベラがやって来て、
「ジャック、まだタイジュは村に帰れないの?」
と尋ねてきた。
いつもはそれっぽい事を言ったり、大樹の筆跡を真似てジャックが作った手紙を渡したりして退いてもらっている。以前、村の女性の署名を持って来られた時は流石に手を焼いたが、今日はそういった事はなさそうなので問題なくいつも通り躱す事ができるだろう。
ただ、ここ最近はジャックも
(一応、大衆でも国を動かせるように体裁は整えた。もう引っ込んでもいいだろう)
と、思っていた。
しかし、一方で
(サリスは他国の人間の出入りが激しいから、新しい物や考えを上手く取り入れる事ができるだろうが、ここはどうかな?)
とも考えている。
どちらの考えに準じて返事をしようかと少し悩んだ後、
「そうだな、ここ最近は落ち着いてきたしもうすぐ帰れるかもしれんな。本人に帰れるか帰れないか聞いてみて、帰れるようだったらそうしよう」
と、答えた。
それを聞いて嬉しそうに彼女はジャックの部屋を出て行くと、今度は入れ違いにアドリアーナが入って来た。
彼女は既に魅了の洗脳を振り払っており、大樹には仲間以上の感情を持ち合わせなくなってしまっている。その代わりにジャックに少し懐いたので彼はたまに彼女の話し相手になってやっていた。
彼女は魅了の影響を受けていた時は気づかなかったが、彼と何処か似た感性を持っていたらしく、それをあまり良くないものだと理解できていたが故に彼を今まで危険視していたらしい。
魅了を解除した今、ジャックは彼女を最も理解する者の内の一人となっている。
彼女は外で会話を聞いていたらしく、椅子に腰をかけると、
「いいの? 少しはマシになったとはいえここに住む人間の本質は変わらない。今は王様がいないから傀儡のタイジュとそれを裏で操る貴方がいなくなれば、ここはまた退廃するかもしれないよ」
と彼に言った。
「構いやしないさ。レックスも最終的には民衆に国を動かさせる事を望んでいたし、何より俺は魔王の末裔だからな。国が滅ぼうと知った事ではない」
「町の治安を改善したり、他の国と良好な関係を作っておいて何が魔王だよ」
「いや、最終的には魔物のようなものを使って国を滅ぼすんだから魔王には違いあるまい」
「それもそうかもね。それじゃあ、私は村に帰る支度をする事にするよ。まぁ、帰っても長くは滞在しないだろうけど」
「どこか行きたいところがあるのか?」
「海の向こうのカストゥルム国に魔法を習いに行こうかと思っていてね、貴方もこれが終わったら暇だろうから一緒に来てよ、話し相手がいないと向こうに行くまで退屈しそうだし」
「分かった。あの国の秘伝の魔術書は俺の先祖の物で、いつか盗み出してやろうと思っていたところだし丁度いい」
「そう、ありがとう」
そう言うと彼女は立ち上がり部屋を出て行った。
数ヶ月後、国民からの信頼が厚い数人が会合をして新しい代表を決めると、大樹はその人物に代表の座を譲り渡し、自らはベラ、アドリアーナと共に村へと帰って行った。彼の補佐を退いたジャックとアイラも途中までそれに同行し、その後は自らの村へと帰っている。
ラヴィスヴィーパが完全に王国で無くなったのはこの時点と言っていいだろう。
村に帰った後、アドリアーナはベラを大樹に預けてジャックとアイラの村へと行き、彼等と共にカストゥルム国へと行った。
大樹とベラも、その後村を魔物が襲って来たり、アドリアーナが心配になってきたりした結果、村の住民達を引き連れて海の向こうの城郭都市ダライへと引っ越している。
数年後、アトモ・フィリオでは再びレックスが王に就任していた頃と同じ様な状況に陥った。
しかし、今度は彼や騎士団がいないためさらに状況が悪いと言っていい。
アトモ・フィリオにいる兵士は急激に素行が悪くなったが、騎士団がいないため取り締まる事はできず、レックスや大樹が一定の地位を与えていた衛生管理の仕事の地位が急降下して誰もやる人間がいなくなったせいかコレラが流行り始めてしまったのである。
そのため、アトモ・フィリオではもう一度大樹に戻って来て貰って再度代表に就任して貰おうという動きがあったが、とうとう彼を見つける事はできなかった。
結果、ラヴィスヴィーパはサヴルムの事実上の属国という地位にまで堕ち、首都の座もアトモ・フィリオからサヴルムにとって便利なサリスに奪われてしまっている。




