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二の丸はヒースコートが仕掛けた植物魔法のトラップが至る所に敷き詰められていた。
蔓に足を引っ掛けた途端に死角から毒矢が飛んで来るシステムや、登城道から転がって来る丸太、伏兵隠しに設置された竹藪など、その種類は多岐にわたる。
特に大樹達が手を焼いたのは魔法で急造されたらしい櫓門のような物であった。
それは、登城道を挟む高石垣を繋ぐようにして設置されていたため、確かに門としての機能はあるのだろうが、門扉含む全てが木造であるため防御力があるようには思えず、櫓の部分はどう見ても柵がついた橋程度の物にしか見えなかった。
そのため、当初サヴルムとサカノの軍は舐めてかかっていたが、蓋を開けてみれば柵と柵の間の僅かな隙間が、櫓門で言うところの連子窓や石落としの役割を果たし、彼等は頭上から矢や落下物、さらには魔法によって攻撃を受けてかなりの痛手を負った。
その後、認識を改めて本気でそこを陥落させようとするが、矢は柵の存在と位置の問題もあってなかなか当たらず、直接柵内に侵入して叩こうにも、そこに至るまでには急な階段ひとつしかないのでなかなか攻め切れない。
本当であれば別の道を探したりできれば良かったのだが、天守まで到達するにはこの道を通らざるを得ないので大樹と二国の兵士達は勢いを殺されて完全に立ち往生してしまった。
その間も攻防は続くが、死者や負傷者は明らかに大樹達の方が多い。
それを見かねたサヴルムの指揮官が、
「魔法で門扉を破壊できませんか?」
と、大樹に尋ねた。
それは彼も考えたが、彼等が今戦っている場所はかなり狭く、もしここで嵐魔法を放って石垣なんかを崩してしまったら、その残骸がサヴルム兵とサカノ兵を押しつぶしてしまう。だからと言って、登城道を引き返して敵に背を向ける事は逆に危険に晒される事になり、仮に少し離れた所へと戻って改めて嵐魔法を放っても今度は遠すぎて門に命中しなくなるだろう。
そのため彼は、
「あの大きさの扉を破壊するとなると魔法の威力を上げなければなりません。その魔法によって石垣とその中に詰まっている砂礫、さらには門を構築している木材が崩れて来た場合、こちらが生き埋めになってしまいます」
と、その旨を伝えると、
「ならば火矢しかありませんな、そちらも木材が焼け落ちてくる可能性がありますが、石垣ごと崩れてくるよりは遥かにマシだ。あなたは魔法で焼け落ちてくる木材の対処をお願いします」
と、その指揮官は言い、二国の軍は一斉に火矢を射掛けた。
ヒースコートは一応火の対策もしており、柵に使っている木は燃えにくいよう水分を多く含む物を選び、扉には防火加工を施していたが、あまりにも矢が多いため流石に所々燃え始める。その燃えた箇所を落として敵にぶつけるように仲間に指示を出すと、彼はまた新たな柵や扉を魔法で生成した。
大樹も風魔法で落ちてくる柵や、倒れてくる扉から味方を守る。
ヒースコートは魔力では大樹に勝てない事を悟りながらも、
(私は魔力を使い切ってしまうかもしれんが、敵も矢をかなり消費するはずだ。矢が無くなりさえすれば、水堀によってしばらく城を守る事ができるだろう)
と、考えておりしばらくそれを続けて行く。
結果的に彼の魔力が尽きた直後に、二国の軍の矢も尽きた。
ただ、手がつけられないほど柵と扉に火が回ってしまったため、ヒースコート達は門を放棄せざるを得なくなった。
しかし、柵内には投擲できるものは既に無く、騎士団メンバーの魔力はヒースコートよりも先に尽きていたので、彼等が取れる手段はもう白兵戦しか残っておらず、放棄するタイミングとしては丁度いいだろう。
騎士達は燃え盛る柵を敵目掛けて蹴倒してスロープを作ると、剣や槍を以って敵へと突撃をかけて行った。
柵は一斉に倒れてきたため、大樹は即座に対処する事が出来ず、サヴルム兵が多数下敷きになった。
が、それに怯む事なく二国の軍も剣や槍で騎士達の猛攻に応戦する。
結果、騎士団の戦士達は刺突や斬撃を受けてもそのまま構わず前進し、敵に攻撃を加えるという戦い方をして敵を全体の三割近く倒す事に成功するも、全員死亡した。
騎士団長ヒースコート・エリオットも、この戦いだけで一人で百二十人は斬ったが、腕を貫かれて剣を落としたところを、数人の槍に貫かれて瀕死に陥る。
その時、数人が彼の心臓が停止した事を確認したが、その後二分ほどして彼は息を吹き返し再び立ち上がった。
それを見た一人のサヴルム兵が、
「まだ、生きていたのか!?」
と、驚きながらもトドメを刺しに彼の方へと駆けて行く。
彼は既に使い物にならない右腕を犠牲にして兵士の斬撃を受け止めると、逆の腕で兵士の首を絞め上げ、その状態のまま内堀まで駆けて行くと、そこに飛び込んだ。
ヒースコートは、そのままサヴルム兵と共に水中へと沈んで行き、その後浮上して来る事は無かった。
二の丸にいた騎士団はこれで全滅したが、死傷者数は遥かにサヴルムとサカノの兵の方が多かったので、二国の軍はどうにも勝った気がしなかった。
そのため、
「これ以上は戦いたくない」
「一時撤退した方がいいのでは」
という声がその場を支配した。
しかし、ここまで来て跳ね橋まで辿り着かないというのも、消えて行った味方に顔向けできないという気持ちも兵達には僅かに残っている。
結局、大樹達は少し休んだ後、燃え盛る櫓門の残骸の横を通り抜けて天守へゆっくりと向かって行った。




