表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/24

21

誤字修正しました。

 ラヴィスヴィーパの王城、アトモ・フィリオ城は五百年以上前の築城当初は土橋が三本かかっており、そこから水堀を渡って城内に入れるようになっていたが、ここ最近はあまりにも人手不足が深刻なので、その内の二本は崩されて一箇所からしか侵入できなくなっている。

 そこを渡ると、矢や弾丸を撃つのに便利な枡形虎口と登城道を形成している石垣ですら人手不足で若干機能を失っている二の丸があり、そこから跳ね橋を使って内堀を渡ると本丸にたどり着く。ここは築城当初は城主や家臣が普段住む住居や、沢山の倉庫、煌びやかで巨大な天守があったが、住居はほぼ全て整備不足で倒壊しており、倉庫も全盛期の半分くらいしかなく、唯一無事な天守もこの日は民間人を地下通路から逃すという作戦で賑わったものの、普段はレックスと騎士団の面々、少数の使用人くらいしかいないのでガラガラである。

「本当に良かったのでしょうか、民間人の中に敵が紛れていていた場合はこの城に火をかけられるかもしれませんぞ」

 玉座にいる王レックス・ノスアーティクルにヒースコートはそう言った。

 レックスは先程まで自ら地下通路の案内をする雑用係を指揮していたが、今は

「居るべき場所に居よう」

 と言ってここへ来ていた。

「民衆の起こした火で燃えるなら、経年劣化で崩れ去るよりはマシだ。全く使われないよりは、ストレスの解消にもなろう」

 彼はヒースコートにそう答える。

「しかし、私は悲しくてなりません。その民衆のためを思って行動を起こして来た王家に向かって弓を引こうする者が居ようとは…」

「いや、私は無能でしかないよ。先程、ウォーベック将軍と騎士団の一部を自ら死地へと向かわせてしまった。危なくなったら退けとは言い含めているが、彼女達の性格を考えると足止めするために最期まで戦ってしまうだろう。そして、今は君をそこへ向かわせようとしている」

 そう言うと涙を流しつつ、重ねて

「城に逃げ込んだ民衆が逃げるだけの時間を稼いでくれ。ただ、危なくなったら退いてくれて構わない。本丸の跳ね橋をあげてしまえば少しくらいは君達騎士団が逃げるだけの時間も稼げるはずだ」

 と言った。

 敵の中に伝説に聞く風の神やレックス自身に匹敵する程の魔法使いがいるという事は逃げてくる民間人を通じて既に二人とも確認済みである。

 ヒースコートや騎士団の一部の者も魔法は使えるが、比較的魔力が多いヒースコートが使う事が出来るのは戦闘にはさほど向かない植物属性の魔法であり、騎士団員は攻撃に適した属性を持っている者が多かったが、逆に軒並み持っている魔力が低かった。さらに、武器も骨董品しかなく、何より騎士団は残り千人と少ししかいないのに、敵は一万を超える兵数を残しているのでとても勝てないだろう。なんなら瞬く間に皆殺しにされるかもしれない。

 しかし、

「心得ました、敵を迎え撃って参ります」

 と言ってヒースコートは玉座の前から去って行った。

 彼はレックスに言われずとも、その意を汲んで民衆が逃げ果せるだけの時間を稼ぐつもりであった。

 しかし、残りの騎士団のメンバーは彼と志を共にするかどうか分からない。

 先程、レナと共に城外へ出て行くメンバーを選出した際は我れ先にと志願していたので、その中の八百人を出撃させたが、彼女達の敗北を知って心変わりをした者がいるかもしれない。

 そのため彼は騎士団のメンバーに

「残って戦いたい者は私のところに集まってくれ、それ以外の者は民衆の誘導を頼む」

 と、言った。

 民衆の誘導というもっともらしい役割を与えて、命が惜しい者には逃げて貰おうという配慮である。

 しかし、騎士団のメンバーは全員ヒースコートの元へと集まって来た。

「本当に私と共に戦ってくれるのか?」

 念を押して再度確認する。

 すると、

「貴方だけじゃない、貴方や王と共に戦うことに決めました」

「民衆を守りたいという王の願いを叶えなければ、死んでも死に切れない」

「次逃げろだなんて言ったら、貴方が作っていたポエムを逃げる民間人に持たせて、それを他国に広めて貰うように言いますよ」

 などと、次々と騎士団から声が挙がる。

「済まない」

 小さくそう呟くと、

「行くぞ」

 と、言ってヒースコートは騎士団を引き連れて二の丸へと向かって行った。


 ジャックと大樹、そしてサヴルムとサカノの二国の軍はズカズカと土橋を渡り始めた。

 本来ならここをこんな具合に通っていれば弓矢や投石機、魔法のいい的になってしまうのだが、それらは全て大樹の風魔法とジャックの水魔法で対処できる上に、飛んでくる石や矢、魔法の数も少ないため、何ら問題無かった。

 しかし、土橋の半分、土色の道から芝生に変わった辺りまで進んで来たところで、先行していたサカノの騎兵達がバタバタと倒れ出した。

(どういうことだ? 矢は飛んで来ていないはずだが)

 答えはすぐに分かった。

 芝生だと思っていたそれは全て薔薇の茎だったのである。

 おそらく棘に毒が塗ってあり、それが即座に馬の体内に回ったことによって騎兵達は倒れたのであろう。これだけの規模の薔薇を展開し、更には毒を混ぜているとなると敵方に腕の良い魔法使いがいるとしか考えられないだろう。

(普遍的な魔法使いに混じって結構な腕の奴がいるな)

 ジャックはそう思ったが、絡繰が分かってしまえばこの程度の事は対処できる。

 彼はまずその茎に水魔法の水分を吸わせる事によって、全体に自分の魔力を行き渡らせ、茎の隅々までジャックの魔力が浸透したところで、そこから全ての水分を抜き取った。

 当然、茎は全て干からびる。

 そこに火をかけさせ、大樹の風魔法でその火を煽る事によって全て焼き尽くした。

 十分と少しで茎は全て燃えたため、ジャック達は再び進み始める。

 彼はそこを進んでいる途中で、

「嵐魔法で目の前の入り口を破壊してくれ。できれば奥の壁も貫く勢いで」

 と、大樹に言った。

 すると彼は

 〈雷と 水と風とが 入り混じる 嵐の(やじり) 城を貫く〉

 と唱えて、以前廃屋を破壊した時よりも遥かに巨大な魔法を虎口へと向けて発射した。

 魔法は枡形虎口を形成している城壁を粉々に崩し、本丸にある住居跡や倉庫跡を巻き込みつつ、さらに裏手側にある城壁を突き破って進んで行った。

 この魔法によって虎口の機能とそこに仕掛けてあった植物魔法のトラップは、完全に無力化されてしまっている。さらに、城壁の上から矢や投石、更には魔法によって攻撃していた騎士団のメンバーも多数死んでしまった。

(なんて連中だ…)

 これには、二の丸のとある石垣の上でその魔法を見ていたヒースコートもそう思わざるを得ない。

 難なくジャック達は二の丸へと侵入を成功させると、登城道を一直線に進行して行った。

 しかし、ここまで入ってしまえばショートカットをして城内へと侵入できるジャックは、

「俺は先行して城内へと侵入しておく。お前達はできるだけヒースコートを足止めしておいてくれ。その間に俺が王を片付けてくる」

 と大樹と二国の軍の指揮官に伝えると、水魔法をジェット噴射させて石垣や内堀を飛び越えて、単身で城内へと入って行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ