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大樹はアドリアーナとベラ、さらには近所のドムスに住んでいる富裕層を自分達が生活しているドムスに匿って一人で必死に軍隊と戦っていた。
軍隊は街中にある高級なインスラから金品を強奪するだけでは飽き足らず、その外縁を囲っている高級住宅街にも目をつけたのである。
大樹はジャックに唆されてここまで来ていたが、正直なところ王や将軍に敵意を持ったことなどなく、五人で楽しく暮らせればそれでいいと思っていた。しかし、彼は城の内情を知らないので、そこに住んでいる人間は、今彼が守っているケチだったりズルかったりするもののそれほど悪い人間ではない富裕層から軍隊を使って金品を巻き上げようとしたり、何より自分達の居場所を脅かそうとしてくる敵であると認識し始めている。
ただ、この国の軍は入隊すれば合法的に暴力を振るう事ができるようになる組織という認識になっているためいかんせん人数が多く、幾ら膨大な魔力と多彩な魔法があろうとも一人で捌ききるのは流石にキツい。
その上、虎の子の嵐魔法は威力を上昇させれば一度に大勢の敵を倒す事が出来るが、そうするとコントロールが難しくなるので、この状況では守るべきドムスを巻き込みかねない。なので、使うのであれば威力を弱めざるを得なかった。
一応、大樹も風と水の魔法で廃墟となっているドムスを崩して道を塞いだり、水魔法で狭隘なところへと誘導したところをギリギリコントロール出来る位に威力を調節した嵐魔法で一網打尽にしてみたりと、自身に様々な制限が掛かっている分戦い方を工夫してはいるが、敵は次から次へと湯水のように湧いてくるのである。とりわけ、たまに出てくる銃を持った敵が厄介で、その敵が見えるたびに一旦物陰に隠れて反撃しなければならない。
「せめてジャックかアイラがいてくれれば…」
次第に弱音が出て来た。
ちなみにジャックは既に到着しており、少し離れたところで大樹の戦いっぷりを見ながら、どのタイミングで助太刀に入るかを伺っているところだったが、アイラはドムスに向かってはいるものの、およそ二分毎に暴漢の集団に襲われており、その度にフリントロックピストルや物陰を使って撒かなければならないため進みあぐねていた。それどころか、暴漢から逃げるにあたって進行方向とは逆方向に逃げなければならない事もあるのでドムスからは逆に遠ざかってしまっている。
そう呟く間も敵の集団は徐々に迫って来ており、とうとう剣を抜いて対応せざるを得ないということも増えて来た。
(全力で嵐魔法を撃ってこの辺一帯を敵ごと更地にするか…いや、あれは本来仲間や自分に被害が及ばないところから撃たなければならない魔法だ。ここでは、ベラ達が巻き込まれる)
余裕がなくなりその程度の判断も咄嗟にできなくなっていたからか、二人ほど撃ち漏らしてドムスの入り口へと向かう事を許してしまった。
(まずい!!)
と思って雷魔法で迎撃しようにも、ここから撃ったらベラ達がいるドムスに当たる。
(終わった…)
彼の心に突如絶望が現れて、それが急速に広がり始めるが、それを洗い流すかのように水の塊が飛来してその軍人二人を吹き飛ばした。
「丁度良いタイミングだったようだな、タイジュ」
そう呼ばれて、大樹が水が飛んで来た方向を確認すると馬に乗ったジャックがそこにいた。
「いや、少し遅いですよ」
少し安心して大樹はそう言った。
「俺が敵の足止めをする。お前はドムスの裏の壁を破壊して連中を町の外に逃せ」
そう言うとジャックは、先程倒した敵を体内の水分を操作することによって操ったり、地面を液状化させてそこに敵を沈めたり、水流で敵を切り裂いたりして戦い始めたため、大樹はドムスの中へと入って行った。
玄関広間から中庭横の列柱廊を抜けて小部屋に入り、そこから裏庭に出るとそこの壁を嵐魔法で破壊して穴を作り、富豪達をそこから出して行く。
しかし、出た先は街道であり、まだ町は抜け出せていない。
一行は向かいにあったドムスへと入ると、再度同じ方法で直進した。
それを繰り返し、最短ルートで町の外へと向かって行く。
途中、盗賊や軍人が入り込んでいるドムスが何軒かあったが、そういった場合は大樹が雷魔法で倒した。
そうこうしているうちに一行は町から出る事ができた。
辺りは普段は暗い草原だが、この日は街中で燃えているインスラが灯台の役割を果たすので、夜道と言えども比較的安全に歩く事ができるだろう。
「町は危険です。だから、二人も彼等について行ってください」
大樹はアドリアーナとベラにそう言ったが、二人は首を縦には降らない。
ベラは単純に大樹から離れたくない故の反応だが、アドリアーナは戦闘力を持たない富豪達と同行するよりも町にいた方が安全ではないかと考えていた。
しかし、大樹からしてみたらどちらも同じである。
「困ったな…」
そう呟いたが、それは富豪の集の内の一人の女性の悲鳴によってかき消された。
「どうしました?」
大樹はその女性に尋ねる。
「子供がいないんです。どこかで逸れたのかもしれません」
(自分の子供の手くらい握っていろよ)
とは大樹は思わなかった。
思う前に引き返し始めており
「僕が探して来ますので先に逃げていてください」
という言葉を残して駆け出している。
ベラとアドリアーナもそれを追って行く。
三人は来た道をそのまま引き返し、とうとう一番最初のドムスまで戻って来てしまったが、その子供らしき人物は見つけることはできなかった。
その外で、あらかた軍人を倒し終え、瓦礫に腰をかけて休憩しているジャックに尋ねても子供は見ていないとのことであった。
(どこかで脇道に逸れたのか?)
大樹は周りの様子をよく見ていなかった事を悔やんだ。




