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文が変だった箇所を見つけたので、少し修正しました。
ジャックは彼を警戒しているアドリアーナの目を度々盗んで、偵察を担当しているアイラと二人きりで会って報告を聞いていた。
報告を聞くのに使っていたのは、どこか品行方正な大樹やまだ子供の域を抜けていないアドリアーナとベラが来る事がないであろう違法賭博場の二階である。
しかし、この日そこへ向かうと騎士団によってそこは閉鎖されていたため、止むを得ずそこから少し離れた茶店に移動した。
そこまで人気がある店では無いらしく、店内に客は彼等しかいない。
「今回報告する事はもう見たと思うけど、騎士団の事だよ。まさかこんなに早く嗅ぎつけて来るとはね。ただ、まだ私達が謀をしているとは気づいていないみたいだね。工場内にあった武器はほとんどアトモ・フィリオへと持ち出した後だし、騎士団がこの町に来た時点で工場内にあった物は全部地面に埋めるようにルドルフォが指揮を執っていたから、場所が割れても部屋が広く造られているインスラにしか見えないはずだよ」
と、茶を啜りつつアイラは話し始める。
「アトモ・フィリオの警備はどうだ? 相変わらず厳重か?」
「港周辺は結構厳重だったよ。銃ってのは使い方によってはあなたの魔法よりも厄介だから入ってこないようにしているのかもね」
「それもあるだろうが、真の狙いは銃を取引している者を炙り出すためだろうな。大方、廃墟に武器を運び込むところが見つかったんだろう。が、現在でもアトモ・フィリオは投機目的のインスラを乱立させているから隠し場所には困らん。せいぜい二千人程度の騎士団が足掻いたところでどうにかなる訳でもない」
と、ジャックが言ったところで一人客が入って来た。
その客は剣を背負っているところを見ると戦士らしいが、短身な上に腕も細いため騎士団の一員には見えない。しかし、見た目では正確な判断はしかねるので、
「これからどうしようか?」
と、アイラは話を畳み掛けた。
「アトモ・フィリオにでも行こうか」
ジャックはそう答え、茶を啜った。
その後、二人はもう二、三杯茶を喫しつつ菓子を食べた後、店を後にした。
大人数での大移動は騎士団が出張って来た以上、深夜に行ったとしても無理があるのでルドルフォ達工場の仲間とは一旦別れて、当初の五人でアトモ・フィリオへと向かうことになった。
アトモ・フィリオへと到着する前に、アイラは
「寝泊まりできそうな場所を探して来る」
と、言って先行して町へと入っていった。
ただ、空き家などは掃いて捨てるほどあるので、実際は騎士団の警戒が厳しい地域について探るためと言っていいだろう。
結果、インスラ周辺よりはむしろドムスが乱立している地域の方がザル警備であることが分かったので、一行はそちらへと向かった。
(なるほど、いい場所だ)
ジャックは到着した途端にそう思った。
この周辺に住んでいる者は富裕層が多く、彼等は軍に賄賂を渡して私兵のように扱っている。その軍人達が奴隷が押し寄せて来た時の為の盾となっていた。彼等は賄賂で簡単に動く人間なので裏切りやすいというデメリットもあるが、利で動くため扱いやすい。
さらに、将軍レナ・ウォーベック以外の軍人は騎士団を目の敵にしているため、自然彼等がこの地域にやって来ることも少なかった。
ただ、
(騎士団も俺達がそういった背景を利用してくる事は読んでいる筈だ。早々に反乱を起こす必要があるだろうな)
とも考えていた。
荷物を大方降ろし終えると、アイラは
「少し周辺に何があるのか見てくる。何か良さそうな食べ物屋さんがあったら、アドリアーナちゃんとベラちゃんにお土産も買って来るね」
と言って出て行ったので、ジャックもそれに乗じて
「俺もその辺を歩いて来る」
と出て行こうとしたら、アドリアーナが
「あたしもジャックについて行く」
と言いだしたので止む無く中断した。
それからしばらく経って、大樹が
「ジャック、二人を連れて外を散策して来たいんだけど良いですか?」
と尋ねた。
「分かった。なら俺は荷物番をしておこう」
と、彼は答える。
無論、半分嘘で半分本当のつもりである。
彼はドムスの入り口や窓に水の壁を展開して荷物番とし、自身は知人の船頭に港を警邏している騎士団や、武器の輸出入についての近況を聞きに行くつもりだった。
しかし、
「私はジャックといるから二人で行ってきなよ」
とアドリアーナが提案し、結局、大樹はベラと二人でアトモ・フィリオの散策に行く事になった。
「残念だね、ジャック。思い通りに動けなくて」
と、彼女は微笑しながら、やる事がなくなったので仕方なく剣の手入れをし始めた彼に言った。
「クソ小娘め、アイラやタイジュは放置しておいて俺ばかりに注意を払いおって。覚えていろよ」
と彼も苦笑しながら返した。
彼女があまりにも警戒して来るので、彼はいささか彼女に対しては取り繕わなくなって来ている。
無論、彼女も全くアイラに警戒していないわけではないだろうが、同時に二人を警戒する事は出来ないのでより危険だと思った方を監視しているのだろう。
(レックスや騎士団よりも厄介な奴だな)
彼はそう思っているが、同時にアイラとの関係に近い友情を彼女に感じていた。
大樹とベラの散策はかなり忙しない物になっていた。
彼等が向かう先々でおよそ三十分毎に暴漢に襲われている女性と遭遇するのである。
その度に、大樹は止めに入って暴漢達を撃退していた。
助けた女性からは確実に好かれる上に、ベラからの好感度も上がるのでそこまで悪い気はしていないが、
(流石におかしくないか?)
と、徐々に自身の『魅了』の能力に気付き始めている。
彼はこの世界に移転して来る前にも、何度か電車内で痴漢を取り押さえて駅員に引き渡したりしたが、当時助けた女性からの反応は感謝こそされどかなり淡白なものだった。むしろ、事情を聞こうと犯人と女性を事務所まで連れて行く警察や駅員の方に尊敬の眼差しが送られていたような気さえする。
(よほど人助けが珍しいのだろうか? いや、それにしてはまるで神の如き扱いだからな…)
と考え始めたが、深く考える前に次の悲鳴が聞こえた。
「またか…ベラ、行きましょう」
と言ってベラを連れて悲鳴が聞こえた方へと駆けて行く。
今回は襲っている方も、襲われている方もなかなかの大人数だった。
敵味方入り混じっている為、暴漢全員を一網打尽にするような魔法は使えない。
その為、一人ずつ地道に風、水、雷の魔法を駆使して倒して行く。
が、撃ち漏らした敵が数人刃物を持って彼へと接近して来た。
ただ、他人を襲っているのであれば誤射の危険性があるので狙い難いが、自分を狙って来る場合はその心配はない。
一気に膝の高さくらいはあろうかというほどの流水を勢いよく地面へ走らせて、その敵達を転倒させた。
敵一行は、無詠唱で数種類の魔法を使う大樹に分の悪さを感じて退いて行く。
すると、襲われていた集団のリーダーらしき女性が
「ありがとうございます。実は我々は小さな劇団をしておりまして、今回助けて頂いたお礼にそれを披露したく存じますが、如何でしょうか」
と彼に提案してきた。
大樹は深く考えることも無く
「分かりました。仲間も喜ぶと思います」
と、承諾して自分達が潜伏しているドムスへと案内した。
彼等が戻るとジャックは、
(騎士団に怪しまれていないだろうな…何なら彼女達が向こうの密偵だとも考えられる)
と、肝を冷やしたが、落ち着いて観察してみるとそのような様子は無く、且つ
(これは暴動の着火剤にできるかもな)
とも考えたので
「俺も作劇はかじっているから、貴女方がどんなものを行うか少し興味がある。是非、お願いしたい。ただ、もう一人仲間がいるんだがその連れが戻るまで待ってて貰っても構わないか? その間に俺はこの近くに住んでいる者達に宣伝をして来よう。人は多い方が良いだろう?」
と言ってアドリアーナを連れて、周囲に呼びかけに行った。
無論、周辺住民の信頼を得て隠れやすい環境を作る事が目的だが、彼と同行しているアドリアーナは訝しんではいるものの、彼の真意については分からない。




