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「城下で怪しい動きが御座います。何やら廃墟となっているインスラの周辺をウロウロとしている集団がおりまして、真偽の程は分かりませんが武器が運ばれていたという目撃証言もあります。騎士団は只今その警戒をしております。人目につかない場所での密会に武器という事は騒動を企てている集団がいるのやも知れませんな」

 という報告を騎士団長ヒースコート・エリオットから受けて、ラヴィスヴィーパ王国の国王、レックス・ノスアーティクルは溜息を吐いた。

 ここにきて心労がまた一つ増えたので、溜息が出るのも無理はないだろう。

(ノスアーティクルの家訓である善政をひたむきにやって来たつもりだが、流石にどうにもならなくなってきているな)

 というのが彼の最近の専らの悩みの種である。

 彼は税を二公八民程度にして、不足分は王自らが立ち上げた団体が品種改良を進めた作物を輸出して補うという方針を取っているが、それでも脱税をする富裕層が後を絶たない上に、作物の方も奴隷に盗まれたり、交易で得た収入を役人が中抜きしたりと散々な結果であった。

 そのため彼は、その少ない税収を城の修繕費を節約したりなどをして補い、民間が無計画に乱立させて崩壊寸前になっているインスラの解体費に充てたり、道路の補修費に充てたりしているが、どうやりくりしても足りていない。

 本来なら脱税等を取り締まる事が出来れば一番良かったが、それらを取り締まるべき軍隊は富裕層に買収されているため、この国の治安は全て人数が少ない王家の騎士団に委ねられているというのが現状であった。

「せめて、昔の貴族が残っていてくれたらもっと楽だったのかもしれんな」

 そう呟くが、かつての貴族はこの国にはもういない。

 当時の貴族は王と協力し、私財を使ってまで国を支えてくれたらしいが、当時からこの国の民度はろくなものではなかったので、あまりにも彼らの事を不憫に思った百五十年程前の王が親交があったカストゥルム国に彼らを逃がしてしまったという経緯があり、蒸気船などを製造する技術もその際に流失してこの国からは失われている。

 結果、今の富裕層は元々平民や貧民だった者が成り上がったという層が大半であった。

「まだ、我々がいます。気を落とさないでください」

 とヒースコートはレックスを慰めるが、彼等騎士団も元々この国出身の先祖を持つ人間は少ない。

 彼等の先祖は風の神と共に海の向こうの大陸から渡って来た戦士達の末裔であるが、その戦士達はサカノ国が攻めて来た際は、元々この国にあった軍隊以上に勇敢に戦ったという話が王家には伝わっている。無論、この話は国民の間では浸透せず消えてしまっているが、その話云々を抜きにして戦士達の系譜は優秀な者が多かったので王家の騎士団では率先してスカウトしていた。

 ヒースコートに励まされた事によって、レックスは

「そうだな。今必要な事は事前に挙兵を抑えて町を争乱に巻き込まない事だ」

 と気を取り直し、

「話し合いをする前に一応、ウォーベック将軍を連れて来てくれ」

 と指示を出した。

「分かりました。暫し、お待ちください」

 そう言ってヒースコートは退出し、しばらくすると将軍レナ・ウォーベックを連れて戻って来た。

 彼女レナは一応軍の頭領ではあるが、この国の軍人は訓練や治安の維持よりもどちらかと言えば富裕層に媚びを売る事が仕事になっており、誰も彼女の指示を聞いてくれないので、正直この場に呼んでもあまり意味はない。

 そんな事はレックスもヒースコートもレナ自身も分かってはいたが、いないよりはマシだろうという事で二人は彼女を呼んでいる。

 その事を自虐するかのように、

「呼んでくれたのは嬉しいですが、正直、私に相談するよりもどこかの山賊の頭に金銭を渡して話を聞いて貰う方が有意義だと思いますよ」

 と、死んだような目をしながらレナは言った。

「そんな悲しい事を言わないでくれ…」

 と、自身も悲哀に満ちた声色でレックスが言う。

「ウォーベック殿、先程せっかく王が前向きになったのに、また元に戻さないでくだされ」

 ヒースコートは彼女をそう注意すると、

「ウォーベック将軍も加わった事ですし、改めて不審な集団の説明を致します」

 と、言って話を戻した。

 彼は再び先ほどの説明を、今度は騎士団にどの地域のインスラを重点的に警戒させているかなどの説明を加えながら話始めた。

 一通り聞き終わるとレナは

「それなら私は軍を招集してさらに広範囲の警戒をするように言ってみますが、そちらについてはあまり期待しないで下さい」

 と言った後、重ねて

「インスラだけでなく、放棄されたドムスなんかも監視した方がいいですね。城からやや離れた場所にあるし、数も多いので犯罪に使うにはもってこいですし」

 と、言った。

 ドムスというのは富裕層の邸宅であり、内向きに開けた平屋の建物である。

 それは、城や平民、貧民が住んでいる地域をぐるりと囲むように位置しており、かなりの数があった。

 その中には百五十年以上前にこの国にいた貴族が当時の技術で建てて、現在も使用に耐え得るというものもいくつかはあるが、大半が一代で成って一代で消えた富裕層の物であり、それらは現在廃墟になっている。

 勿論一代では消えず、現在も稼働し続けているドムスも数あるが、それは例えるならば廃墟の海に島となって浮かんでいると言っても過言ではないというような状況であった。百年以上時間があればそれだけ成功と失敗の数もあり、成功を維持するよりは途中で消えてしまう方が多いので無理もないだろう。

「しかし、範囲がかなり広くなるな…」

 と、レックスは呟く。

「そう考えると、やはり大元を抑えるのが一番良いですな」

 ヒースコートがそう言った後、三人はしばらく黙ってしまった。

 大元の心当たりがなかったのである。

 武器が運ばれたという情報から、武器の生産や販売を請け負っている工場が絡んでいるという可能性には三人も気づいていたが、そういった組織は何かしらのカモフラージュをしているため特定し難い。

 騎士団や軍は予算がないのでそういった団体に頼らず、昔の武具を使い回すという方針を取っているためヒースコートやレナですらそういった団体については疎かった。

 が、しばらくしてレックスが

「銃は今のところガル国で生産された物を船で運んで来る以外は入手できない。それを陸路に乗せるとしたらアトモ・フィリオじゃなくサリスに拠点があるのかもな」

 という意見を出した。

 ちなみにガルとはカストゥルムのやや南東にある国であり、古くから良質な剣、槍、棍の生産地だったが、最近火薬が開発されてからは銃も生産している。

 ともかく、レックスの意見によって今後の方針は少し修正され、しばらくはインスラよりもアトモ・フィリオの港とサリスを重点的に警戒する事になった。

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