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君に告白

作者: ひな

「朝倉、俺と付き合わない?」

 放課後に突然「こっち」と手を引っ張られ非常階段でそう言ったのは、クラス1人気者の柊木君だった。

「え? え?  あ、あたし?」

 自分を指さすあたしに柊木君は「他に誰がいるんだよ」とそっぽ向く。その横顔が赤くて、こっちまでその赤に染まってしまいそう……。

「で、返事は?」

「え? あ、……はい」

 思わずそう口にすると、柊木君は二カッと太陽みたいに笑う。だからあたしもつられて笑ってしまった。

「柊木ー、部活始まっぞー」

 ここが非常階段だから、下から彼だけ見えたんだと思う。彼を呼ぶ声に、柊木君は手すりから下を見て「おう!」と答えると、またあたしを振り返り「じゃ、またな」と走っていってしまった。

「……え?」

 またな、とはどういう意味なんだろう?

そもそも付き合う? ってなに? またなってどういうこと? と、あたしの頭の中は混乱するばかり。

 今から部活、なんだよね? 彼はサッカー部であたしは園芸部。まるで接点が無いのに、『またな』?

「……からかわれた、のかな?」

 そう考えると全部納得できる。きっと部活のみんなに言われて、なんかの罰ゲームであたしに告白、とか……。

 そう考えるとなんだかみじめになってきて、あたしは帰ることにした。

 だってよく考えたら柊木君の電話番号も知らない。メアドも知らなければ連絡の取りようもない。それで「付き合う」なんて無理に決まってる。

「でも、ひどいよ……」

 あたしはちょっとだけ、彼に憧れていた。だってクラスでも人気者でサッカー部ではエース。去年は一年ながらもスタメンで全国大会にまででたんだから。

 それに彼は忘れちゃったのかもしれないけど、あの雨の日──。

「あ、急がなきゃ」

 時計を見て、あたしは足を動かした。

 キラキラな彼に比べて、あたしはフツーの女の子。特徴のない顔にクルクルしてるくせ毛が大嫌いで髪型はいつもお団子。勉強がすごく出来るわけでもなければ、運動神経ご抜群、というわけでもない。何もかもフツーで、彼と釣り合わないことくらいちゃんと分かってる。

「忘れよう」

 そう呟いてあたしは走り出した。


「あ、カスミ! これ手伝ってくれる?」

 家に帰るなりママにそう言われて、急いでエプロンを身に着けた。

 うちは『カラフルデイズ』という花屋だ。花屋は見た目よりかなりハードなお仕事だ。お水の入った入れ物は重たいし、植木鉢だって相当も重い。土や水ばかり触ってるから、手はいつだって荒れ放題。

 それでもあたしはこの仕事が、嫌いじゃない。

「わ、このお花キレイ!」

「でしょ? 紫陽花の新種なの。名前はなんだったかなぁ」

 小さな花が集まって、その色がグラデーションしてる。

「ようこそ、カラフルデイズへ」

 そう言って、そのお花を店頭に飾ってあげた。花を見ると、気持ちが優しくなれる。だから、こんなしんどいお仕事たけど、あたしら店の手伝いをするのが嫌いじゃなかった。

 だけど、夜になって思い出してしまった。

 彼は、なんであたしに言ったんだろう? 別にあたしじゃなくても……。

 あたしなら、傷つかないとでも思われたのかなぁ。

 少しでも浮かれた自分が悲しくて、お布団の中で泣いてしまった。


 次の日もいつも通りに学校へ行く。だって休んだりしたらママが心配するから。

 教室に入って、ちょっと戸惑った。

 柊木君がいた。

 当たり前なんだけど、昨日のことがあって目が合わせられない。

「なぁ、朝く──」

「ね、ねえ、佳苗ちゃん、昨日の宿題ちょっと教えてもらってもいい?」

 目があって、声をかけられそうになって、あたしは慌てて近くにいた友達に話しかけた。

「えー、カスミが見せてなんて珍しいー!」

「そ、そうかな?」

 佳苗ちゃんと話してたら、柊木君は柊木君で友達に呼ばれてどっか行ってしまった。

 もしかしたら、『昨日のはナシだから』とか言うつもりだったんだろうか? それをみんなの前で言うなんて悲しすぎるから、このまま忘れてくれたらいいのに。

 そう思ってたのに。

「朝倉、それ半分持つから」

「え? や、だ、大丈──」

「女の子には無理」

 今日に限って日直で、しかも大量のプリントを渡されてしまった。そんなところでばったり柊木君とであってしまって、こんなことに……。

「……」

 だからって断らきれないし、確かに多いからすっごく助かるし、でも何話していいか分かんないし……。

「あ、あのね?」

「うん」

「えと、手伝ってくれてありがと……」

 ここで楽しい会話の一つも出来ればいいのだけど、これがあたしの精一杯。だったのに、柊木君は二カッと笑って「おう!」なんて答えてくれた。その笑顔は反則だよぉ……。

「ってかさ、もっと手伝ってアピールしろよ。朝倉は女の子なんだし、この量は無理だろ?」

「や……、なんとかなるかなって」

 それに放課後なのに誰かに手伝ってもらうとかなんか悪いし、と小さくいうと柊木君は「朝倉らしいな」と言って笑った。

 そのあとまた小さな沈黙になって、話題を考えてたら柊木君が「あのさ」と話しかけてきた。

「昨日の、さ……」

「うん……」

 あぁ、やっぱり忘れてって言われるんだ……。

「なんで先に帰ったの?」

「え?」

 驚いて足を止めると、同じように柊木君も止まった。

「俺、探したじゃん」

「や、だって……」

 あれって、からかったんじゃなくて? 『またな』って部活終わるまで待っててって意味!?

 混乱しっぱなしで、何も言えないあたしに柊木君は「ま、遅くなるし仕方ないか」なんて言ってる。

「あ、ってか、もしかして朝倉、家の手伝いやってたとか?」

「あ、うん」

 あれ? あたし、柊木君に家が花屋だって言ったっけ?

「だよな? うっわー! 俺めっちゃわがまま言ってんじゃん! ごめん!」

「ううん、そんなこと……」

「じゃさ、これ置いたら電話番号教えて?」

「あ、うん……」

 そう答えると、柊木君は「やりぃ!」と嬉しそうに笑った。

 あれ? これって本当にあたしって柊木君と、カレカノ、なの? うそ!? ホントに!?

「朝倉ぁ、なに顔に赤くしてんの? 早くこれ持ってこー」

「う、うんっ」

 赤くもなるでしょ!? だって、あたしと柊木君が──。


 その日の夜、ちゃんと柊木君から電話があった。

「もう寝てた?」

「さ、さすがに起きてるよ」

「だよな?」

 電話の向こう側で笑う柊木君の声が、凄くくすぐったい。

 もうテンパってずっと心臓はドンドンと太鼓の達人状態で、何を話したかなんて全然覚えてない。けど、電話終わって頬の筋肉が痛くて、あたしはずっと笑ってたんだって後から気がついた。

「おはよー、朝倉!」

「お、おはよ、柊木君」

 次の日は挨拶も出来た。今までもたまに目が合えば挨拶くらいしたけど、なんか意識してうまく言えない。

「な、昨日の宿題の話してたやつ、教えてよ」

「いいよ、あれはね……」

 カレカノがどういうものか、よくわかんない。けど、あたしと柊木君は話すことがたくさん増えた。

 柊木君は数学が苦手、対してあたしは英語が苦手で、お互いに教えあったり、二人共分からないときは一緒に図書室行ったりもした。

「俺はさ、サッカーで世界一のプレーヤーになるんだ」

 それが柊木君の夢だ。それに比べて、あたしには夢なんてない。

「今から見つければいいじゃん。俺、なんでも応援するし」

 柊木君は、優しい。

「ありがと。あたしも柊木君の夢、応援するね」

 そう言うと、柊木君はやっぱり太陽みたいに笑った。その笑顔が見れるだけで、なんだかあたしの胸も暖かくなる。

 誰だって、こんなキラキラな笑顔を見せられたら好きになる。

 柊木君は、まるで太陽みたいな人だと思った。

 だから怖かった。いつか、『全部嘘だよ』って言われるのが。『からかっただけに決まってるだろ?』とみんなの前で笑われるの日が来るのが──。


「ねぇ、柊木君って朝倉さんと付き合ってるの?」

 放課後、突然聞こえてくる声に驚いて振り返った。そこにはクラスで一番かわいいって言われてる安藤さんと、目を大きくした柊木君がいた。

「え? そうだけどなに?」

 当然のように返ってくる声にホッとしつつも、「マジ?」なんて返す安藤さんにビクッとしてしまう。

「ってか、柊木君、マネージャーのアヤノと付き合ってたよね?」

 そんな発言に、教室中の視線があたしと柊木君を行ったり来たり。

 あたしはと言えば、逃げ出したいのに動けなくて、柊木君をじっと見つめてた。すると目があって、柊木君もあたしを見た。

「付き合ってないよ」

「嘘だぁ、アヤノ、めっちゃ自慢してたもん」

 するとその間に安藤さんが入ってきて、柊木君が見えなくなった。途端にズドンと真っ暗な穴の中に落とされた気分になる。

 柊木君、今、どんな顔してるの?

「違うし」

 ぷいっとそっぽ向く柊木君に、安藤さんは「ふふ」と笑う。

「ケンカしたんでしょ? 三年の先輩にコクられたとこ、見られたってアヤノ、気にしてたもん。だから当てつけに、テキトーな子と付き合ってるフリしてるんでしょ?」

「違うって言ってんだろ?」

 嫌だ、脚が震えて心臓が痛いくらいに胸を叩いてる。

「もうお芝居はいいんだって! あんな居ても居なくても分かんないような、特徴も無い子なんて柊木君には似合わないって」

 そんなの、あたしが一番知ってる。あたしは柊木君に相応しくないなんてこと……。

「どうせ当てつけならもっと可愛い子にすればのかったのに。ほら、あたしからアヤノに言って──」

「朝倉は世界一可愛いよ!」

 柊木君の叫ぶ声に、教室中の空気が震えた。

「居ても居なくてもいいような奴じゃない! 居ないと俺が困るんだよ! 特徴がない? バカじゃね? 朝倉は優しくて頑張り屋で、人に気遣うことの出来る、最高に可愛い俺の彼女だよ! 馬鹿にすんな!」

 そう言うと、柊木君はズカズカと歩いてあたしの手を取ると、「行こ」と教室から連れ出してくれた。

 どんどん廊下を歩いて……、泣き出しそうになる。どう表現したらいいんだろう? 恥ずかしいのに嬉しくて、胸が暖かいのに締め付けられるように苦しい。

 脚だってしっかりと歩くことが出来なくて、もつれそうに──。

「あ」

「わぁ!」

 ほんとうにもつれちゃって、転びそうになったのに転ばなかったのは、柊木君が引か寄せてくれたら。

「あ、あり……」

「大丈夫、って、え? なんで泣いてんの!? あ! もしかして安藤の言ったこと信じてたりする!?」

 泣いてる? あ、ホントだ。頬に手を当てると、しっとりと濡れてるのが分かった。

 あたし、泣いちゃってたんだ。

「マジでマネとはなんともないから! えと、確かに一ヶ月前くらいに、コクられたけど、朝倉のこと好きだからちゃんと断ったし! あいつが先輩に、コクられたの見たのもホントだけど、全然なんとも思ってねーし!」

「うん……、ありがと」

「……朝倉、泣くなよ」

「うん……」

 これは悲しくて泣いてるわけじゃない。

 こんなにもストレートに好意を示してくれることが嬉しくて恥ずかしくて、どうしようもなくて、泣いてしまったんだ。

「えーっと……、ちょいこっち」

 泣き止まないあたしに困ったようにそう言うと、柊木君がまた手を引いて歩く。ドアを開けるとそこは非常階段で……。

「ごめん、俺、ハンカチ持ってねーや」

「わぁ!」

 そこで、柊木君はあたしを抱きしめてくれた。

「え? や、シャツ濡れちゃうし」

「いいよ。なんなら鼻水付けたって平気。泣き止んでくれるなら何でもする。あ、でも朝倉が嫌なら離すから」

 ハッと離れようとする柊木君のシャツを、反射的に掴んだのはあたしの方だった。

「もうちょっと、このまま……」

 そういうと、柊木君はさっきよりほんのちょっと強い力で抱きしめてくれた。

 どれくらいそうしていたのか。気か付いたら遠くから「せごーせー」と野球部の声が聞こえてきた。

「あ、あの、えと……」

 恥ずかしくて、柊木君の腕の中でもぞもぞとそう言うと、「もういい?」と優しい声が頭の上に落ちてくるから、あたしはコクリとうなずいた。

 するとゆっくりと離れていく柊木君のぬくもりに、すこし勿体無い気がしたけど、いつまでもこうしてるわけにもいかない。

「ごめん、部活、だよね?」

 柊木君はサッカー部で、しかもスタメンだ。サボるわけにはいかない。

「いいよ、今日は」

 なのにそういって柊木君は階段に座り、隣を手のひらでとんとたたく。

 これってあたしにも座れってこと? だよね。そう考えて隣に座ると柊木君は優しく笑いかけてくれた。

「ごめんな、変なことに巻き込んで」

「ううん」

 別に柊木君が悪いわけじゃない。

「あたしが勝手に柊木君を疑ってて……、こっちこそ、ごめん」

 ずっと柊木君はちゃんとあたしを見てくれたのに、あたしの方が──。

「疑って? え? 俺、なんか変なことしてた?」

 そう聞き返す柊木君にあたしは「ううん」と頭を振った。

「柊木君は悪くないの。あたしが思い込んでたっていうか……、ずっといつか振られるんじゃないかって思ってた。実はからかわれてて『嘘でした』って言われるんじゃないかって」

「は? なんで」

 あたしの告白に、柊木君は目を白黒させて驚いてる。

「だって、柊木君はキラキラしててモテるけど、あたしはふつーで地味だし」

「あー、安藤の言ったこと気にしてんの? あんなのほっとけって」

 なんでもないことのようにそういう柊木君の言葉に、あたしはまた頭を振った。

「安藤さんの言ってることはあたってるよ。あたし、本当にこれと言って取り柄もないし、きれいでもなんでもーー」

「朝倉はすごいと思う。俺なんかよりずっとすごい。ずっと見てたんだからそれっくらいわかる」

「そんなこと! 柊木君の方がーー、え? ずっと?」

 そういえば、マネージャーさんに告白されたのは一ヶ月前って言った? あたしが柊木君に告白されたのは1週間前だ。それより前に柊木君とまともに話したことなんて……。

 不思議がるあたしの前で、柊木君は「あー、しまった!」と自分の短い髪をクシャッと乱暴にかきあげた。それから少し考えるように頭を抱えて、指の間からそっとあたしを見た。

「……言っとくけど、ストーカーじゃないから」

「う、うん」

 それはそうだろう。そんなことをされるほど、あたしに魅力なんてないのは百も承知だ。

「俺、結構前から朝倉のこと知ってたよ」

「え?」

 結構前? 柊木君と同じクラスになったのは今年が始めてた。それより前ってこと?

「2ヶ月前くらいだったかな。俺、小さい妹が居てさ、道端で転んで泣いて、どうしても歩いてくれなくて、俺、そのまま置いてったんだ。そうしたら歩くかなって。行ったふりして電信柱の影から覗いてたんだ」

 あれ? それってーー。

「そこ、ちょうどは花屋の前でさ、妹の泣き声に店の女の子がすぐ出てきて、妹を立たせたんだ」

 そうだ、そんなことがあった。お店の前でずっと女の子が泣いてて、慌ててその子を抱き上げた。だけどまわりにはその子の親らしき人は居なくて、とりあえず泣き止んでもらおうとに──。

「そしたら、その女の子、妹にオレンジの花をくれたんだ」

 え? あれって柊木君の妹さんだったの!?

「妹さ、すっげー泣いてたのに満面の笑みで俺んとこまで走ってきてその花見せんだよ。『この花は元気の出る魔法の花なんだって』ってさ。そんときさ、良いやつだなって思ったのがきっかけ」

「ガーベラは、元気の出る花だから……」

 だからあの子に似合うと思って、一輪渡してあげたんだ。

「へぇ、ガーベラって言うんだ」

 笑う柊木君は、確かにあのときの女の子に似てると思った。

「部活の帰りにちょっとだけ花屋覗いたら、いっつもその女の子手伝ってて。俺なんて親に手伝えって言われても全然やらないのに、偉いなって」

「そんなこと……、だってママ大変そうだし……」

 それに花屋の仕事は嫌いじゃないから、手伝ってただけで、偉いわけでもなんでもない。

「それが朝倉って女の子だってわかったのは、同じクラスになってからなんだけどさ。朝倉って園芸部の仕事だって、いっつも率先してやってるよな?」

「それは、家が花屋だし、枯れたら可愛そうだし……」

 結構みんな水やりとか忘れること多いから、なんとなく時間があったら見て、足りなかったらお水を上げてた。言ってみれば職業病みたいなもので、やっぱり褒められるようなことでもない。

「2週間前、爆弾低気圧の天気予報にさ、もしかしたらって学校来たら朝倉いるんだもんなぁ」

「だ、だって! せっかく大きくなったのに折れちゃったら可愛そうって──」

「うん、朝倉ならそう思うだろうなって、だから俺も学校に来たんだ」

 そう、あの日、学校は休みだったけどあたしは来て、折れないように支柱を立ててた。そのとき、なぜか柊木君もいて『俺も手伝う』って言ってくれて雨に濡れながら手伝ってくれた。しかも帰りも『風が強くて危なから』って家まで送ってくれて……。

「部活が中止になったからって……」

 だから手伝ってくれたんだと思った。それでも嬉しくて、その優しさにあたしは柊木君のこと意識し始めてーー。

「そう言ったほうが、なんかかっこいいだろ?」

 照れるように言う柊木君に、あたしは笑おうとするのにうまく笑えない。

「え? おい! 泣くなって!」

「むり……」

 だってこんなに嬉しいことなんて、これから先ないかもしれない。そう思えるくらい、すっごく嬉しい。

「柊木君……、ありがと」

「べ、別にお礼を言われるようなことじゃ、ってか、なんかやっぱストーカーみたいだったかな?」

 どぎまぎとしながらそう言う柊木君に、あたしは首を振る。

「嬉しいよ、だってあの雨の日に、あたし、柊木君をーー」

 好きになれたから。小さくそう言うと、柊木君は真っ赤な顔して「そ、そっか」と笑った。

「あ、なら、やっぱ俺の勝ちだな! 俺の方が先に好きになったわけだし!」

 何が勝ちで何が負けなのかわからないけど、あたしも涙目のまま「ふふ」と笑う。というか、負けで全然構わない。構わないんだけどーー。

「ねぇ、柊木君」

「なに?」

「言ってもいい?」

 すごく伝えたいことがあるの。あのときは素直に受け取れなかったから、今度はあつぃから伝えたい。

 ここはあの時と同じ非常階段、だからちょうどぴったりだ。

「いいけど、なに?」

 優しく笑う柊木君。太陽みたいな柊木君。こんなあたしを可愛いって言ってくれる柊木君。全然普通のあたしを選んでくれた柊木君。

「あのね、柊木君、あたしとーー」

 付き合ってください。

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