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世界旅行は姫様とともに  作者: tontoko
4/4

世界旅行は姫様とともに

4話目

4.『救う』ための闘い


怒りを押し殺していた。仲間を殺されたことに対する怒りだ。短い時間しか共にしていないが、確かに仲間だ。

階段を小走りに登る。爆発で壁は派手に壊れたが、火事などが起きる気配はない。それならばルイスも、30分は持つだろう。2日に繋がる階段は1つだけだ。確実にカリウス兄弟と戦うことになる。

カリウス兄弟は、どんな武器も使いこなすオールラウンダーだ。おそらくさっきあった爆発もふたりがやったものだろう。それは、何の武器を使っているか検討がつかないという事だ。それに対しあちら側は俺がナイフを使うことを知っているだろう。

とても不利な戦いだということはすぐにわかる。それでも救わなければならないと思った。俺がやられば3人とも死ぬとわかっていた。

階段を上がってドアを順番に開けて回る。2枚目の扉を開けようとしたところで、手応えにかすかな違和感を感じた。

「罠か...」

おそらくテグスと手榴弾を使ったものだろう。ドアを開けた瞬間起爆する。それならばと隣の部屋に駆け込み、窓から渡る。

2人がいるであろう部屋の窓を割って、手榴弾を投げる。これは俺とルイスがここ一週間で用意したものだ。普段は使わないが役に立った。

まぁしかしこんなもので死ぬわけがない。爆発の土煙が残っているうちに窓枠を乗り越える。


瞬間、爆発。


咄嗟に爆風を近くにあった机で防ぐ。0コンマ数秒判断が遅れていたら死んでいただろう。右手に鈍痛が走る。ヒビくらいは入っただろう。

俺の右側で手榴弾が破砕した。窓側にも仕掛けられていると思い、注意したつもりだったがどうやらテグスを使ったものとは違った罠だろう。

「おー!今ので生き残れるなんてすごいじゃないか!」

「そうだな、今の反応はなかなかよかった。久々に手応えがありそうだ。」

土煙が収まるとそこには2人組の男がいた。片方はがっしりとした筋肉質。もう片方は痩せ型というデコボコな二人だ。

「あんたらがカリウス兄弟か?」

「そうだが、あんたはただの執事...では無いな。私たちのターゲットか」

相手を敵と認識した途端、俺の頭にだんだんと血が通ってきた。いつも人を殺していたテンションに持っていかれる。

「こいつが任務放棄のキョーへーかー?随分写真とふいんき違うぞー?」

血が滾る。眼が相手の血が通う道を捉える。

「いや、こいつだ。お前を始末しろとのお達しでな、スマンが大人しくしてくれ」

いつも通りの俺だった。俺は今執事、オルティス・ラインハルトでは無い...

「いやぁ...残念ながらそれは無理だなぁ!」

殺し屋、笹口恭平だ。


ナイフを片手に疾走する。狙いは細い方の右腕、あえて急所は狙わない。急所に近ければ近いほど目標は視えてしまうのだ。

「雰囲気代わりスギィ!頭沸いてんなぁ!」

「いやぁ...お前も大概だと思うよ?」

痩せ型は懐から背中から抜き取ったククリナイフを使って応戦する。流線型の刃についた数々の傷が今まで殺してきたであろう人数を語る。

刃と刃が交錯し、火花が散る。過剰分泌中のアドレナリンのせいか、時間がゆっくりに見える。

「私を無視しないでもらっていいか?」

横から大きな質量を持った物体が振り下ろされる。両手斧(ハルバード)だ。おそらく俺とルインさんが用意した武器のひとつだろう。どこにあるか覚えていたのを取りに行ったのだ。

後ろにいっぽさがり、衝撃をかわす。

「1対1を作るとか粋な計らいはないのかな?」

「残念だが、私たちは2人のコンビネーションを売りにしているんだ」

「そうだぜ!」

その言葉は伊達ではなく、筋肉ダルマから振り下ろされた斧をかわすと、交わした先に痩せ型の細かく早い斬撃が的確に俺の急所を襲ってくる。

なるほど、これならば躱すのは容易ではないだろう。そう俺は納得する。これならば素人は何も出来ないだろう。

「でもまだまだだなぁ。おしいところまでは来てると思うよ?」

しかしながら俺から見れば、この二人には大きな隙があった。それは、筋肉ダルマがおのを振り上げる瞬間だ。両手斧は大きく、重たいため元から暗殺には向かないのだ。1人相手より多数相手の方が強い。

2人組ならばまっさきにカバーすべきその隙を、痩せ型はスルーしていたのだ。

その隙を感じ取った俺は、筋肉ダルマが斧を振り上げた瞬間にナイフを右手に突き込んだ。利き腕を鋭利なナイフで突き刺された筋肉ダルマは苦悶の表情を浮かべたが、斧を取り落とすような真似はしない。

「てめぇぇぇぇえ!よくも弟をォォ!」

痩せ型が叫んだ。

「お前が兄なのかよ!?」

普通に驚いてしまった。体型とか喋り方から完全に筋肉ダルマが兄だと思ってた...人を見た目で判断するのは良くないね。

「大丈夫だ兄さん。だから落ち着いてくれ。」

完全にブチ切れた兄に、何故か弟が慌て始める。もうなにがなんだかわからない。

「お前!やられたんだぞ!痛くないんか!」

「いや、大丈夫だ。」

「大丈夫じゃなぁぁい!殺すぞ!」

「いや弟心配してんじゃねぇのかよ!」

ついツッコミを入れてしまった。もう兄弟で会話が成立していない。

「残念だが、俺にももうこれは止められん。あんた1人で相手しといてくれ。」

怒り狂う兄が見境なしに攻撃しようとしたのを見かねて、弟が部屋から出ていこうとする。

しかしクリスティーのところに行かれたりしたら困る。ここから出すわけには行かない。

「いやいやいやいや、一緒になだめようや。な?」

弟にトドメをさそうと、ナイフを突き立てようと一歩踏み出す。しかし兄がそれを許さない。先程とは比べ物にならない速度で振り上げられたククリナイフが右手首を捉えそうになる。反射的に手を引いたおかげで腕は助かったが、持っていたナイフは弾かれてしまった。

「弟に手ェだそうとしたらなぁ、殺すぞ!」

「...邪魔だなぁ...!」

どうやらこいつを先の殺さなきゃならないらしい。もう弟は部屋を出ていってしまった。

兄に狙いを定めた俺は、周りの状況を確認しながら、懐に入ったナイフとリボルバーを取り出す。1対1の時の標準装備だ。兄もさっきからククリナイフをブンブン振り回している。

「てめぇは絶対許さねぇ。絶対殺す!」

鈍い光を放つ刃が俺の頭上に降りてくる。それをナイフを使って後ろにいなし、兄の懐に入り込む。突き立てようとしたナイフは跳ねるように戻ってきたククリナイフが弾くが、リボルバーを右足の太ももに押し当て、引き金を引く。

後に散歩ほど下がって間合いを元に戻すと、元々痛みのあった右手にさらなる痛みが加わっていることに気がついた。

「痛てぇじゃねぇかよォ!」

「お互い様だろ?」

アイスピックらしきものが2本刺さっていた。刺突なので血はあまり出ていない。しかしもう右手にほとんど力が入らない。右手に持つのをナイフからリボルバーに切り替える。

「痛てぇかぁ?」

狂気的に笑いそう言う兄は頑張って隠しているが重心が少し左によっている。確実に聞いている証拠だ。

「あぁ痛いな。泣いちゃいそうだよ。」

「そりゃぁいいなぁ。あのべっぴんさんもそうしてやるよォ。」

軽口を叩くと、兄が下卑た笑みのままそんなことを言い出した。その時俺は自分の中に何かが湧いてきているのを感じた。

「いやぁ随分とべっぴんだったよなぁ!早く泣き叫ぶ顔が見てぇよ!だからお前を早く殺す!」

「その...を...じろ...」

最近こんなことが多い気がする。殺し屋時代にはこんなこと言われても何も思わなかっただろう。でも今は殺意が湧いてきている。

「あぁ?何だってぇ?」

「そのきたねぇ口を閉じろって...そう言ったんだよ。」

一歩、前に踏み出す。同時に兄にナイフを突き出す。心臓に一直線だ。

「かかったなぁ!」

ニタァと笑ってククリナイフを持った右手がバネ仕掛けのように跳ね上がる。俺の左手に向けて。

瞬間、ナイフを手放す。弾かれたナイフが天井に突き刺さった。しかし一撃はそれではない。

ナイフを手放したと同時に、俺は後ろに飛び退る。こちらもお返しとばかりに痛む右腕をはね上げ、眉間に照準を合わせる。

「残念だけど、引っかかったのはお前だよ。」

絶望に歪む醜悪な顔を見ながら、俺は引き金を引いた。


地下の酒蔵に向かう時は、生きている心地がしなかった。あいつらはクリスティーを殺しに来た殺し屋だ。今頃もう...と考えると寒気がする。

地下への階段を下り、扉の前まで来た。かんぬきで施錠するよう言ってあるので、簡単には開かないはずだ。

力を入れて扉を押すと、ぞんがん感触が軽く、前につんのめってしまう。嫌な予感がした。

扉を開けると、そこには広い血溜まりが広がっていた。ゆっくりと出どころを探る。血溜まりは、リデルの腹のあたりから発生していた。

「リデルさんっっっっっ!」

反射的に駆け出した。不意打ちの可能性など考えることも出来なかった。

「失望だな。こんなにも短絡的だとはな。」

視界の右側から金属塊が降ってくる。先程の両手斧だ。咄嗟に左手のナイフを両手で持って防ぐ。

しかし質量比べでは全く歯が立たない。パキンッと控えめな断末魔とともにナイフがへし折れた。なんとかして右に避けようとするが、左肩を斧がかすめる。少し当たっただけなのに衝撃は凄まじく、体は大きく弾かれた。ちも溢れてきている。右手に加えて左手も使い物にならない。絶体絶命とはこのことだろう。

「怒りは人を鈍らせる、兄さんもきっとそうだった。だろう?」

「あぁ...そうだったかもね...」

さっきから血を流しすぎた。意識が朦朧としている。左手には全く力が入らない。

「でも俺はそんな兄さんでも大好きだった。たった一人の家族だった。」

そう叫んで弟は俺に向かって突撃を仕掛けてきた。斧を大上段に構える。

「だから、これは復讐だ...死んでもらうぞ!」

俺はそのあまりにも真っ直ぐな突撃を右に躱し、弟に言った。

「そういうところは、兄貴譲りなんだな。」

「何がだ!」

怒りに任せた突貫を仕掛けてくる。

「お前のその大切な人を殺された時に怒り狂うところだよ...」

そう言って俺は突撃をいなして、後ろから銃弾を3発打ち込んだ。


「リデルさん!」

弟が動かなくなったのを確認すると、俺はすぐにリデルの元へ駆け寄った。目立ったところに外傷は見当たらない。内臓系だろうか。

「う...」

「リデルさん!」

リデルが目を覚ました。顔が赤く、体が熱い。大丈夫なのだろうか。

「ふぁ?オルさんじゃないですか〜。」

ん?なんだか変な喋り方になっている。まるで酔っているような...

「ただの赤ワインかよ!!」

「う〜、頭に響くので大きな声出さないれくらさ〜い...」

そう言い残してリデルは眠りについた。

「待ってくださいリデルさん!お嬢様は!?」

「そう言えば...どこだろ...」

「リデルゥゥゥ!」

リデルの失態により行方知れずとなったお嬢様を探すため、走り出そうとしたところ、奥の方からもの音が聞こえた。

「お嬢様!?」

物音がした方を見ると、ひとつの酒樽がゴトゴトと揺れている。そして蓋が空いたと思うとお嬢様が中から出てきた。

「私は...大丈夫...だよ?」

外の会話が聞こえていたのだろう。なんともタイミングよく出てきた。どうやらお嬢様は思った以上にたくましいらしい。

これで2人は無事だ。あとはルイスさんだけだ。急いで階段を登り、玄関前の大広間に行く。するとそこには予想だにしなかった光景が広がっていた。騒ぎを聞きつけた親切な隣人、アルフレッドが医者を呼んでくれていたのだ。ルイスは治療を受けている。

「アルフレッド!」

「おおオルティス!大丈夫か!?血がやばいぞ!?」

「俺は大丈夫だ!ルイスさんは?」

「いや大丈夫じゃないだろ...ルイスさんは今治療中。助かるってさ。」

「そうか...良かった。」

安心して力が抜けたのか、意識がどんどん遠ざかっていく。アルフレッドの「やっぱダメじゃねぇか!」というこれを最後に、俺は深い眠りについた。

4話目

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