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世界旅行は姫様とともに  作者: tontoko
3/4

3話目

3話目です短めです


Twitter @umimori0331

3.襲来


そんなクサイ決意をした1ヶ月後、ついにアルトリア家の財産が尽きた。最盛期には国の中でも10本の指には入る財産量だったが、今ではそれももうゼロだ。

少し前から探し始めていた仮の家に少しの荷物を持って引っ越す。その際使用人3人に対しクリスティーから今のうちに離れておけとお達しがあったのだが、全員が即答で拒否した。

屋敷にあったもののほとんどは屋敷ごと売ってしまった。お嬢様が毎日寝ていたフカフカのベッドも、キラキラと輝いていたシャンデリアも、亡き父の形見だという腕輪もリデルが必死に止めていたが売ってしまった。

とはいえ、現金が尽きてしまっただけで手元には色々と売った後の財産がまだ残っていた。5000万ユーロほどの小切手だ。正直まだあの屋敷にすめていたのではないかとすら思うしかしお嬢様の希望でそうそうに屋敷を引き払ったのだ。

この5000万ユーロとは凄まじい額だ。これがあれば大抵の事はできるだろう。なにか商売を始めたり、ほそぼそと使っていけば一生働かないで食べていくことも出来る。

今後についてはお嬢様がやると言っていたので任せていたが、どうやら後者を選択したらしい。今いる家は相当庶民的だ。

今までのだだっ広い屋敷の50分の1もない土地に窮屈そうにたつ、二階建ての一軒家だ。しかも賃貸。堕天使ラファエルも真っ青の堕ちっぷりだが、お嬢様はさしてきにしていないようで、既に特等席となりかけている窓際のゆり椅子に座ってうたた寝をしている。

「わー!その椅子さっきホコリが積もってましたよ!早く離れてください!」

「あ、そこならさっき拭いといたよリデル君。」

「ほんとですか!ありがとうございます!」

リデルもルイスさんも、いつも通りな様子だ。どうやら主人が殺された時から覚悟は決まっていたらしい。今は環境の整備に夢中だ。

そんなふたりが喋りながら楽しそうに掃除をしているのを横目に、俺はすすと蜘蛛の巣でひどい状態だった暖炉を掃除していた。何やら30年ほど空き家となっていたらしく、布を口に巻いていればその布が真っ黒になるような有様だった。

その後3時間ほど3人...2人でリデルのミスに対する怒りを沈めながらきびきび働き、とりあえずお嬢様に対する健康被害等が出ない程度にはなった。

「いやー、ピッカピカになりましたね!」

「「リデルは足引っ張ってただけだけどね」」

「うっ、わたしだって努力はしてるんですよぉ...」

二人同時の批判に涙目になるリデル。たしかに頑張って入るけど方向が逆だと思う。

「さてと、ダメっ子リデルは置いといて、ルイスさん、これから買出しに行きましょう。色々と生活用品が必要です。」

「ダメっ子!?」

「そうだね、じゃあ僕は食料品を買いに行こう。」

「わかりました、お願いします。」

「ねぇ私は!?私は!?」

「え...じゃ、じゃあ卵を10個お願いします。」

「駄目じゃないかオル君。卵が割れてしまうよ。」

「割らないよ!ちゃんと出来るよ!はじめてのおつかいか!」

またもやリデルをいじめる。何でだろうねぇ、いじめたくなるんだよなぁ。

「というのは冗談で、リデルはお嬢様の近くにいてあげてください。起きた時に1人ではさみしいでしょう。」

「う〜、なんか釈然としないけど...分かった。」

「よろしくお願いします。」

「よろしく頼むよ。」

「暗くなる前に帰ってくるんですよ!」

母親がいたなら言われるであろうことを言っているリデルを置いて、俺とルイスさんは街へ繰り出したのであった。


俺は今の家がある街、リーズの行商地区へ来ていた。ここリーズの行商地区には、多種多様な地域のものが集まる。俺の出身国日本の味噌や南方の『カカオ』なるものなどだ。生活用品も同様になんでも揃う

今日は変わった食べ物等は買わないが、いつかその辺の食材を使って料理をしてみたいものだ。

必要なものを両手に抱えられるだけ買ったので、一通り揃っただろう。1度家に戻ろうと振り返ると、なにか視線のようなものを感じた。とても鋭い。

もしかしたらサイモンの言っていたカリウス兄弟やシュタイナーかもしれない。このまま帰るのは得策とは言えないので、わざと裏道を通る。

舐めるような視線はそのままぴったりとついてきた。まさに狙い通りである。

早歩きで小さな路地を曲がり、その場で止まる。焦ったように視線の主が路地に入ってくる。そいつの首を十字固めにして尋問を開始する。

「お前は誰だ?簡潔に答えろ。でなければ首をはねる...」

首に懐から取り出したナイフを押し当て、低い声でたずねる。捕まえたのは身なりの汚めな少年で、いかにも孤児といった装いだった。

「ぼ、僕はただ頼まれただけで、何もするつもりはなかったんだ...た、助けて...」

頼まれた?どういうことだ?カリウス兄弟はどうやらまだ10代らしいからそいつかとおもったが、違うようだ。

「頼まれた?一体誰に...」

その時だった。背筋に悪寒が走り、直観的に青年の体を遠ざけた。次の瞬間、少年の心臓があった位置を銃弾が通過した。そのまま少年を掴んでいたら俺も無事では済まなかっだろう。

ここは入り組んだ細い路地である。射線は切っていると思ったがどうやら相手は想像以上の化け物らしい。銃弾が飛んできた方を見ると、そこには鉄板があった。この鉄板に反射させて打ったのだ。

「きききき、聞いてないぞ!こんなことになるなんて!」

青年は狙撃により完璧にパニックに陥っていた。

「落ち着け!お前は誰に依頼されたんだ!それを教えてくれ!」

「嫌だ!どうせお前も俺を殺すんだろ!もう最悪だ!」

そう叫ぶと青年は脱兎のごとく駆け出したが、散歩ほど踏み出したところでその頭を破裂させた。

「畜生、化け物だな!」

俺は場所を特定するためにあえて鉄板がある方に駆け出すと、銃弾が飛んできた方にどんどんと進んでいった。合計で3枚もの鉄板を通していたことには驚かされたが、何よりもその距離に驚いた。スコープの反射光が見えたのは、遥か先にある時計塔だった。

このまま射線に身を晒すのは愚策だ。早く建物などに入るのが得策だが、どうやらあれは特性の銃弾らしい。先の狙撃でレンガの壁を破壊していた。おそらくどこに逃げも無駄だろう。

ならば、と俺は人が大量にいる商店街へ入った。しばらく腰を曲げて頭を隠して歩く。これなら見つからないはずだ。しばらくそうして、また時計塔の方角を見ると、もう光は見えなくなっていた。

ホットして落ち着いた頭に、ひとつの考えが浮かんだ。クリスティーを目的に送り込まれた殺し屋は何もシュタイナーだけではない。カリウス兄弟を筆頭に、もっと大量の刺客が送り込まれているだろう。

全速力で帰路を駆け抜け、家のドアを勢いよく開ける。するとリビングの隅に、縄で縛られた屈強な男達がいた。...何故か亀甲縛りで。

「あぁオル君、おかえり」

「ルイスさん、これは...」

「よく分からないけれど、僕が帰ってきた時に家の前にいたんだよ。何か御用ですかと訪ねたらいきなり殴りかかってきてね」

しれっと言って懐から麻縄を取り出すルイスさんは一体何者なのだろうと、それがきになって俺はしばらく眠れなくなった。


すぐにまた襲撃があるかもしれないと警戒態勢のまま1週間がすぎた。雑魚は何十人も来たが、ルイスと俺の共同戦線を前に、何も出来ずに倒れていった。

ルイスと得意とするところはどうやら麻縄を使った高速術だけではなかったらしく、日本で言う合気道のような相手の攻撃に合わせるものやボクシングなど、多種多様な武道を使っていた。

俺はといえばナイフで戦うのは流石にまずいと思い、スラム街で培った裏路地喧嘩術を披露していた。ルイスと並べたらさぞ不格好だっただろう。

雑魚ばかりでいつシュタイナーやカリウス兄弟が来るかと心配していたが、(ルイスには話していない)しばらくは来なかった。

だんだんと気が抜けてきて、新居での生活も落ち着いてきた頃、突然その時はやってきた。

「リデルさん!フライパンを見ていてくれと言ったでしょう!」

「え!?あ〜!」

「これで何回目ですか...」

俺はリデルと一緒に夕食を作っていた。最近リデルが料理をしたいと言い出したのだ。焦げ臭い匂いのするフライパンを見て、リデルは落胆する。

その時だった。大きな爆発音とともに家全体が大きく揺れた。

ついに来たかと思っていた俺は、リデルにお嬢様を用意していた逃走経路に誘導するよう言ったが、上の空で聞こえていないようだ。全身がガタガタと震えている。

「リデルさん!よく聞いてください!今お嬢様を守れるのはあなただけなんですよ!お願いします!逃げてください!」

声が張り裂けんばかりにり上の空のリデルに話しかける。やっと正気に戻ったのか震える足に必死に鞭打ってお嬢様の元に向かう。

「そっちは任せましたよ!」

使命感だけで動いているリデルには聞こえていないだろうが激励を飛ばすと、俺は爆発音のした方に向かった。


惨状だった。この家に来てすぐ二三人で掃除をしてピカピカに磨き上げた壁や床は土埃にまみれ、床にはルイスが倒れていた。

「ルイスさん!大丈夫ですか!?」

急いでルイスの元に駆け寄り、抱き抱えると手にヌルッとした感触が伝わってきた。血だ。今まで何度持ちを吹き出させ、返り血など何リットルも浴びてきたが、この血は今までで1番粘り気があり、重たかった。

ルイスの傷はひどいもので、柱だった部分だろうか、30センチほどの木片が脇腹に刺さっている。血が止まらない。

どくどくと溢れ出す血は、止まる気配がなく、俺はどうすることも出来なかった。俺は血の出し方しか知らなかった。

「オ...オル君...」

「ルイスさん!」

「君がそんな顔してどうするんだい?君の仕事はなんだ?」

「でもルイスさんが...!」

すっかり気が動転してしまった俺は、駄々っ子のようにルイスのいうことを聞かない。殺し屋の俺だったらすぐに放り出していただろう。

しかしそんな俺をルイスさんは許さなかった。溢れる血を気にせずに、これを張り上げる。

「てめぇの役目はなんだって聞いてんだ!お嬢様を守ることだろ!俺が助かるよりお嬢様が助かる方が重要だろうが!」

今まで聞いたことのないルイスの叫びを聞き、俺の意識は覚醒した。

今心に決めた。俺は今まで奪うことしか出来なかった。こんなことを言うのはおかしい、出来るわけがない、今まで殺してきたやつはふざけんなというだろう。でも俺は今決めた。


...お嬢様もルイスもリデルも救う、と。


完全に殺し屋の頃同様冷えきった俺の頭には、使命感で満ちていた。今でも都合が良すぎる、そんなことが許されるわけがないと俺の頭の中でもう1人の俺が叫んでいる。そいつを黙らせる。

そっとルイスさんを横たえると、静かに聞く。

「ルイスさん、敵はどこに行きましたか?」

ガラリと変わった俺の雰囲気に一瞬驚き、ルイスさんは切れ切れと喋ってくれた。

「あいつらは...2回に向かった。まだ間に合うはずだ。俺はいいから...お嬢様だけでも...」

どうやらルイスさんは自分を諦めているようだが、俺がそんなことはさせない。

「違いますよルイスさん...あんたも助かるんだ。」

そう言って俺は懐から手入れのされたナイフを取り出し、2階へ向けて走り出したのであった。

楽しかったです

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