リアム・フォーサイス
リアムに言われたことをあれやこれやと考えている内に家の前に着いていた。
ドアを開けると来店を知らせる心地よい鈴の音がした。
「ただいまー」
「おかえり。ちょっと今忙しいから手伝ってちょうだい」
「へーい」
人使いが荒い姉だなと思いながらも従うしかない。
あとが怖いからな……
両親が亡くなってから女手一つで俺を育ててくれた姉ちゃんは、一昨年ここに喫茶店を開いた。
これが思いの外繁盛して、今では街でもそこそこ有名だ。
お昼時の今が一番忙しい。
学生バイトを数人雇っているが何故か今日だけ全員休みだ。
目まぐるしく働いて、漸くひと段落着いた頃には二時間も経っていた。
今日あったことを話そうか迷っていると姉ちゃんの方から近付いて来た。
目で何かを訴えながら黙って右手を差し出される。
今日はよく手を差し出されるな。
「ん? なんか用?」
「用っていうか、朝に頼んでおいたハーブはとってきたの?」
ハーブ…………
あっ! ハーブ!!!! すっかり忘れていた。
やべぇ。殺される。
「いや、ごめん。ジャーマウルフに襲われてそれどころじゃなかったんだ」
「嘘おっしゃい。ジャーマウルフに襲われたって、グランあんたちょっと綺麗すぎないかい? どこでサボってたの? 白状しな!」
「本当嘘じゃねぇよ!! 襲われたけど、リアム・フォーサイスってエルフに助けてもらったんだ!」
疑いの目を向けてくる姉ちゃんにちょっと腹がたつ。
少しは可愛い弟のこと信じろってんだ!
まったく……
「リアム・フォーサイスって誰よ」
「そんなの俺もよく知らねぇよ。今日初めて会ったんだし」
そう。まったく面識が無かったんだ。
それなのにいきなりパーティを組めなんて言ってくるもんだから、かなり驚いた。
「リアム・フォーサイスってフォーサイス家の跡取り息子じゃねぇのか?」
横で聞いていたのか、店の常連さんがビールを片手に割り入ってきた。
真昼間からビール……
「フォーサイス家? なんだそりゃ? 凄いのか?」
「坊主、フォーサイス家も知らんのか!? ありゃエルフ族の名門中の名門だ! 確かシルヴァンエルフってもんだっけな……」
ガハガハと笑いながら語ってくるその顔は、酔いが回ってきているのか少し赤い。
「今の当主が四代目でよう、そうなるとリアム・フォーサイスが五代目になるか!」
ビールを一口飲みさらに続けた。
「噂じゃリアム・フォーサイスってのは、フォーサイス家の中でも出来損ないらしいぞ! 四代目もなかなか外に出そうとしないから坊主が見たって奴はもしかしたら偽物かもしれんな!」
最近はその手の詐欺も増えてきたからな! と言いつまみを取りに席へ戻っていった。
その後帰って来なかったが……
偽物……いや、あいつは本物だ。証拠も何も無いが、そんな気がした。なにせ、あんなに美しいエルフは初めて見たからな。
仕方ねぇ、今夜姉ちゃんに相談するか。
「姉ちゃん!! 今夜家族会議な!」
「あんたまたなんかやらかしたの? わかったわ。晩御飯の時にね」
適当に返事をして、住居としているお店の二階へ上がった。
晩飯までまだ時間あるから寝る!