プロローグ
ベッドが一つ窓際に置かれた真っ白な病室。そのベッドの上に年老いたエルフが一人横たわっていた。
右腕は無く、ベッドの横には白銀の剣が一振り立てかけてある。刃こぼれし、輝きが失われつつあるそれは今の彼を体現しているようであった。
ふと廊下が騒がしくなった。
バタバタと駆ける足音が病室の前でぴたりと止まり、そして扉が勢いよく開いた。
「リアムおじいちゃん!! 元気にしてた?」
入ってきたのはどこと無く彼に似た少女のエルフ。
それまで退屈そうにしていた老エルフの目に光が戻った。
「よく来たのうエルザ。まだ昼じゃが学校はどうした?」
「学校は行く気分じゃ無いの! でも、お母さんたちには内緒にしててね! それより今日はどんなお話を聴かせてくれるの?」
少女は毎日彼の病室に足を運んでいた。もちろんただ彼が話す物語に耳を傾けに来た訳ではない。
「そうじゃな……今日はあれにしようかの。少し長くなるがよいか?」
「リアムおじいちゃんのお話はいつも面白いから大丈夫! 早く聴かせて!」
「そう急かすでない。時間はまだ……」
そう言いかけて止まる。
彼は自分に残された時間がもう少ないことを思い出した。
「まあよい。今日からは魔法使いグランの話をしよう。彼を知っておるか?」
「魔法使いグラン? 誰なの?」
「今は別の名で有名だからな……」
「えっ!? 誰、誰なの? 早く教えてよ!」
「それは話の最後だ。早々にオチを言ってしまっては面白くないからのう。とりあえず儂の話を聴きな。エルザは賢い子だから直にわかるじゃろう」
少女に微笑みかけ、そして昔に思いを馳せるかのように目を遠くに向けた。
そして静かに、でもどこか楽しげに語り出した。
「そうじゃな……確かあれは今から八百年程前じゃったかのう……ある山の麓で儂はあやつと出逢ったんじゃ……
開幕でーす。