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公園の中のカフェで、羽葵は景太の高校の様子を聞きたがった。つい最近まで高校生だったはずの羽葵だが、景太が話す高校生活を興味津々で聞いている。
「美術部は学祭でも展示するの」
「はい、今年も校内で展示するはずです」
「けーたも出すの?」
「今日、羽葵さんのおかげでいい写真が撮れたので、それを使って作品を作ろうと思って」
「秋色じゃないけどそこはいいんだ」
「そうですね。秋に撮った写真で作品を作っていたら年明けになってしまいます」
「けーたの作品、細かいもんねぇ。手先器用で羨ましい」
ほんのり笑って、羽葵は夏色したレモン色のソーダを飲んだ。口元のリップも瞼の薄ピンクのアイシャドウも、景太には馴染みがない色。クラスの女子も化粧しているが、羽葵ほど似合っていない。クラスメートたちも大学生になったらあの化粧が馴染むのだろうか。ファンデーションもよく見ないと肌についていることがわからない。ただ、羽葵の手は少し荒れていた。爪の隙間には鮮やかな色が入っている。短く切っているのに洗っても落ちない色。景太の視線に羽葵がどうしたの、と聞いてくる。
「あ、いえ。羽葵さんの手が荒れてる、と思って」
「ああこれ。日本画の画材はどうしても手が荒れるからね」
「普通の絵の具じゃないんですか」
「うん、全然違う。気になる?」
「少し」
「機会があったら、見においでよ。うちの大学も学祭で展示やるはずだし、私も絵を出すから」
「はい」
「あ、そうだ。今度京都市内の美術館で、京都画壇の展示会とか、もっと前の時代の展示会とかあるんだけど、興味あれば行く?」
「いえ、そこまでは」
「そっか、ごめん。なんかぐいぐい行っちゃうんだよね、私。今しかない、と思っちゃって」
羽葵は誤魔化すようにストローでグラスの中をかき混ぜた。四角い氷がコツンコツンと音を立てて、細かい水泡が表面に現れては弾けた。
今しかない、と羽葵が言ったが、景太もそろそろ進路を決めなければいけなかった。中間試験の結果を気にするのも勿論だが、その先も。羽葵はどのように進路を決めたのだろう。そう思って聞くと、逆に聞き返された。
「けーたはこの先どうするの。あの作品は部活だけ?」
「そうですね。僕の高校はどこかの部活に所属しないといけないんですが、僕はやる気がそれほどある生徒ではないので。楽ができそうだから、という理由で美術部を選んだんです。でも、先生のやる気に感化されたというか、僕自身、写真を撮って、写った画面を再構築するっていう、答えのないところにハマってしまって」
「いい出会いだったんだね」
「はい。この後制作を続けるかは決めていないんです。でも、手を動かすことは、嫌いじゃない」