表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

夜の嵐

作者: 楪羽 聡

 ひとりで夢を背負って、勝手に田舎を後にした。

 意気込んで大都会へ出て来たのは、もう何年前だろう。

 地元じゃそこそこ人気があった。ライブをやればチケットもハケた。


 声を掛けられたのは、知らない弱小プロダクション。

 やめとけよという声は嫉妬に聞こえた。

 好機(チャンス)を見逃す愚か者に見えた。


 なけなしの貯金と最低限の必需品。あとは肥大化した夢ひとつ。

 それだけで俺の腹は膨れると信じていた。



 それが今じゃどうだ。時給数百円のコンビニバイト。

 大学生に混じって弁当を並べてる。このあとは工事現場。

 これだけじゃ足りない。そんなことわかってる。

 知り合いがコネをくれた。でも見栄で断った。


 莫迦なことをやってるのはわかってる。そこまで愚かじゃない。

 でも諦めたくないんだ。あの頃の俺のために。

 だって誰が叶える? 俺以外の誰が?


 バイト帰りに雨に降られた。美しいと思った闇夜に稲光。

 土砂降りで傘はない。コンビニ前で魔が差した。

 よりによって赤い傘。手に取る前に持ち主が来た。

 目を丸くしていた。いつか見たような細い手首。


 このまま溺れてしまえと思った。このまま打たれてしまえと思った。

 だけどそれじゃ誰が叶える? あの頃の俺らのために。


 莫迦なことをやってるのはわかってる。ほんとにわかってるんだ。



 あいつから電話が来た。懐かしい訛りを聞いた。

「今度飲もうぜ」そんなことできるわけないのに。

 どんだけ離れてると思ってんだよ。


 なのに涙があふれた。酔ってることにしといた。

 あいつも酔っていた。きっと酔っていたんだ。

「会いに行くよ」そんなことを言うような奴じゃないのに。

 だからきっと俺らは酔ってた。夜の嵐がそうさせた。



 莫迦なことなわけがない。あいつとの約束だから。


 ほんとはわかってるんだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ