87 ディートヘルムはアホな子。パスカルは女々しい子。確かに間違ってはいない。
登場人物は、最後に書いてます。
「なにやら騒がしいね。」
次に入ってきたのは、朝、王宮の入り口で会った王位継承権第3位の第3王子ローマン・ヴィリー・フォン・アリステーゼであった。
「ローマンお兄ちゃん。」
パスカルは、ローマンを見つけるとさっさとディートヘルムから離れて、ローマンに抱きつきに行った。
「・・・まあ。別にいいんだけどよ。」
少し寂しくなるディートヘルムであった。
「久しぶりだね、パスカル。元気にしていたかい?」
「うん。」
うれしそうに頷くパスカル。ローマンは、先ほどのディートヘルムと同様にパスカルの頭を撫でてあげていた。
「ディートヘルムは、朝以来だね。そう言えば、モーゼの実は食べてもらえたかな?」
ディートヘルムは、思い出したとばかりにローマンに文句を言った。
「ローマン兄貴が、少ししかくれないから、俺までモーゼの実が回ってこなかったぞ!」
まさに言いがかりも甚だしいとはこのことであった。
「そうなのかい?おかしいな。王子一人につき10個は渡したはずなんだけど?」
ローマンの言葉にディートヘルムは、壁際のグラハムを見た。グラハムは、「何か問題でも?」という表情でディートヘルムを見返していた。
「・・・ローマン兄貴、うちはモーゼ好きが多いんだ。差し入れるなら、100個単位にしてくれなきゃ俺まで回ってこない。」
グラハムとディートヘルムの表情を見て、すべてを察したローマンは「分かったよ、今度から特別にディートヘルムには多く差し入れるよ。」と笑っていた。
「それにしても、相変わらずディートヘルムは皆の心を掴むのがうまいね。」
「んっ?どういう意味だ、ローマン兄貴?」
「皆に好かれているということさ。」
「間違えてもらっては困るな。うちには他の王子のところと違って、自己主張の激しい騎士が多いんだ。困ったもんだよ。」
やれやれと両手を広げて、首を左右に振るディートヘルム。そんなディートヘルムをグラハムはよく言えたものだという表情で冷たく見下ろしていた。ただ、あくまでそう見えるだけで、グラハムの心の中は周りの人には見透かされていたが。
「ブツブツブツブツブツブツブツ・・・・・・・・。」
ドアが開き、研究所の研究員のような格好をした男が入ってきて、部屋の中にいた王子達には目もくれず、手に持った本を凝視しながら、部屋の中央にあるテーブルの椅子に座った。
綺麗だったはずの金色の髪は、薄汚れてボサボサ、眼鏡をかけており、着ている服も汚れが目立ち、体からはかなり変な臭いがしていた。
「おい、ミヒャエル。挨拶もなしかよ。」
入ってきたのは、今年22歳になった王位継承権第6位の第6王子ミヒャエル・ウッツ・フォン・アリステーゼであった。
王子のくせに王立の研究所のひとつに入り浸り、研究を重ねている変わり者であった。
ミヒャエルは、ディートヘルムの言葉にまったく反応せずに本を読み続けていた。
「パスカル、お前、俺やローマン兄貴の時みたいにミヒャエルに抱きつかないのか?」
「えっ・・・うん。さすがに、ちょっと・・・無理かな。」
パスカルは、少し顔をしかめて、暗に臭いがきついと表現していた。
「ミヒャエル、久しぶりに会ったんだ。挨拶ぐらいしなよ。」
ローマンはミヒャエルから漂ってくる臭いなど気にした様子もなく、席に座って本を読み続けるミヒャエルの肩を軽く叩いた。
「ひゃい。」
ミヒャエルは、急に肩を叩かれ、変な声を上げて顔を上げ、驚いた顔で周囲を見わたした。
「あっ、これは失礼しましたー。ローマン兄上、4王子、7王子、お久しぶりですー。」
ミヒャエルは椅子に座ったままで頭を下げた。
「ちょっと待て、ミヒャエル。お前、ローマン兄貴はいいとして、何で俺が4王子でパスカルが7王子なんだよ?」
「えっ、何か問題がありますかー?」
「大ありだろうが。ちゃんと名前で呼べよ。」
ディートヘルムの言葉にパスカルも小さな声で「そうだそうだ。」と言っていた。どうやら、パスカルは、あまりミヒャエルが好きではないらしい。
「名前ですかー?・・・・アホナー王子とメメナー王子でしたっけ?」
「・・・喧嘩売ってんのか?」
「えっ、違いますよー。ちょっと、ど忘れしたというか、覚える気がないというか、記憶にないモノを呼べと言われたので、アホな王子と女々しい王子ということで名付けてみましたー。問題ありましたかー?」
「よし、喧嘩を売ってんだな。買ってやる。」
ミヒャエルに怒った顔で近づこうとするディートヘルムの前にローマンが立ち、「まあまあ、落ち着いて、ディートヘルム。久しぶりに会ったから、忘れているのかもしれないけど、ミヒャエルはこういう奴だからね。我慢して。」とディートヘルムがミヒャエルに近づくのを止めた。
パスカルはというと、自分は近づこうとはせずに、後ろの方で「やっちゃえ、ディートお兄ちゃん。」と小声で言っていた。
「そうですよー。僕が悪いのではありません。僕に覚える気を起こさせない・・・4と7が悪いんですー。」
「ローマン兄貴、あいつ、ついに王子まで省きやがったぜ。」
ローマンは、ミヒャエルに呆れながらも、「まあまあ。ああいう奴なの、ディートヘルムも知ってるだろ?」とディートヘルムをなだめ続けた。
「いいですかー?僕の貴重な脳細胞を使ってまで、名前を覚えさせたいなら、ローマン兄上のように僕の利益になることをしてください。そしたら、名前ぐらい覚えてあげますからー。ディートヘルム・イーヴォ・フォン・アリステーゼにパスカル・ラルフ・フォン・アリステーゼと。」
「覚えてるじゃねーか!しっかりフルネーム覚えてるじゃねーか!」
ついに爆発するディートヘルム。ローマンはミヒャエルの言葉を聞いてついに頭を抱えていた。
登場人物
ローマン・ヴィリー・フォン・アリステーゼ・・・王位継承権第3位の第3王子。30歳。アリステーゼの良心と言われる人物。言っているのはディートヘルムだけだが。
ディートヘルム・イーヴォ・フォン・アリステーゼ・・・王位継承権第4位の第4王子。25歳。アホな子。
ミヒャエル・ウッツ・フォン・アリステーゼ・・・王位継承権第6位の第6王子。22歳。臭い子。
パスカル・ラルフ・フォン・アリステーゼ・・・王位継承権第7位の第7王子。15歳。女々しい子、しかし夜は雄々しい子。
グラハム・・・ディートハルトのお付きの騎士。ディートヘルムを守ることではなく、モーゼの実に命をかけている騎士。相手にトドメを刺す時に「お前の人生にモーゼの実一片の価値なし。」ということで知られているわけはないし、言わない。




