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83 ディートヘルムはツイてない。

あとがきに今回の登場人物を記載しておきました。

参考にでもしてください。



アリステーゼ王国、王都アウグスティン。



その城下町を今、ひとりの男が、足取りも軽くスキップしていた。



「おっ、ディートじゃねぇーか。こんな朝早くからどこに行くんだよ?」



時刻は、午前8時、果物屋の開店準備をしていた中年の親父が、通りをスキップしている男に声を掛けた。



スキップをしている男は、肩より少し長い金色の長髪に水色の目の色をしており、非常に肌が白かった。



身長は180cmに届かないくらいだが、全体的にスマートな体形をしており、実際の身長よりも少し高めに見えた。



「んっ?あっルッツ、元気か?」



ディートはスキップをやめ、果物屋の方へと歩いてくる。



「当たり前だろ。今日も明日も明後日も、俺は元気ビンビンさ。」



「またまた、昨日の夜、ルッツのかわいい奥さんが、最近、ルッツってなかなか勃たなくなってきたのって、俺の腕枕で寝ながら言ってたぜ。」



ディートの軽口にルッツは笑いながら、「ほう、だったら、俺の代わりにもらってくれるかい?今だったら、このうちの奥さんよりジューシーなモーゼの実も10個つけてやるぜ。」と試しに一個とばかりにモーゼの実をひとつディートに投げて渡した。



代わりに、ディートは、ルッツに銀貨一枚を投げて渡す。



そして、果汁溢れるモーゼの実にかぶりついた。



「こりゃ、うめぇーな。さすが、ルッツの店の果物だ。」



「あたりめぇーよ。」



ルッツも謙虚どころか自信満々に答えた。



モーゼの実とは、日本でいう、桃のような果物であった。



非常に甘く、果汁が多く、アリステーゼ王国でも人気の高い果物だ。



ただし、ちょっとした衝撃で痛みやすく、運搬には細心の注意が必要な高級果物だった。



「これだったら、奥さんの方はいいから、もっと価値の高いこのモーゼの実を20個もらえるかい?」



「おっ、さすが、ディート。よくわかってるじゃねぇーか。このモーゼの実は、俺の奥さんを含めて店で一番価値の高い果物だぜ。」



ドゴッ



「いってぇー。」



ルッツは後頭部を殴られ、痛そうにうずくまった。



ルッツの後ろに立っていたのは、恰幅のいい中年の女性だった。



「誰より価値が高いって?」



「ち、違うんだ。俺じゃなくて、ディートの野郎が・・・。」



ルッツの奥さんは、もの凄い目つきでルッツを睨んでいたが、ディートへと視線を移す。



「や、やあ、アンナ。今日はいつもにも増して綺麗で・・・。」



ディートは顔を引きつらせながら笑い顔を作った。



「これはこれはディート。誰が、誰に腕枕してもらったって?」



「ゲッ、最初から聞いてたのかよ。・・・ごめん。」



ディートは頭を掻きながら、素直を頭を下げた。



「素直に謝ればいいんだよ。それにこの人の勃ちが悪いのも本当だしね。」



「おい、かあちゃん、それは言わない約束だろ?」



ルッツは涙目で奥さんの足にしがみついた。



その光景を見ながら、ディートは笑っていたが、急に「やべっ。」と言うと、ルッツの店の奥へと隠れた。



ルッツが何事かと思い、店から出て、通りの先を見ると、騎士の一団が向こうからキョロキョロしながらこちらに歩いてきていた。



騎士の先頭を歩いてきていた男が、ルッツの姿を見つけ近づいて来た。



「おはようございます、ルッツさん。」



騎士の男は、礼儀正しい上に爽やかな笑顔でルッツに挨拶をした。



「おはようございます、グラハム様。今日はどうされたのですか?」



グラハムと呼ばれた騎士は、金色の短髪で青い目の色をしていた。



身長は180cmを超えており、日に良く焼けた肌をしているため、非常に精悍に見えた。



「いや、実は、恥ずかしながら、いつも通り王子を探しておりまして。」



騎士グラハムは、第四王子付きの騎士として、この王都アウグスティンでは知られていた。



普通、それほど町の中で王子付きの騎士が有名になることはないのだが、このグラハムは別だった。



賭け事はやる。酒を飲んでは城下で馬鹿騒ぎはする。娼館に入り浸って、朝帰りすることはいつもの事。



王子でもっとも悪評が高いのが、第四王子なのだ。



そして、第四王子が何か問題を起こす度に、このグラハムが謝ってまわっているのだ。



「・・・ディートヘルム第四王子ですか?」



「ええ、昨日、泊まった店までは把握しているのですが、今朝、迎えに行きましたら、もう出たと言われまして。」



グラハムの話を聞きながら、ルッツは、チラチラと視線を店の奥へと送る。



そのルッツの視線に気付いたグラハムは、大きくため息をつくと、店の奥の方へと向かって、「まったく、あの駄目王子はどこにいるんでしょうね?国王陛下もお小遣いを減らしてやると嘆いておいでですよ。」と叫んだ。



店の奥で、一瞬、ガタッと音が聞こえてきた。



「それでは、グラハムさん、万が一、ディートヘルム王子を見つけたら、国王陛下が、昼過ぎの3時に王宮に来るように御命じになられているとお伝えください。」



グラハムは、ルッツの方ではなく、店の奥に向かって言った。



「ああ、そう言えば、今回、もし、命令無視をされたら、王位継承権剥奪の上、強制的に嫁の貰い手のない貴族の娘と結婚させてやるとおっしゃってましたと付け加えておいて下さい。」



グラハムは、ルッツに一礼すると、仲間の騎士の元に戻り、そのまま、騎士達は、王城の方へと戻って行った。



グラハムがいなくなり、しばらくして、店の奥からディートが出てきた。その表情はどこか暗かった。



「結婚話は卑怯だと思わないか、ルッツ。」



ディート改めディートヘルムは、悲しげにルッツを見た。



「何言ってるんだ、ディート。お前ももう25歳なんだから、いい加減、身を固めてもいい頃だろ?」



「でもよ、結婚は、人生の墓場っていうじゃないか?」



「何言ってんだよ。俺を見てみるよ。俺を見れば、結婚生活がどんなに幸せか、この体中から溢れ出して来てるだろうが。」



満面の笑みでディートヘルムを見るルッツ。



しかし、ディートヘルムは、ため息をひとつ着くと、「全然思わないどころか、ルッツの奥さんの不憫さに泣けてくる。」と頭を振りながら嘆いた。



「よくわかってるじゃないか、ディート。」



ルッツの後ろにいたアンナが、ディートヘルムの言葉に頷いていた。



「チッ、まったく、もういいから、さっさとモーゼの実を20個買って帰りやがれ。」



ルッツはディートヘルムにモーゼの実20個を箱ごと渡した。



ディートヘルムは、モーゼの実20個の代金を渡してから箱を受け取ると、「ただ、帰れじゃなく、モーゼの実は売りつけるんだな。」と恨めしげにルッツを見た。



「当たり前だろ?こっちは、会話プラス俺の秘密までサービスしてやったんだ。これで何も買ってもらえなければ大損だ。」



「確かにな。ルッツには負けるよ。じゃあ、またな。」



ディートヘルムは、やれやれという表情をしながら、モーゼの実の入った箱を抱えて王城へ戻って行った。


登場人物


ディート・・・ディートヘルム第四王子 25歳

グラハム・・・ディートヘルムのお付きの騎士

ルッツ・・・最近、下半身の勃ちが悪いらしい果物屋店主

アンナ・・・ルッツの下半身の勃ちが悪いのを嘆くルッツの奥さん

モーゼの実・・・桃。最初に違う名前をつけていたが、作中の別の名前に似ていたことから、大量に書き換えなければいけなかった悪夢を引き起こした果物。そして、めんどくさくなって、超有名な名前をつけてやった。

アウグスティン・・・アリステーゼ王国の王都の名前。初代アリステーゼ王国の国王の名前でもある。

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