82 イグナーツ王の決断
それでは2章始まりです。
アリステーゼ王国の現在の国王はイグナーツ・カミル・フォン・アリステーゼであった。
第99代アリステーゼ国王として今年59歳を迎えていた。
イグナーツがまだ若い頃には、アリステーゼ王国の南西に位置するテルドール帝国や南東に位置するヘラリア王国と戦争を繰り返し、アリステーゼ王国の南へ領土を拡大してきた。
そんな彼もすでに59歳になり、自ら戦争を仕掛けることもなく、以前のような覇気は感じられなくなっていた。
王宮の中では、数年前に愛妾を亡くしてから、特に老いが酷くなったとも囁かれていた。
その王の執事であり、王唯一の個人的な友人でもある、ヨハンは、深夜、王に呼ばれ、王の寝室へと急いでいた。
ヨハンは、王が五歳、ヨハンが四歳の頃より共に育てられてきた間柄であり、主従というより、実の兄弟よりも兄弟らしく育てられてきた。
アリステーゼ王国の王家では、王子が五歳になると、10歳前後の子供を王子につけて育てる習慣があった。
王子より歳のいった子供が母方の親族から選ばれるのだが、イグナーツの場合は、ちょうど良い歳の子供がいなかったため、イグナーツより歳の低いヨハンが選ばれたのだ。
そのため、本来は、王子を守るための役目であるものが、イグナーツの場合は、どちらかと言えば、イグナーツがヨハンを守るというあべこべの状況が生まれていた。
通常、王子が15歳を超えたところで、この役目は王子付きの騎士に引き継がれるのだが、イグナーツの場合は、ヨハンを完全に弟として可愛がっており、結局、王になった後も、本来の王のための執事がいるにも関わらず、個人的な執事として特別な役目を与え一緒に過ごしてきた。
「ヨハン、やはり情報通りだったぞ・・・。」
王の寝室へと通されたヨハンを見ると、いきなり王が告げた。
他の人であれば、何のことを言っているのか分からなかったかもしれないが、王の相談役を兼ねているヨハンには理解できた。
「・・・本当だったのですね。まさか、あの南の大国グラシア帝国の帝都グラシリアが落とされてしまうとは・・・。」
ヨハンはどうにかそれだけを返した。
「ああ、余も最初に聞いた時はまさかと思ったが・・・。先ほどグラシア帝国の帝都グラシリアに潜伏させておる者から確定の情報として帝都陥落の知らせが届いた。」
「それで、どこの国がグラシア帝国を占領したのですか?」
「それが、どうやら国を占領したのではないらしい。」
「と言われますと?」
「グラシア帝国の中で陥落させられた都市は、帝都グラシリアのひとつだけと言う話だ。」
「・・・それでは、反乱ですか?」
「いや、部下が裏切ったわけでも、過去にグラシア帝国に占領された国が反乱を起こしたわけでもないらしい。まあ、これから、帝都の占領を原因にして、各地で反乱は起こるかも知れぬがな。」
「それでは、魔物ですか?」
ヨハンが聞いたのは、過去に起こったことのある「ゴブリン王の厄祭」など魔物による襲撃をさしていた。
「それも違うらしい。どうやら、帝都の城には見慣れぬ旗が掲げられているらしい。」
「冒険者組合か傭兵組合に所属するギルドが国を滅ぼしたと?」
「それも違う。冒険者組合、傭兵組合からは、あのようなギルド旗は見たことがないと連絡が入っている。ついでに言うと知られている闇ギルドを含めて、今までに見たことがない旗らしい。」
「いったい何が起こっているのですか?」
「わからん。グラシア帝国が何と戦っていて、何に帝都グラシリアを陥落されたのか。まったくの不明だ。未確認情報でよいのならあるのだがな。」
「それは?」
「10人程度の揃いの白い騎士姿の者達が現れ、帝都を落としたと言っている帝都の住人がいるそうだ。」
「10人程度であの南の大国グラシア帝国の帝都グラシリアを陥落させたと・・・そんなことが・・・。」
この世界でも少人数での都市攻略が今までに起きなかったわけではないのだが、それはあくまで一地方都市レベルの話である。
大国と言われる帝国の帝都が、その程度の人間に落とされたなど聞いたこともなかった。
地方都市とは、人数も揃っている人材もまったく別格なのだ。
「それで、余は決心したぞ。」
ヨハンは、黙ってイグナーツの続きの言葉を待った。
「王位継承権3位以下の者の王位継承権を剥奪とする。明日早速、王位継承権3位以下の者達を集めよ。」
「・・・かしこまりました。」
ヨハンは、深く頭を下げた。
詳しいことはわからないが、何かがこのアランドベル大陸に起こり始めているということだけは感じていた。
今の予定ですと、グラシア帝国とアリステーゼ王国は、間に直線で見て2カ国別の国がある予定です。




