79 『ヒロ・アオイ』 すれ違う二人。現れた新たな女性。彼らの運命は、このまますれ違ってしまうのか?「運命の人」絶賛発売中!あなたの運命の人はほらそこで豚汁を配っていますよ。
「・・・ください・・・です。」
ヒロの前に女性の背の低いエルフが立っていた。
はじめてエルフを見たので、つい「エルフですか?」と聞いたら、「ハーフエルフ・・・の・・・アオイ・・・です。」と頭を下げられたので、ヒロも「あっ、失礼しました。ハーフエルフだったんですね。俺はヒロです。」と頭を下げた。
白衣を着ており、手には大きな辞書のような本を抱えていた。
どこかで聞いたような話し方だなと少し思ったが、ヒロが器に豚汁を入れてスプーンをつけて渡すと片手で受け取ってゆっくりと歩いていった。
何故かハーフエルフの周りには常に3人の黒いウサギの男の獣人達がついて歩いていたので、それ以上ヒロが話す機会はなかった。
「ヒロちゃーん、疲れたよー。」
ようやく獣人全員に家を振り当て終わったのか、シーターが豚汁を食べに来た。
「いっぱい入れてねー。」
ヒロは、普通の2倍ある大きさの器に並々の豚汁を入れてシーターに渡した。
「ところで、まだ家余ってるんですよね。」
「うん。まだまだ余り過ぎぐらい余ってるよー。」
「1人暮らしにいい家ありませんかね?」
「誰が住むの?」
「俺ですけど?」
シーターは、無言で去って行こうとした。
「どうしたんですか?」
「ごめんね、ヒロちゃん。それは出来ないの・・・。」
チラッと視線をジュリの方へ向けてから、シーターは悲しげな表情で去って行った。
ヒロもジュリを見るが、ジュリの口元がそんなヒロを見て笑っていた。
「ちょっと、お兄さん。おかしいです。納得できないです。差別です。」
いきなりヒロに文句をつけてきた白ウサギ族の女性がいた。
顔は人間とそれほど変わらないが、雪のように白い長い髪に長い耳、手は甲がフワフワの白い毛で覆われていた。
身長は160cmくらいで、目がクリッとして大きく、女性というよりは少女をちょっと過ぎたくらいという方が正しいような可愛い顔つきをしていた。
胸の大きさがかなり目立ち、他の白ウサギ族には見られない豊満なスタイルだった。
「あの、何か問題がありましたか?」
「問題大ありですよ。プンプン。」
白い肌が赤くなるほど興奮しているらしい。
「さっきの女の人は、この器の倍はある大きさの器に入れてましたよね。納得できません。プンプン。」
「・・・お代わり入れましょうか?」
「お代わり貰っていいんですか?本当ですか?嘘じゃないですか?」
「はい。どうぞ。」
ヒロは、白ウサギ族の女性から器を受け取ると、並々についであげた。
「ありがとう、お兄さん。」
白ウサギ族の女性は、うれしそうに受け取ると立ったまま食べ始めた。
他の獣人達は、すでに食事が終わり、新しい家へと移動を開始し始めていた。
町の住人にも食事は行き渡ったので、ヒロの前にいるのは、白ウサギ族の女性だけだった。
「おい、ミュミュ、行くぞ。」
後ろに立っていた白ウサギ族の男性が、立って食べるミュミュと呼ばれた白ウサギ族の女性に声を掛けるが、ミュミュは無視して食べ続けている。
「まったく、そんなに食べるから、黒ウサギみたいに肥えるんだよ。」
パコーンといい音がして、ミュミュが投げた器がミュミュの後ろに立っていた白ウサギ族の男性の顔にヒットした。
「黒ウサギの文句は許しても、ミュミュへの悪口は許さないんだからね。プンプン。」
「それ、逆じゃね?」と言うヒロの独り言を無視してミュミュは、「大丈夫です。もう食べ終わった後の器ですから。」と自信満々で言い切った。
そして、ヒロに右手を差し出した。
「もしかして・・・。」
「はい。お代わりです。食べるです。食べ尽くすです。」
ヒロは、新しい器に豚汁を入れて差し出した。
ミュミュは受け取るとすぐにその場で食べ始めた。
「チッ、知るか。」
器を投げつけられた白ウサギ族の男性は、怒ってミュミュを置いて町の中へと歩いて行った。
「そんなに食べて大丈夫?」
「大丈夫です。むしろミュミュの戦いはこれからだという気分です。」
再び器を差し出すミュミュ。豚汁を並々ついで渡すヒロ。
シーターやジュリなど獣人の世話をしていた人々もどんどんと町の中へと戻っていった。
「・・・まだ・・・食べるのかな?」
「まだまだ問題なしです。」
こっちに問題があるのですがとは言えないヒロであった。
「ヒロ、頑張れよ。」
ヒロと白ウサギ族の2人だけになったので、何事かと思い様子を見に来た元レキエラの部下で現在門番をやっている男も、呆れた様子でヒロの肩を叩いて仕事へと戻っていった。
「置いてかないで・・。」というヒロの訴えにも、門番は振り返らず片手だけ上げて戻っていった。
「次です。」
「はい。」
「まだです。」
「はい。」
「どんとこいです。」
「はい(涙)」
結局、ヒロが開放されたのは、1時間後のかなりあった鍋の中身が完全に無くなった後だった。
「今日は、このくらいにしておきましょう。」
満足げに門の中へと入っていくミュミュ。
そのミュミュの背中を見るヒロの目は疲れ切っていた。
「・・・俺、食べてないんだけど・・・。」
ため息をつくヒロ。
ヒロの心の叫びが1人になった草原に響きわた・・・りはしなかった。




