6 『ヒロ』 ホーンブルを食べる
ヒロが起きた時、あたりはすでに暗くなっていた。
1時間のつもりが、つい寝過ぎてしまったようだ。
食事をしようと部屋を出て、1階に下りると、すでに10人程度の冒険者達が、お酒を飲み始めていた。
「あら、遅かったわね。」
「寝過ごしてしまいました。」
冒険者組合のカウンターからジュリが出てきて、ヒロと一緒に飲んでいる冒険者達の方へ歩いていった。
「みんな、聞いて。今日から冒険者になったヒロよ。まだ、15歳だから、可愛がってあげてね。」
「「「おう、まかせろ。」」」「「「まあ、かわいい。」」」
飲んでいた冒険者達から声が上がるが、ヒロは、ジュリの言った15歳と言う言葉に驚いた。
ヒロの実年齢は25歳だ。
なぜ、ジュリが15歳と言ったのかわからなかった。
「ジュリ様、俺の年齢・・・。」
「あっ、そういえば言ってなかったわね。冒険者カードを作る時、血をカードにつけてもらったでしょ。あれで、年齢がわかるようになってるのよ。別に他のことが分かるわけじゃないから、問題ないと思って説明しなかったけど。」
「俺が・・・15歳?」
「何を驚いた顔してんのよ。顔見ても、十分15歳にふさわしいかわいい顔してるわよ。」
「鏡持ってませんか?」
ヒロは、ジュリから手鏡を貸してもらい、自分の顔をじっくりと見た。
「わ、若い・・・。」
鏡のヒロは、覚えている顔よりかなり若い顔をしていた。
「もしかして・・ジュリ様、身長はいくつですか?」
「160cmだけど?ちなみに、バスト90、ウエスト65、ヒップ90よ。年齢は秘密。」
ジュリの身長から想像するに、どう考えてもヒロの身長は170cmないくらいだった。
元々ヒロは、178cmあり、それほど身長が低いわけでなかった。
それが、170cmに届かないくらいだとは。
そこで『グランベルグ大陸』をやり始めた時にキャラクターの身長や年齢を決めた時のことを思い出した。
(確か、15歳、身長166cmと決めたはずだ。)
特に意味はなかったが、なんとなく15歳と決めて、盗賊系にしようと決めていたので、身長は低い方がいいと思い、身長は166cmとしたのだ。
(若返ったことは喜んだらいいのか?)
そんなことを考えながら、ジュリに手鏡を返し、空いている4人がけのテーブルに座った。
そして、なぜか、ジュリもヒロの対面に腰を下ろした。
「メグ、とりあえず、ここにエール2杯持ってきて。」
「はい、ジュリお姉ちゃん。」
ジュリにメグと呼ばれたウエイトレスが、元気に返事をした。
年齢は10歳くらいだろうか。日本では、小学生といってもおかしくないくらいの見た目だった。
「どうぞ。」
メグは、ジュリの前にエールを置き、次にヒロの前にもエールを置いた。
「今日は何ができるのかしら?」
「えっと、今日は、マイナーブルの肉が手に入ったから、肉料理なら大丈夫ってお父さん言ってたよ。」
「そう、それじゃ、定番でマイナーブルのステーキにしようかしら?」
「あっ、そう言えば、お父さんが、日替わり定食が特にお勧めって言ってた。」
「・・・ちなみに、今日の日替わり定食は何?」
「えっと、マイナーブルの腸を使った腸詰め(ソーセージ)だよ。」
「へぇ~、日替わりがまともな物なんて珍しいわね。マイナーブルの腸詰めね・・・それは迷うわね。」
「うん。今日のは特に自信作だって言ってた。マイナーブルの腸の中にスライムとヨワラ草とゴブリンの肉を細かくミンチにして詰めたの。私も手伝ったんだよ。」
「うん、わかった。メグ、マイナーブルのステーキ1人前ね。」
「え~、日替わり定食は?」
「メグ、メグのお父さんに、殺すぞって私が言ってたって伝えてくれる?」
「わかった。それで、お兄ちゃんは、何にするの?」
「何にすると言われてもな・・・あっ、そう言えば、ホーンブルの肉は入ってないの?」
何をすると言われても、メニューがないため何を頼めるのかわからずに悩んでいたヒロは、今日、自分がホーンブルを組合に買い取ってもらったことを思い出した。
「ホーンブルはないよ。」
「そっか。」
どうせ実際に食べるなら、A5ランクの牛肉と同じというホーンブルの肉を食べてみたいと思ったのだ。
「あっ、こっちが材料出すから、それを料理してもらうことできる?」
「うん。できるよ。お父さんは、ミラクルシェフの異名を持つ料理人だから。」
「・・・ミラクルは起こさなくていいんだけど。」
ヒロは、『とめどない強欲の指輪』から『ホーンブルの最上級霜降り肉』を取り出した。
『ホーンブルの最上級霜降り肉』は、ホーンブルを『解体』した時に得ることができるアイテムである。
取り出してみると、その肉の大きさは、ヒロの予想よりも大きく、縦15cm、横40cm、高さ15cmのブロック肉だった。
「このお肉をステーキにすればいいの?」
「ああ、お願いできるかな?」
「うん、いいけど、こんなに食べられる?」
ヒロが答える前にジュリが答えた。
「確かにメグの言うとおり、2人前にはかなり多すぎるわね。」
「・・・ジュリ様も食べるんですか?」
「当然よ。」
「・・ですよね。」
「余った肉は、他の蛆虫のような冒険者共に分けてやってくれる?」
ヒロは、蛆虫扱いってことは、ここにいる冒険者達はCクラスになっている人はいないんだなと考えながらも、本人達がいる前で平気で蛆虫扱いをするジュリを改めて怖い人(近づいてはいけない人という意味で)と思った。
「ジュリ様が決めるんですね・・・俺の肉ですけど。」
メグは、「わかった。」と元気に返事をすると『ホーンブルの最高級霜降り肉』を持ってカウンター裏にあるキッチンへときえていった。
「ありがとよ、新人。」「ホーンブル肉が食べられるなんて。困ったことがあったら何でも聞いてね。」など会話を聞いていた冒険者達にお礼を言われ、ヒロは少し照れたように軽く手を上げてこたえた。