68 『ヤマト』 まさかこの小説にイケメンリア充が現れるとは・・・。しかし安心してくれ。彼は残念なイケメンリア充だ。そして、ヒロの真の仲間だ。
夜遅く、ヤマトは皆が寝ている場所を離れ、見張りをしている人のいる焚き火の元に歩いていった。
「ちょっと、体が鈍ってるから、素振りしてきていいか?」
「おう、みんなを起こさないように離れてやれよ。」
ヤマトは、焚き火からさらに離れた場所で、腰の刀を抜き素振りを始めた。
ヤマトには、刀を使った経験があった。というか、5歳の頃から古武術の道場に通っていたので、ほぼ毎日稽古を欠かしたことはなかった。
小さい頃から強くなるためなら何でもやってきた。
理由はひとつ。姉を守るため。それ以外に理由はなかった。
シスコンと現実でもバーチャルでも言われ続けてきたが、ヤマトのシスコンは徹底しているのだ。そこら辺のぽっとでのシスコンと同じ扱いなど不愉快極まりないと思っていたぐらいだ。
ヤマト以外の人間がシスコンを語るなどあってはならないとさえ思っていた。
「『パンプキン・サーカス』のくせに真面目なんですね。」
素振りをしているヤマトにサクラが話し掛けて来た。
しかし、ヤマトは無視して素振りを続けていた。
「・・・無視ですか?」
「・・・。」
さらに無視して素振りを続けるヤマトを見て、サクラは諦めて戻ろうと歩き始めた。
「・・・ふう、悪かったな。素振りは俺にとっては大事なことなんだ。」
ようやく素振りを終えたヤマトが、帰りかけたサクラに話しかけた。
「あっ、ごめんなさい。」
サクラは、素直に頭を下げた。その表情は、少し安心した様だった。
「それでどうしたんだ?寝れないのか?」
「いえ・・はい、ごめんなさい、そうなんです。」
サクラは、先ほどとは違い素直だった。
「そうか。体動かしたら寝れるかもしれないぞ。刀貸してやろうか?」
「いえ、運動は得意ではないので。」
「そうか。・・・何か心配ごとでもあるのか?」
「・・・ここ、どこなんですか?」
「気付いていたのか。」
ヤマトは、サクラが名前を名乗る時、『サクラ・ソメイヨシノ』と名乗ったので、てっきりここが現実だと気付いてないのかと思っていたのだ。
「はい・・・さすがに気付きます。もうすぐ地球が滅亡するって言われていたのに、気付いたらこんなところにいて・・・。」
サクラの目から涙が溢れ出た。
ヤマトは、ゆっくりとサクラを自らの胸へと誘導した。
「好きなだけ泣け。」
最初、躊躇していたサクラだが、溢れ出す涙を止めることは出来なかったのか、ヤマトの胸を借りてしばらく泣いていた。
「・・・もう大丈夫です。ごめんなさい。」
サクラは、ヤマトの胸から離れた。
その目は泣いて真っ赤になっていた。
「ところで、『アルテノン聖騎士団』にいたって言ってたよな?『サクラ・ソメイヨシノ』なんて聞いたことないんだけど、いつごろ『アルテノン聖騎士団』に入ったんだ?」
「えっと、2ヶ月前です。友達が入っていたので誘われて。」
「へぇー、でも、そんな頃に入ったってことは、今レベルはいくつだった?」
「50を超えたくらいです。まだ、やり始めてあまり経っていなかったので。ヤマトさんは、『パンプキン・サーカス』にいたんだから、レベルは100ですよね?」
「ああ。」
ギルド『パンプキン・サーカス』は、全員がレベル100のギルドというのは知られたことだった。後から入ったメンバーがいた場合はレベルの低いメンバーがいることがあるのだが、残念ながら、『パンプキン・サーカス』に入りたいというメンバーはいなかった。『グランベルグ大陸』内でも有数の不人気ギルドだったので・・・。
逆にギルド『アルテノン聖騎士団』は、人気ギルドだったため、入団希望者が後を絶たず、入団試験まであると聞いたことがあった。
「凄いですね。」
「凄くはないさ。ただ、長くやってただけだ。それより剣は持ってるけど、鎧を着てないってことは、回復系?」
『アルテノン聖騎士団』は、騎士団の名の通り、基本的に騎士の集まりなのだ。ただ、同じ騎士でも役割分担があるのだが。
「はい、そうです。ヤマトさんも鎧を着けてないですけど、回復系ですか?」
「いや、俺は違う。前衛だ。この着物はへたな鎧よりも防御力高いから鎧は必要ないんだ。それより、じゃあ、もし戦闘になったら俺の後ろに隠れておけよ。守ってやるから。この世界、まだ何があるかわからないが、聞いた話じゃ、そんな平和な世界ではないみたいだからな。」
「・・・はい。」
ヤマトには、少しサクラの頬が赤くなったように見えたが、暗がりなので本当に赤くなったのかは自信はなかった。
「少し落ち着きました。ありがとうございます。・・・やっと眠れそうです。」
サクラは、笑みを浮かべてヤマトに頭を下げた後、サクラとパルテが寝ている馬車へと戻っていった。
ヤマトはその後姿を見送った後、再び素振りを始めた。
ヤマトは、女性にモテないわけではないのだ、むしろ、モテると言っても過言ではなかった。
ただ、いつもヤマトに惚れた女性は気付くのだ。
姉であるアオイ以上にヤマトに愛してはもらえないと。
そして、ヤマトから離れていく。
しかし、ヤマトにとってはそんなことはどうでもよかった。
何度でも言おう、『マサキ ヤマト』彼はシスコンであると。




