64 『アオイ』 アオイと黒ウサギ族
「おい、トーレ。このハーフエルフは何だ?」
黒ウサギ族の集落に帰ってきたトーレに集落の入り口に立っていたトーレと同じような姿をした男が話し掛けて来た。
「知らん。名はアオイというらしい。」
アオイは、ハーフエルフという言葉を聞き、自らの耳を触ってみると確かに少し尖っていた。
「・・・ハーフエルフ・・・の・・・アオイ・・・です。」
アオイは、トーレにお姫様だっこされたままで器用に男に頭をゆっくりと下げた。
「・・・大丈夫か、こいつは?」
「知らん。とりあえず、族長のところへ連れて行く。」
トーレは、集落の中に入り、族長の家へと向かった。
集落の中の黒ウサギ族は、包帯を巻いている者が何人か歩いていた。
「・・・怪我?」
「ああ、そうだ。全員、精霊にやられたんだ。」
「・・・私・・・怪我・・・見る・・・降ろして・・・です。」
ゆっくりとだが、アオイは、トーレのお姫様だっこから降りようと動き出した。
仕方なく、トーレはアオイを降ろし、この集落から出ないように告げた。
そして、近くにいた他の黒ウサギ族にアオイを見張っておくように言うと、1人で族長の家へと入っていった。
黒ウサギ族族長シリル。
黒ウサギ族の族長は代々女性が勤めることになっていた。
黒ウサギ族の女性は、スレンダーな白ウサギ族と違い、豊満な肉体の者が多かった。
シリルもそれに漏れず、豊満な肉体をしていた。
トーレの話を聞いて、黒ウサギ族の族長であるシリルが、アオイを見ようと外に出てみると、アオイの周りには黒ウサギ族の者が多く集まっていた。
「何があった。」
黒ウサギ族族長シリルは、集まっていた者の1人に声をかけた。
「・・・あのハーフエルフが怪我を治しているんですが・・・。」
「怪我を?回復魔法使いだったのか?」
「いえ・・・説明が難しいので実際に見てもらった方が。」
シリルとトーレは、中心に立っているアオイに近づいた。
アオイの目の前には、直径20cmくらいのボール状の水が浮かんでいた。
「スキル『抽出』・・・スキル『撹拌』。」
アオイは、片手に持った草を浮いている水の中に入れて、『抽出』と言うと水の中に入れた草の側から緑色に変わっていき、『撹拌』と言うと、ボール状の水はもの凄い速さで回転し始めた。
回転が終わると水全体が緑色になっていた。
「スキル『濃縮』。」
水の大きさは、最初の大きさの四分の一になった。
「怪我・・・してる人・・・出て来て・・・です。」
アオイの前に足に包帯を巻いている黒ウサギ族の男が出てきた。
「包帯・・・取って・・・です。」
足の包帯を取ると、そこにあったのは何か突き刺されたような刺し傷だった。
「いい?」
黒ウサギ族の男がアオイの言葉に頷くと、アオイの前に浮いていた緑色の水は、ゆっくりと刺し傷に染み込んでいった。
緑色の水が完全に染み込んだ後、刺し傷は完璧に消えていた。
「これは?」
アオイの後ろに立っていた黒ウサギ族族長シリルの声が聞こえたのか、アオイが振り返った。
「・・・ポーション・・・すべての・・・材料ないから・・・簡易だけど・・・です。」
「ポーション?しかも、この効果で簡易だと?」
「・・・そう。・・・濃縮して・・・・効果あげた・・・です。」
黒ウサギ族族長シリルは驚愕の表情になっていた。
シリルの知っているポーションの効果とはまったく違っていたからだ。
「それで、何故、治してくれているのだ?」
「・・・怪我・・・痛い・・・でしょ?」
「それだけの理由で?」
アオイは、ゆっくりと頷いた。
「・・・おい、トーレ。お前は、今からお客人の護衛を勤めろ。他の手の空いている者は、お客人を迎える準備をしろ。」
シリルの言葉に黒ウサギ族の者達が一斉に動き出した。
アオイは、先ほどと同じ工程でポーションを作り始めている。
「トーレ、でかしたぞ。」
シリルの言葉にトーレは苦笑いを浮かべるしかなかった。




