59 『ヒロ』 一応言いますが、レキエラは伝説級の大将軍です。ついでに、その部下も最高クラスの兵士です。決して変なおじさんではありません。
「ふむ、なかなかだな。だが、まだやり足らん。・・・そうだ、ヒロ、我とやってみんか?」
レキエラがヒロを見た。
「俺ですか?いや、人と戦う気はないので・・・。」
ヒロは断ったが、そんなヒロの様子を見ていたジュリが面白そうに言った。
「レキーに勝ったら、私を今晩好きにしていいわよ。」
「断固お断りします。」
一瞬の迷いもないヒロの言葉。
「・・・ムカつくわね。それじゃ、ヒロが勝ったら、ここの払いを私が持ってあげるわ。」
「絶対ですよ?」
ヒロは、すぐに立ち上がり、レキエラの前に立った。その手には、『とめどない強欲の指輪』から取り出した新しいナイフが握られていた。
「そのナイフも普通のナイフではないのだろ?」
「そうですね。普通のナイフではないです。」
「我が勝ったら、そのナイフも貰っていいか?」
「・・・・・・・いいですよ。」
ヒロは、レキエラの提案に少し迷ったが、今回取り出したナイフに付加されているのは別に大したものではないためレキエラの提案を受けた。
「レキー負けたら、今日の夜は1人寂しく寝ることになると思いなさい。」
「それは負けられんな。」
「将軍負けちまえ。」「1人寂しく寝ろー。」という声が上がったが、レキエラが部下達の方をひと睨みしたら、全員がレキエラから視線を逸らして、代わりに「ヒロー、頑張れよ。」「将軍も年だからチャンスあるぞー。」という声援に変わった。
「まったく、部下に恵まれておらんな。」
レキエラが、悲しげな声を出したが、その顔は笑っていた。
「ヒロちゃん、アレクシスの仇をとってぇー。」というシーターの叫び声も上がったが、「いや、だから死んでませんて。」とヒロは苦笑いを浮かべた。
「それじゃ、・・・はじめ。」
ジュリの掛け声でレキエラが動いた。
ヒロとの距離を一気に詰め、ヒロのナイフを持っている右手の腕に正確な狙いを定めた一撃を振るった。
しかし、レキエラのナイフが振るわれた時、すでにヒロはその場におらずレキエラから一定の距離をとっていた。
「これは・・・とんでもない速さだな。」
レキエラの顔には驚愕の感情が浮かんでいた。
「だったら、負けを認めてもらうと俺は楽なんですけど。」
「そういうわけにもいかん。こっちも今日の夜がかかっているんでな。」
再び、レキエラがヒロとの距離を詰め、今度はナイフで連撃を加えた。
ヒロはうまくレキエラとの距離を保ち、攻撃をかわしていたが、気づいた時には壁際に追い詰められていた。
「これは・・・。」
素直に驚きを示すヒロ。どうやら、レキエラは、ただ単にナイフでの連撃を繰り出していたわけではなく、この場所にヒロを追い込むために計算して繰り出していたということが分かったからだ。
「どうする、ヒロ。素直に負けを認めるか?」
「・・・いえ、まだ、ナイフが当たったわけではありませんから。」
「それでは、いくぞ。」
レキエラは、再びナイフで攻撃を始めた。
しかし、そのナイフがヒロの体を傷つけることはなかった。
ヒロは、レキエラのすべての攻撃を見切り、その場に立ったまま、わずかな動きでかわしていたのだ。
ヒロのかわしの凄さに見ていた周りの人間からため息が漏れた。
それほど、ヒロの動きは洗練されているように見えた。
しかし、実際は、ヒロは何か武道をやっていたのではなく、ただ単純にナイフの動きを見て、その軌道を避けていただけだった。
そして、酔いが回ったのか一瞬動きが鈍ったレキエラの隙をついて、レキエラの腕にナイフで薄い傷をつけた。
「うおぉぉぉぉぉぉ!」
その瞬間、見ていた、いや見えていたかはわからないが、勝負がついたのを感じた周りの人間達が大歓声を上げた。
「わははははははははははははは。」
レキエラが、大声で笑い始めた。
「俺の勝ちですね。ジュリ様、ここの代金払ってもらいますよ。」
「しょうがないわね。」
「うおぉぉぉぉぉぉぉ!」
ジュリの言葉に再び大歓声が上がった。
「わははははははははははははは。」
レキエラは、まだ笑い続けていた。
「レキー、いつまで笑ってるのよ。」
少し機嫌の悪くなったジュリの言葉にも、レキエラは苦笑いを浮かべながら笑い声を上げ続けた。
「・・・もしかして、これが、そのナイフの能力なの?」
「はい。これで斬られたら10分間笑い続けます。」
ジュリの言葉にヒロは頷いた。
ジュリは、やや呆れた顔になった。
「誰が、こんなしょうもないナイフを作ったのよ。」
ヒロは、両手を広げて「さあ?」と応えるしかなかった。




