52 『エルダ』 エルダvsラインベルト 夜毎に行われる戦いその結末は!
ラインベルト・シュナイゼル・エストラ男爵とエルダ・リ・マルクーレとルーベル爺が、自らの城に帰ってきて数日が立っていた。
帰ってきてすぐに、簡易ではあるが、エストラ男爵直属の騎士にのみ行われる叙任式を行っていた。
と言っても、あくまで、地方貴族のしかも男爵家に使える騎士のため、身分は平民である。
ちなみにアリステーゼ王国の場合は、国王直属の騎士団に所属する騎士は、身分的には、平民と貴族の間の身分として扱われるが、貴族直属の騎士の場合は、平民と同じように扱われる。
ただし、アリステーゼ王国内で名高い騎士などは、例え貴族直属の騎士であろうと、国王直属の騎士団に所属する騎士と同様に扱われた。
さらに、国王直属の騎士団の団長、副団長のみは、貴族として扱われた。
ただ、いくら貴族直属の騎士が王国で平民扱いだと言っても、その貴族の領地内では、当然、貴族と同じように扱われており、貴族の領地内での実際の地位は、平民とは比べ物にはならないのである。
以上に説明したのは、あくまで平民が騎士になった場合であり、元から身分が貴族の場合は、元からの身分が優先されるため、騎士になろうが貴族として扱われた。
「なるほど、その叙任式とやらをやればいいのだな。」
エルダ・リ・マルクーレは、ルーベル爺の話を聞き、頷いていた。
「はい、左様で御座います。ただ・・・。」
「ただ、何だ?」
「はい。代々エストラ家に伝わる叙任式の決まりの一つに・・・その大変言いにくいのですが、ある程度の金額を納めてもらうという決まり(嘘)がございまして。当然、私はエルダ様にそのようなことをさせるなどもってのほかと思ってはいるのですが、何ともしがたいことにエストラ家13代(嘘)に渡る決まりでありますので・・・。」
ルーベル爺が、顔をハンカチで拭きながら、「困りました。」と顔をしかめている。
ちなみに、エストラ男爵家は、ラインベルトの代で4代目である・・・。できる執事ルーベル爺、本領発揮である。
「何、気にするな、ルーベル爺。未来の妻として、ラインベルトに恥をかかせるわけにはいかぬ。」
エルダは、サイラスで買ったマジックボックスから、白金貨50枚の入った袋を4つ、合計白金貨200枚をルーベル爺に渡した。日本円で2億円である。
エルダの残り所持金は、白金貨50枚弱であった。
「こ、こんなにですか?」
さすがのルーベル爺も予想もしない大金であった。
「ああ、もし多いようなら、領地運営に役立ててくれ。」
エルダの感覚では、日本円でたぶん200万円くらいで、しかも、未来の夫になる人(エルダの中で確定)に上げるのだから、何一つ問題なかった。
まさに結婚詐欺師に引っかかる女性の心理だった。
「さすが、エルダ様。」
ルーベル爺は、深く頭を下げた。
そして、叙任式が終わり、いざエルダの住まいを決めると言う段階でラインベルトにとって問題が発生した。
ラインベルトは、城下に空家が山ほどあるので、そのどれか好きな家に住んでもらおうと思っていたのだが、なぜか、エルダは「その必要はない。」と言い、勝手にラインベルトの寝室の隣の部屋に住み始めたのだ。
元々、ラインベルトの隣の部屋は、ラインベルトにメイドがいた時(と言っても、ほんのわずかだが)に控えている部屋だった。
ラインベルトは、「さすがにそれは・・・。」と遠まわしに言ったが、エルダは、「気にするな。」と笑顔で答え、ラインベルトが気にするということをまったく理解してもらえなかった。
しかも、いつもラインベルトの味方をするルーベル爺が、なぜかエルダの味方につき、積極的に進める始末。
仕方がないと、諦め半分に認めはしたが、これが間違いの元だった。
「すまん。ラインベルト、ルーベル爺が、あっ、いや、ルーベル爺は関係ないのだが、実は私の部屋にはまだ体に合うベッドがないのだ。それで、申し訳ないのだが、今夜だけラインベルトの隣で寝させてもらえぬだろうか?」
エルダが使っている部屋のベッドは、元々メイド用のため、長身のエルダにしたら狭いということだった。
幸い、ラインベルトの部屋のベッドだけは、先代が良い思考は良い睡眠からという考えの持ち主で、ベッドにだけはお金を掛けていたので、キングサイズのため、エルダと一緒に寝ても十分な広さがあった。
が、当然、別の問題があった。
「エルダ、さすがに、城の中で一緒のベッドで寝るというのは・・・。」
残念な貴族なら12歳でも喜んでエルダと一緒に寝たかもしれないが、幸いラインベルトは良識と知性を併せ持つ12歳の貴族だった。
サイラスの宿屋では、しょうがなく一緒のベッドで寝たが、あれは2人部屋しか泊まれないという金銭的問題によることが大きかった。
今回は、いくらでも対応できるはずの城の中のことである。
ラインベルトもさすがにここは断ろうと決心した。
ラインベルトは貞操観念の強い貴族なのだ・・・今はまだ。
「エルダ、今回は駄目です。」
ラインベルトはエルダを真っ直ぐ見つめた。
エルダは、そのラインベルトの真っ直ぐな瞳を見て、思わず濡れそうになったが、ここで引いてはルーベル爺と立てた作戦が台無しになるので踏ん張った。
「・・・実は、それだけが理由ではないのだ。・・・私は、たった一人この大陸に飛ばされて、昼間はいいが、夜1人で寝ていると無性に寂しくなるのだ。・・・シクシク・・・。」
エルダ、見事な嘘泣きである。手を目の下に置いてはいるが、涙一つ流れていない。
しかし、ラインベルトは慈愛の人である。人を疑うということを知らない。いや、知ってはいるが、人を信じることの尊さを知っていた。
それゆえに、信じた。
「エ、エルダ・・・そうだったんだね。僕はなんて子供なんだ。・・・エルダのそういう気持ちにも気付けないなんて・・・。申し訳ないエルダ。それならば、仕方がないよ。一緒に寝よう。」
「ありがとう、ラインベルト。先にベッドに入っておくぞ。」
涙の後など微塵もない綺麗な顔のエルダは、上に着ていたバスローブのような服を脱ぎ、ベッドへと入った。
バスローブの下は、ネグリジェのような下着スケスケのものだった。
「ちょ、ちょっと待ってください、エルダ。その寝間着は何ですか?」
顔を真っ赤にして、エルダから顔を逸らすラインベルト。
「何?これか、サイラスで買ったものだが、私のいた大陸では、寝る時は常に裸(一部だけ)なのだが、ここでは何か着ないといけないとルーベルに聞いたから着てきたのだが?」
宿屋では、そんな素振りを示したことさえないにも関わらず、堂々と言い切るエルダ。彼女は自分の目的のためなら、前後の辻褄など考えないのだ。
「そ、それは、着てるというか、着てないというか、そのごにょごにょごにょ。」
ラインベルトは、エルダに胸を押し付けられても理性を保てる稀有な男だが、さすがにエロい格好にはそれなりに弱いらしかった。さすが、想像の生き物、男の1人である。
「まあ、気にするな。さあ、寝よう。」
エルダは、ラインベルトを宿屋の時と同じようにベッドに引き込み、眠りについた。
ラインベルトは、今日だけの我慢だと自分に言い聞かせ、必死に寝ようと試みた。
次の日の朝、目の下にクマができたラインベルト。
しかし、ラインベルトは、何もなく夜を過ごせた自分を褒めたい気分だった。
そんな誇らしい気分に浸っているラインベルトは、これが毎日続くことになるとは、今はまだ気付いていなかった。




