49 『ミサキ』 適材適所。まさに都合のいい言葉だ。決してサボりたいわけではございません(大嘘)。
ハイドが特訓を始めてから1週間が経過した。
さすがに1週間朝食と昼食抜きというのは体に悪いので、1日ごとに朝食と昼食抜きでやっているらしい。
「失礼致します。」
ミサキの執務室にドルトが3時のおやつを持って入ってきた。
この1週間は、珍しくミサキは執務室に篭って仕事をしていた。
というのも、さすがにミサキでもガルバチョ商会を乗っ取ったために、目を通さなければいけない資料が山のようにあったからだ。
ちなみに、ニーナはこの1週間、ドルトに付きまとい常にお菓子の催促をしていたが、ミサキから「ちょっと、最近ニーナが太ったみたいだから、餌付け禁止ね、ドルト。」という命令が下されたため、拗ねてあまりミサキの前に姿を見せなくなっていた。・・・と言っても、3度の食事時にはしっかり席についていたが。
「ふー、ドルト、とりあえず目を通さないといけない資料はこれだけ?」
「はい。」
ドルトはミサキの前のテーブルにお菓子とクルーアを並べた。
「意外とあの豚、仕事は出来たのね。」
ミサキは、クルーアの入ったカップを持つと美味しそうに口をつけた。
「いえ、豚は仕事は出来ませんでした。」
「それでは、誰がやってたの?」
「恐れながら、私が。」
誇るわけでもなく淡々と答えたドルト。
「なるほどね。」
「はい。私は以前から・・・。」
「あっ、ドルトの過去に興味ないからいいわ。」
ミサキは、仕事が出来る理由を話そうとしたドルトの目の前に手を出し、ドルトの話をさえぎった。
「失礼致しました。」
ドルトは、少し残念そうに頭を下げた。
「う~ん、やっぱりこれしかないか・・・。」
ミサキは、独り言を呟き、ドルトを見た。
「何でしょうか?」
「ドルト、執事、首ね。」
ミサキ、笑顔である。
「・・・首・・・ですか?何か、失礼がありましたでしょうか?」
ドルトの顔に不満が表れていた。こう見えても、ドルトは長年執事としていろいろな人物に尽くした経験から、自らの執事としての技量にプライドを持っており、裏切ったことはあっても首になったことなどなかったからだ。
「首で~す。」
ミサキは、ドルトの疑問には答えずに、右手の親指を立てて首を切る仕草をした。
「・・・左様でございますか・・・仕方がありません。」
ドルトは、悲しげな表情でミサキの執務室を出て行こうとするが、そんなドルトにミサキが言葉を続けた。
「代わりにドルトには新たにパンプキン商会の会長をやってもらいます。」
ドルトは、足を止め、振り返った。その顔には、驚きと一瞬だけではあるがうれしさの感情も表れていた。
「それは・・・?」
「ぶっちゃけ、私、こう見えても、『パンプキン・サーカス』のギルドマスターだし、商会の会長も勤めるのは無理というか、面倒というか、だるいというか。はっきり言って、断固拒否。それで誰がいいか考えてたんだけど、ニーナは論外だし、ハイドは変態だし、ドルトは有能だから。どうしても、ドルトに勤めてもらわなくちゃいけないんだよね。・・・もしかして、嫌だった?」
可愛く困った表情を作るミサキ。100%わざと作っていた。
「いえ、嫌ではありませんが。」
「だったら、決定。さっさっ、この椅子に座って。」
ミサキは、ドルトの背中に周り、背中からドルトを押しながら無理やりミサキが座っていた椅子に座らせた。
「というわけで、ここに『パンプキン商会』のドルト・パンプキンの誕生で~す。ワーパチパチパチ。」
急なことに、ドルトもどういう表情をすればいいのか迷っていた。
「それで、まず、ガルバチョ商会の名前を全部パンプキン商会に変えるように手配してね。」
「はい。それでしたらすぐに。」
「あと、念のために言っとくけど、パンプキン商会は、『パンプキン・サーカス』の下部組織って立ち居地だから、私の命令には絶対服従ね。あと、利益の半分は上納金として収めてもらいます。」
「はい。それも理解しております。」
「それさえ守れば、あとはドルトの好きにしていいから。ちなみに、ドルトの立ち居地はパンプキン商会の会長兼『パンプキン・サーカス』のメンバーの1人。わかった?」
「はい。理解致しました。」
「うん、うん。ドルトはハイドと違って話が早くて助かるよ。」
満面の笑みを浮かべ、部屋を出て行こうとするミサキ。しかし、ドアを半分開けたところで振り返った。
「あっ、言わなくても分かってると思うけど・・・裏切ってもいいけど・・・ね。」
ミサキの表情は、満面の笑みから残忍な笑みに変わっていた。
「深く理解・・しております。」
「それじゃあー、よろしこー。」とミサキはそれ以上は何も言うことなく出て行った。
残されたドルトの背中には、冷たい汗が噴出していた。




