44 『ミサキ』 ハイドvsドルト 白熱の戦い(ベッドの上ではありません。要注意)
ドンゴ・ガバルチョの屋敷に到着すると、執事ドルトが玄関で迎えてくれた。
「ようこそいらっしゃいました。どうぞ。」
ドルトはドアを開け、4人と1匹を向かい入れた。
「ん、首筋に怪我でもしたのか?」
ハイドがドルトの横を通る時に、昼間ドルトを見た時にはなかったドルトの首に巻かれた包帯に気が付いた。
「はい。少々、ヘマを致しまして。」
恥ずかしそうに苦笑いを浮かべるドルト。
「気をつけろよ。」と一言だけ告げて、ハイドもミサキに続き屋敷に入った。
「お爺さん、ニーナの家のドアが、また壊れてしまったにゃ。」
泣きそうな顔でドルトにしがみつくニーナ。「それは、すぐにまた直すように言っておきます。」というドルトの言葉を聞き、うれしそうな表情でハイドに続いて屋敷に入っていった。
そして、最後に無言でかぼちゃのかぶりものをかぶった者が、屋敷に入っていった。
通された部屋では、すでにドンゴ・ガバルチョが一番奥の席に座っていた。
「いやーよく来て下さった、私が、ドンゴ・ガバルチョです。」
言葉使いは丁寧だが、椅子からは立とうとはしない。もしくは、立てないだけかもしれないが。
ドルトに勧められ、それぞれが席についた。
全員が座ると、すぐに食前酒が運ばれてきた。
「それでは、よき出会いに、乾杯。」
全員が、ドンゴの声に合わせて食前酒に口をつけた。
その後、次々に料理が運ばれてきた。
料理はかなりの量だったが、誰一人、残さず食べていく。
メインの肉料理を半分食べた時、ミサキが口を開いた。
「そろそろ、頃合かしら。ドンゴさん、今日はどういう用件で晩餐に招待してくださったのですか?」
「ん?ムフフフ、もういいのか?最後の晩餐というのに?」
気持ち悪い笑い声を上げるドンゴ。
「構いませんわ。どうせ、時間的に最後まで料理を堪能はできないのでしょ?」
「ほう、これは素晴らしい。それが分かっていて、料理に口をつけたのか。ムフフフ。」
「遅効性の毒を盛るなんて、なんてお優しいお方。その優しさに答えないなんて、失礼に当たるかと思いまして。」
「ムフフフ。何と愚かなことよ。それが分かっていながら口をつけたということは、解毒薬でも持っているのだろう。ムフフフ。しかし、この毒に解毒薬などないぞ。この毒は、ある暗殺組織の秘蔵の毒薬。体に回ってしまえば、もう終わりだ。」
「そうですの?・・・それは、迂闊でしたわ。」
「ムフフフフフフフフフフフフフフッフ、ゴホゴホゴホ・・・・。」
笑い過ぎて、むせるドンゴ。むせながらも、表情は気持ち悪い笑いを浮かべたままである。
「お前らの命もあと10分あまり、どうだ、自らの迂闊さで死ぬという気分は?悔しいか?悲しいか?ムフフフ。」
ハイドとニーナは、驚いた表情でミサキを見た。
ミサキの表情は、悲しげだった。
「それでは、ドンゴさん、最後に教えていただきたいことがあるのですが?」
「何だ?美少女の最後の願いなら喜んで教えてやるぞ?ちなみにお前の死体なら、死んだ後でワシが飽きるまで可愛がってやるから、心配はいらぬぞ。ムフフフ。」
「おぞましい奴だな。」
ハイドが席から立ち上がりドンゴの方へと歩き出そうとするが、その前にドルトが立ちふさがった。
「どけ。」
凄まじいハイドの怒気にも、気にした様子もなくドルトは笑みを浮かべて右手を前に出し、「どうぞ。」と答えた。
ハイドは、ドルトから少し距離を取り低く構えた。
その構えは、獲物を襲う前の肉食獣のようだった。
「いくぞ。」
ハイドは掛け声と同時に低い姿勢のまま、直線的にドルトへと突進した。
『抗う心臓』の名に恥じないもの凄いスピードの突進だった。
普通の人間なら、何が起こったか分からない内にハイドのタックルによって倒されていただろう。
しかし、ドルトは、焦る様子もなく、突っ込んでくるハイドに向かって、タイミングを合わせて右足を蹴り上げた。
「チッ。」
ハイドはギリギリでドルトの蹴りをかわし、ドルトの横に転がった。
「おや、思ったよりは出来るお方ですね。」
ドルトの笑みは消えていない。
立ち上がったハイドの燕尾服は、前側が綺麗に切り裂かれていた。
「刃物入りの靴か。」
ハイドは上着を脱ぎ、投げ捨てた。
「にゃー、ハイド。」
ニーナが、悲鳴を上げた。
「心配すんな、ニーナ。俺は負けねぇーよ。」
「違うにゃ。ハイドの投げ捨てた服が、にゃーのご馳走の上に落ちたにゃ。信じられないにゃ。」
「・・・毒入りだぞ?」
「関係ないにゃ、どうせ死ぬなら、おいしい物を食べて死ぬにゃ。」
「・・・俺の食べていいから。」
ニーナは、自分の席からハイドの席へと移り、ハイドの残していた肉料理を食べ始めた。
「さて、取り直しといくか。」
ハイドは再び、低く姿勢をとった。
「ふむ、どこからでもどうぞ。」
ハイドは、ゆっくりとドルトの周りを移動するが、ドルトは一切動かない。それどころか、目をつぶっていた。
「舐められたもんだな。」
ハイドは、ドルトの真横に来ると先ほどと同じように突進したが、今度はドルトの蹴りの範囲に入る直前で思いっきりジャンプをし、ドルトを飛び越え反対側に着地すると右手でドルトへ殴りかかった。
しかし、目をつぶっているドルトは、その動きに惑わされることはなく、ハイドの右手のパンチを右手で軽く自身の右側に逸らしながら、そのまま回転して右足のかかとでハイドのボディへと蹴りを放った。
ハイドは、流れた体勢にも関わらず、その蹴りをギリギリの所で前に飛びながらかわした。
しかし、完全にかわすことは出来ずに、ハイドのはいていたズボンのベルトが見事な切れ味で真っ二つにされていた。
「かかとにも、刃を仕込んでんのかい。」
ハイドの頬に汗が流れた。間違いなく冷や汗だった。
「おや、これもかわしますか。獣人の身体能力は本当に凄いですね。」
ドルトは目を開け、余裕の表情を浮かべた。
「褒められてもうれしくねぇーよ。」
ハイドは、ベルトを斬られたためズボンを脱いだ。
「ムフフフ、いいぞ、いいぞ、ドルト。」
「ここまでですか。」
ミサキの表情は、諦めに満ちていた。
「最後に教えていただけますか?この妖精をどうして誘拐してきたのですか、ドンゴさん。」
「教えて欲しいか、ムフフフ。ならば、冥土の土産に教えてやろう。この妖精は、アリステーゼ王国のサイラス伯爵がご所望なのだ。あのサイラス伯爵だぞ。驚いたか。すでにアリステーゼ王国の北西地域貴族のその多くを傘下におさめているアリステーゼ王国有力貴族、サイラス伯爵だ。これさえうまくいけば、我が、ガルバチョ商会のアリステーゼ北西部での繁栄は思いのまま。いよいよ、ガバルチョ商会が商人組合の幹部へと昇りつめる時が来たのだ、ムフフフフフフ。」
「そうでしたか・・・そのために、妖精を捕まえて来たと。」
「そうだ。まあ、たまたま自ら来たいという妖精がいたので、捕まえる苦労はなかったがな、ムフフフ。」
「しかし、妖精を捕まえることは死罪ですよね、このグロースでは?」
「捕まらなければ関係ないわ。そのために、衛兵の隊長にいくら賄賂を渡していると思っているのだ。このグロースでワシが捕まることなどないわ、ムフフフ。金さえあれば、法律など怖くもなんともないわ。法律とは、金のない者のためにあるのだ。ブハハハハハハハ。」
興奮し過ぎたのだろう、ドンゴは恍惚の表情を浮かべていた。
「己らの貧乏さを恨め、ギャハハッハハハハハハハハハ。さあ、仕上げだ、ドルト。『抗う心臓』とかいう馬鹿な傭兵ギルドに属する無能な獣人に現実を教えてやれ。」




