42 『ミサキ』 ある仕立て屋の悲劇。ハイドの悪行は止まらない。
ミサキに連れられて、ハイドとニーナは仕立て屋に来ていた。
「ミサキ、・・・何だ、ここ?」
「見ての通り、仕立て屋ですけど?」
ミサキは現在、パンプキンヘッドをかぶっていない。
というのも、先の事件であまりにパンプキンヘッドが有名になってしまったために、かぶって出かける度に衆目の視線を浴びてしまうため、嫌気がさしたのだ。
「それは分かるが、本気で赤いドレス作る気だったのか?というか、今からじゃ、とても時間までに間に合わないと思うぞ?」
すでに時刻は昼の2時を回っている。残り4時間弱では、どんな腕のいい仕立て屋でも時間までに仕立てることは無理だろう。
「まあ、そこはなんとかしてもらいましょ、命をかけて。」
屈託のない笑みを浮かべるミサキ。ミサキを知らない人が見たら、一瞬で恋に落ちそうな笑みだが、ハイドからしたら、恐怖しか感じられない。
「ちなみに、仕立てるのは、ハイドとニーナの服だから。」
「お前のはどうするんだ?」
ハイドの言葉に対応するように、ミサキのいつも着ているハロウィンでよく見る体全体を覆っている黒いコートが変化して、赤いドレスに変わった。
「何だ、そりゃ?マジックアイテムだったのか?」
「凄いにゃ。綺麗にゃ、ミサキお姉さま。」
「う~ん、マジックアイテムとはちょっと違うかもしれないけど、これはこういう物。というわけで、早速、入ろう。」
ミサキを先頭にハイドとニーナが、仕立て屋に入っていった。
「いらっしゃいませ。」
上品な年配の女性が出迎えた。
「・・・もしかして、ハイド様でしょうか?」
上品な年配の女性がハイドを見た瞬間、表情が固まった。
「・・・そうだ。」
当然、先の事件でハイド自身も悪い意味で有名になっている。俺は、何もしてないんだがな、と思わずにはいられないハイドだが、すでに諦めの境地に立っている。
「ハイドに黒の燕尾服、ニーナに黄色のドレスをお願い。細かいところは、そっちに任せるから。今日の夕方6時に使うからそれまでに仕上げてね。」
そんな固まった女性の都合など我関せずに口早にミサキが告げた。
「え、は、本日の夕方6時までですか?それは、さすがに・・・。」
「出来ないの?・・・ハイドの噂聞いたことないの?もしかして、自殺願望者?なんなら、今、死んどく?」
俺の評判がどんどん落ちていくな、と悲しい気持ちになるハイドだった。
「いえ、申し訳ありません。当然、やらせていただきます。直ちに。」
「ちなみに料金だけど?」
「いえ、結構です。」
即答する年配の女性。その顔には、恐怖が浮かんでいる。
「それ商売としてどうなの?駄目だよ。仕事した分は、きっちり請求しなきゃ。」
「そ、そうですか?」
あれだけ脅迫しといて、どの口が言ってんだと完全に呆れているハイド。ニーナはすでにドレスに目がいっていて、ミサキと年配の女性の会話など聞いていない。
「うん。だから、請求は、ガバルチョ商会に回してね。明日、ガバルチョ商会に行けば払ってもらえるから。あっ、ガバルチョ商会が払うから、一番いい生地の服を使ってね。」
「か、かしこまりました。」
さすがにイチから作り始めるのは不可能なので、出来合いの服をハイドやニーナに合わせて調整するというくらいミサキも理解していた。
「ミサキお姉さま、にゃーは、このピンクのドレスがいいにゃ。」
ニーナが、うれしそうにピンクのドレスを手に持ってくるが、ミサキは、それを受け取るなり、真っ二つに破った。
「あら、不思議。不良品だったみたいね、ニーナ。きっとニーナは、黄色のドレスが似合うと思うわ・・・絶対。」
「にゃ、にゃーもそう思ってたにゃ。」
ニーナ、もの凄く悲しい顔である。
「俺も、燕尾服着るのかよ?俺はあんまりああいう服は好きじゃねぇーんだけどな。」
「別に構わないわよ、ハイド。パンツ一丁で行くか、燕尾服を着て行くか、好きな方を選んで。」
ミサキの笑顔は怖かった。
「すげぇー二択だな。・・・しょうがねぇー。燕尾服を着るよ。」
「そう?どうせ、パンツ一丁になると思うから、私はどちらでも構わなかったのだけど。」
「どういう状況だよ。」とブツブツ言いながらも、ハイドは燕尾服が置いてある場所に歩きながら、燕尾服のサイズを見ていた。
「それじゃあ、私は別の用事があるから、6時にニーナの家でね。」
ミサキは1人仕立て屋を出て行った。
仕立て屋の奥では、死にたくなければ急いで人をかき集めろという店員達の焦った声が響いていた。




