37 『ミサキ』 伝説の送り狼ハイド(適当)
「でも、何で妖精を扱っては駄目なの、ハイド?」
ミサキの質問にハイドが答えた。
「ああ、妖精はな、精霊のいる地に住む生き物なんだ。精霊の眷属というのが正しいかもしれない。基本的に、精霊も妖精もそれ以外の生物に危害を加えることは少ないんだが、唯一、眷属である妖精を攫われたり、殺されたりした場合は別で、その地の精霊が怒り狂って、手当たり次第、近くにいる生物に攻撃を開始するのさ。」
「まあ、当然よね。子供を攫われた、もしくは殺された親ということでしょ?」
「そうだな。それで、精霊を怒らせると、その地に近づくことが出来なくなるから妖精を捕まえたり、殺したり、商品にすることは禁止されたのさ。」
「それにしても、ハイド、傭兵のくせに精霊について詳しいわね。」
「俺の故郷が、クリオラの森の中にあってな。このクリオラの森の中心部には、精霊の住む湖があるのさ。だから、精霊との共存というのは、俺の一族にとっては重要事項なのさ。」
何か言いたそうにハイドを見ているニーナ。
「何だよ、言いたいことがあるなら言えよ、ニーナ。」
「ハイドと妖精って似合わないにゃ。」
「うるせぇーよ。余計なお世話だ。」
ハイドは、ニーナの頭を殴った(当然、グーパンチで)。
「にゃー、これも巧妙な罠にゃ。言えと言ったのはハイドにゃ。にゃーは悪くないにゃ。」
「可哀想な、ニーナ。私が慰めてあげるから、ほら、私の胸の中に飛び込んできなさい。モミモミ、スリスリ、違う世界が見えるまで可愛がってあげる。」
ミサキが手を広げるが、ニーナはハイドの背中へと隠れた。
「ゆ、許して欲しいにゃ。にゃーは、そういう趣味はないにゃ。」
「何言ってるの。みんな最初はそう言うの。でも、最後は・・・。」
「やめろ、ミサキ。ニーナが嫌がっているだろ。」
「ハイド、見かけによらず、常識狼ね。自分は夜な夜なそういうお店に行って、『俺を送り狼にしてみないか。キリッ。』とか言って女を口説いているくせに。」
「言ってねぇーし。そもそも、お前らのせいで折角の休暇にも関わらず、そういうお店行けてねぇーし。」
ハイド、心の叫びである。残念ながら、声に出してしまっていたが。
「あら、ハイド、今、休暇だったの?私、ハイドに休暇を出した覚えないけど?」
「奇遇だな。俺もお前のギルドに入った覚えはねぇーよ。」
そんなハイドにミサキが1枚の紙を出した。
紙には、【私、狼族のハイドは、ギルド『パンプキン・サーカス』に入団致します。 ハイド】と書いてあり、ハイドという名前の後に母印が押されていた。
「こんなものを書いた覚えも、母印を押した覚えはねぇーんだが?」
「当たり前にゃ。書いたのはニーナにゃ。」
「そして、母印は寝ているハイドの指を勝手に使って押したから、覚えているわけはないわ。」
「偽造じゃねぇーか!」
呆れるハイドに、ミサキが堂々と返す。
「それを証明することは出来るの?証拠を出してみなさい。証拠がこちらにある以上、『正義は我にあり。例え、偽造だとしても。』だわ。」
「チッ、・・・証拠は確かにねぇーな。しかし、それにおとなしく従う俺だと思うのか?俺は、傭兵ギルド『抗う心臓』のハイドだ。納得できないものには死んでも従わねぇー。それが俺の信念だ。」
「素晴らしい信念だわ。さすが私のハイド。当然私も力でハイドを従わせることが出来るとは思ってないのよ。だから、ちゃんと傭兵ギルドを通して、『抗う心臓』に同じ紙を送っておいたわ。ついでに私のハイドにこれ以上余計な迷惑を掛けるなという手紙をつけてね。」
「ちなみに、にゃーがミサキお姉さまに言われた通り、お金を積んで昨日速達で送ってもらったにゃ。」
「できるニーナは好きよ。でも、できないニーナはもっと好きよ。好きなように罰を与えることができるから。」
ニーナの頭をなでるミサキ。ニーナは頭をなでられて満足げである。
「はぁ~、マジか、お前ら。『抗う心臓』は、『オーバースター』の傭兵ギルドだぞ?俺が辞めるって紙だけならまだしも、そんな喧嘩を売るような手紙を送って無事に済むと思ってんのか?」
「『売られた喧嘩はすべて買う。売られてない喧嘩も買いまくる。パンプキン・サーカス以外はすべて死ね。』というのが我ら『パンプキン・サーカス』の信条よ。」
「・・・しょうがねぇー。とりあえず、俺が謝罪の手紙を送っておくから、『抗う心臓』を怒らすようなことはやめろよ。・・・これ以上、『抗う心臓』の怒りを買うようなことをしなければ、向こうもこんな喧嘩買ったりしないだろうからな。・・・しょせん、首になるギルドメンバーのことだしな。」
ハイドは、ニーナに紙と筆を用意させて、『抗う心臓』に謝罪の手紙を書き始めた。
「なんだにゃ、ハイド、首になるのかにゃ。」
「・・・いや、正確には首になるというより、首にしてくれって俺が言っているという方が正しい言い方だがな。」
「何で首にしてくれって言ってるの、ハイド?」
ハイドは、左目につけている眼帯をはずした。
そこにあったのは、切り裂かれた目だった。
「戦争で左目をやられちまってな、いまいち、距離感がつかめなくなっちまったんだ。弱い相手なら問題ねぇーが、同格の相手には致命的な欠陥だろ。それに、この都市に来てすぐにニーナに掏られたことあっただろ。あれも、以前ならあんなヘマすることはなかったんだがな。左側の視力がないせいで、見えなかったんだ。『抗う心臓』のハイド様がニーナに掏られたことにも気付かなかったなんて笑い話にもなりゃしねぇー。」
ハイドは乾いた声で笑った。
「まぁーそういう理由で『抗う心臓』のギルドマスターに首にしてくれって申し出たのさ。ギルドマスターは、もう一度よく考えろって休暇扱いにしてくれたがな。」
「ハイド・・・あなたの価値は戦うことだけじゃないわ。」
珍しく優しい言葉をかけるミサキ。その慈しみを含む視線は、ミサキがハイドに初めて見せた優しさかもしれない。
「ミサキ、慰めはやめてくれ。戦えない俺に何の価値があるって言うんだよ。」
「愛玩動物としての価値があるじゃない。」
ミサキ、即答である。どうやら、同格の人としての優しさでなく、愛玩動物に対する優しさだったらしい。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
ハイド、少しミサキを見直していただけに、ハイドの中でのミサキの評価はがた落ちだった。
「・・・種馬としての価値かにゃ?」
「答え合わせをしてるわけじゃねぇーよ!」
「冗談はこれくらいにして、だったら、『パンプキン・サーカス』に入ることに対して問題は何もないじゃない。私のギルド『パンプキン・サーカス』はあなたの加入を歓迎するわよ。」
ミサキは、真剣な表情でハイドを見つめた。ハイドが先ほど見たよりもさらに優しい瞳だった。
「・・・ちょっと考えさせてくれ。俺も迷ってんだ。これからどうするのかを。」
ハイドの顔には苦悩がありありと浮かんでいた。
ニーナは、泣きそうな顔でハイドの肩に手を添えた。
「ああ、心配させて悪いな、ニーナ。お前が悪いわけじゃねぇー。これは俺の問題なんだ。」
「答えは何なのにゃ?にゃーは気になって気になって仕方ないにゃ。」
「・・・はぁー。」
ハイドは、ニーナを無視して『抗う心臓』への謝罪の手紙を書き続けた。




