36 『ミサキ』 ニーナ、巧妙な罠にはまる
今回からしばらくはミサキ編になります。
「う~ん、ニーナ、朝食のパン買ってきて。」
狭い部屋の中にあるベッドというにはあまりにみすぼらしい板の上でミサキは目を覚ました。
近くの床には、ハイドが横になっていた。
ハイド曰く、「地面で寝るなんざ、戦場じゃ当たり前だ。」と硬い床をものともせずに寝ている。
「はいにゃ。」と元気よく、すでに起きていたニーナは家を飛び出して行った。
ここ交易都市グロースでは、朝早くから市場が開かれているため、そこで働く人のために早くから屋台などの店が開いているのだ。
今、ミサキとハイドがいるのは、交易都市グロース内にあるニーナの家の中だった。
いわゆる、スラムと言われる低所得者層が住んでいる地域であった。
ニーナの家は、みすぼらしく狭いが、ミサキは特に気にすることなく無理やりここに数日泊まっているのだ。
そして、なぜかハイドも泊まっていた、いや、泊まらされていたという方が正しいだろう。
当初、ハイドは、さすがにミサキとニーナと同じ部屋はまずいし、ぶっちゃけ、せっかく交易都市に来たら、行きたかった大人の店とかもあり、自分は宿屋を取るといったのだが、『別にいいけど、私、夜中にハイドいないと寂しくなって、つい町中の人を皆殺しにしてしまうかも。』と冗談なはずなのに冗談に思えないミサキの台詞を聞いて、しょうがなく、嫌々、この家で寝泊りしているのだ。
ミサキが、このニーナの家で寝泊りしているのには、一応、理由があった。
ニーナが命を狙われる可能性があったからだ。
ミサキ曰く、「ニーナが私のいない所で死ぬなんて、『飼っていた愛玩動物が私のいない場所で餌を与えられていたことぐらいの屈辱。』。」ということらしい。
ハイドは、「それってそんなに屈辱的なことか?」とミサキに尋ねたら、「殺してしまいたいくらいに(餌をやった相手を)。」と答えたので、「(愛玩動物を)殺すほどのことなのか。」とよくわからないミサキの理論に困惑していた。
ハイドが、真にミサキを理解するのには、まだ時間がかかりそうである。
ニーナが殺される可能性あると分かった理由は、カフェで巻き込まれた(ハイドが。決して、ミサキがではない。)事件で生き残った男を尋問した衛兵からの報告にあったのだ。
その報告とは、生き残った男は、ある商人の家によく出入りしていたチンピラであること。
その商人の家に最近泥棒が入ったということ。
その商人は泥棒が入ったにも関わらず、衛兵には届け出てないということ。
どうやら、その商人は禁止生物を扱っていたということだった。
その情報を衛兵から聞き、その後、ニーナに詳しい情報を聞いたところ、事件の全容がわかった。
この商人は、扱いが禁止されている生物『妖精』を扱ったのだ。
この商人が保管していた『妖精』をたまたま屋敷に忍び込んだニーナが見つけ、盗んだそうだ。
それだけならよかったのだが、ニーナは逃げる時に思いっきりその商人の家の警備をしている者達に顔を見られたのだ。
「顔を見られるなんて、ずいぶん間抜けな盗賊だな。」
ハイドがニーナを馬鹿にするが、「顔はちゃんと隠していたにゃ。」と言って、ニーナは、顔につけるタイプのマスクを見せてくれた。
「だったら、何で、顔バレしてんだよ。」
「あれはしょうがなかったにゃ。巧妙な罠だったにゃ。」
ニーナに聞くところによると、たまたま逃げようと屋敷のある部屋に入ったところ、そこに屋敷の主人と警備の数人が話し合いをしていた場だったそうだ。
「私は、この屋敷の主人、ドンゴ・ガルバチョですが、どなたですかな?」と屋敷の主人に問われ、「あっ、これはわざわざどうも、ニーナにゃ。」とマスクを取って丁寧に挨拶をしたらしい。
「・・・お前は、馬鹿なのか?」
呆れかえるハイドに「やめて、ハイド。これが、ニーナのいい所じゃない。まさに奇想天外だわ。」と満足そうなミサキ。
「にゃーは、こう見えて礼儀正しく育てられたにゃ。挨拶をされたら、返さないのは失礼にゃ。まさに巧妙な罠にゃ。」
それで、商人の手下共がニーナを探していたのだ。




