32 『ヒロ』 逃亡者レキエラ。出番なし者ヒロ。
ホルメスト王国は、キワール帝国の北に位置する小国で周辺をキワール帝国と北の大国ゲイトリア王国に囲まれている。
その状況で国として生き残れたのは、ゲイトリア王国とキワール帝国の国境の状況に関係していた。
キワール帝国の北であり、ゲイトリア王国の南である国境は、山脈地帯が続いており、唯一、その2国間にあるホルメスト王国だけが、キワール帝国とゲイトリア王国を平地でつなぐ土地となっていた。
ゲイトリア王国、もしくはキワール帝国が、お互いの国に陸地で侵攻しようと思えば、ホルメスト王国を通るしかなかったのだ。
この地を取った者が、相手の国に侵攻できるため、ゲイトリア王国がホルメスト王国に侵攻すれば、キワール帝国がホルメスト王国に援助をし、キワール帝国がホルメスト王国に侵攻すれば、ゲイトリア王国がホルメスト王国を援助するというなんとも微妙な関係の土地であった。
そのホルメスト王国で両国に恐れられた将軍が、『鬼将軍レキエラ・ヴァン・ホーエンハイム』であった。
1対1で勝てる者なしと言われたその槍の腕は、ゲイトリア王国とキワール帝国が揃って高額で引き抜こうとしたが、ホルメスト王国に忠誠を誓い決して引き抜きに応じることはなかった。
しかし、今から5年前、レキエラが35歳の時、ホルメスト王国に激震が走った。
当時の国王を王子が殺し、さらにホルメスト王国のゲイトリア王国への編入を発表したのだ。
レキエラは、あまり政治には首を突っ込まなかったため、この動きに対し反応が遅れてしまった。
そのため、気付いた時には王子派の兵に捕らえられて地下牢に入れられてしまっていた。
王子派が中立派のレキエラを処刑しなかった理由は、ゲイトリア王国が編入を認める見返りにレキエラを差し出せと言ってきたからだ。
あくまで、首を差し出せと言う意味ではなく、レキエラの将軍としての能力を買っての言葉であった。
北の大国ゲイトリア王国は能力至上主義で知られていた。そのため、ゲイトリア王国の国王がレキエラを欲したのだ。
しかし、レキエラは地下牢に入れられようと決してゲイトリア王国に所属することをよしとしなかった。
3ヶ月間拒否を続け、そして、3ヶ月経ったある夜、レキエラの直属部隊だった30人の兵達によってレキエラは救出されたのだ。
その後、直属部隊だった30人の兵達と共に執拗な追撃をかわし、キワール帝国へと抜け、しばらくはキワール帝国内の旧知の貴族に身を寄せた後、ヒルメリア都市連合国に去ったのだ。
アレクシスは、レキエラがキワール帝国の貴族に身を寄せていた際に、レキエラが何度か騎士団に顔を出した時に修練をつけてもらったことがあるのだ。
ヒルメリア都市連合国に逃亡した後、レキエラは持っていた財産を均等にレキエラを含めて31等分し、直属部隊に最後の命令として解散を命じた。
最初は、レキエラの元を去ることを嫌がっていた直属部隊の兵達だが、レキエラが荷物運びなどの仕事を見つけてきてやり始めると、その姿に幻滅したのか、ひとり、またひとりとレキエラに何も言わずにレキエラの前から姿を消した。
その後、レキエラの側には今いる9人だけが残った。
レキエラを含めて、10人は、ヒルメリア都市連合国の楽園都市ブリュッケンに行き、3年ほど日雇いの仕事をして暮らしていたが、今から1年前問題が起こった。
楽園都市ブリュッケンは、カジノなどギャンブルが盛んな都市としても知られている。
レキエラについて来た1人が、カジノで借金を作ってしまったのだ。
カジノでの借金は期日までに払えなければ、問答無用で奴隷落ちと楽園都市ブリュッケンの法律では決まっていた。
レキエラは、そのひとりのために金策に走ったが、どうしても期日までに借金を返せそうにはなかった。
その時、たまたま楽園都市ブリュッケンのバーで、レキエラ達の話を聞いていた人に勧められた大金を得られる仕事がこれだった。
交易都市グロースからアリステーゼ王国のエストラ男爵領に入る馬車、特に商人の馬車を襲えとという仕事だった。
ただし、サイラス領に向かう馬車は襲うなとも言われていた。
明らかに非合法な仕事だが、その場で借金を返せる大金をもらえるということで、レキエラを含め残りの9人は仲間の1人の借金のためにここエストラ男爵領で盗賊をやっていたのだ。
ちなみに後でわかったことだが、何年も前からこの仕事を請け負っているグループもいた。
3ヶ月に1回ほど、交易都市グロースのある屋敷に集められ、どのグループがどの範囲を請け負うかの取り決めなどもされていた。




