30 『ヒロ』 決して卑怯ではないのだ。これが狩りなのだ。
1時間も待つと、3匹のゴブリンが森の中から姿を現した。
川に近づき、水を飲んでいる。
シーターは声を出さず、冒険者の手信号で真ん中のゴブリンを弓で狙えと言ってきた。
ヒロは、冒険者の手信号もシーターのスパルタ教育のおかげでかなり覚えていた。
3人はシーターに言われた通り、真ん中のゴブリンを狙った。
シーターが矢を放ったと同時にアレクシスとヒロも矢を放つ。
3本の矢は、シーターの矢が真ん中のゴブリンの頭に命中し、アレクシスとヒロの矢は、真ん中のゴブリンの体に命中した。
矢が刺さった真ん中のゴブリンは、うめき声も上げずに地面に倒れた。
その時にはすでにアレクシスは、背中から大剣を抜き、向かって左側のゴブリンへと走り出している。
ヒロは腰のナイフを抜き、向かって右側のゴブリンへと走りだしていた。
ヒロは、仲間が倒れ興奮するゴブリンにそのまま向かうのではなく、一定の距離をとって立ち止まった。
ゴブリンは、ヒロに殴りかかろうと手に持った錆びた手斧で向かってくるが、ヒロは一定距離をとったまま無理にゴブリンと打ち合おうとはしない。
追うと逃げるヒロに怒ったのか、さらに興奮したゴブリンはどうにかしてヒロに追いつこうと周りを見ずにヒロを追いかけまわした。
そのゴブリンの背中にシーターの放った矢が刺さった。
「ウギッ?」
何が起こったか分からないゴブリンは、立ち止まって背中を触り、自分の背中に矢が刺さっているのを確認した。
そして、弓を構えたシーターの姿を確認すると、「ウギャー!」と叫び声を上げて、シーターへと矛先を変えようとしたがそこまでだった。
すでに、ゴブリンの後ろにはヒロが立っており、ヒロはナイフでゴブリンの首筋を深く切り裂いた。
そのまま糸の切れた人形のように地面に倒れるゴブリン。
アレクシスの方を見ると、すでにゴブリンを頭から胸辺りまで一刀で切り裂きヒロ達の様子を見守っていた。
「最高!ヒロちゃん、最高!そうだよ、それだよ。これこそが狩り。勝つべくして勝つだね。」
シーターは、ヒロとの連携がうまくいったのが相当うれしかったのだろう、今にも踊りはじめんばかりの喜びようだった。
「完璧だったぞ、ヒロ。」
アレクシスも感心したようにヒロを褒めた。
大まかな作戦は、ヒロがゴブリンの気を引いて、その隙にシーターがゴブリンに矢を刺し、もし矢で殺せない場合はヒロが止めを刺すという作戦だったのだ。
この場合、矢が刺さってもゴブリンがヒロを追いかけた場合は、さらにシーターが矢を刺す予定だった。
「それに比べて、アレクシスは・・・なんで連携無視でゴブリンを真正面から一刀両断しちゃうかな?馬鹿なのかな?脳筋なのかな?」
「いや、それは・・・申し訳ない。」
「まったく、狩りは正々堂々の一騎打ちじゃないんだよ。怪我をせずに勝つ。勝てるべくして勝つ。そこに賭けの要素なんて1mmも必要ないんだよ?以前から私が言ってるでしょ。」
もう、と言いながら、シーターは、アレクシスのもとに行き、全身を見て怪我がないことを確認した。
一刀両断なので怪我の心配などないのだが、やはりアレクシスのことが心配なのだろう。
「それにしても前から思ってたけど、ヒロちゃんって動き早いよね?」
「そうですか?」
ヒロは他人と動きを比べたことがないので、そう言われても分からなかった。
「ああ、かなり動きが早いと思うぞ。」
「ありがとうございます。」
アレクシスの表情にお世辞の感じはなかった。
その後、何匹かゴブリンを狩ったところで、ゴブリン狩りを切り上げキャンプ地へと戻ることにした。
ゴブリンは、解体せずにヒロがそのまま死体まるごと『とめどない強欲の指輪』の中にしまった。
ゴブリンは、基本、家畜の餌となっており、細かい解体は必要ないため、そのまま持って帰るのが普通だった。
ちなみにゴブリンの死体は、太い包丁2本で細切れになるまで破壊するのが普通らしい。
初めてそのことを聞いた時、ヒロはさすがにちょっと引いたが、日本でもゴブリンではないが、ミキサーのような機械で生物の死体を細々にするというのを見たことがあるだけに、この世界だけが野蛮だというわけではないのは理解していた。
ゴブリンの死体を持って帰れない場合は、左耳を取って帰れば、お小遣い程度のお金が冒険者組合からもらえるそうだ。
これは、ゴブリンという種が増えると危険だからであり、普通の魔物は勝手に狩ったからといって冒険者組合からお金が支払われることはない。
普通冒険者組合は、魔物から取れる肉や毛皮や魔石に対して買取しているだけなのだ。
ゴブリンという種自体に常時冒険者組合が討伐依頼を掛けているため、ゴブリンを討伐したということに対して支払われるのだ。
「それじゃ、戻ろうか。」
3人は、離れた場所に止めていた荷馬車へと向かった。




