29 『ヒロ』 異世界って言ったら、やっぱりこれよね。愛しのゴブリン。
「それでは、本日は冒険者の基本であるゴブリン狩りに行こう!」
堅いパンに燻製にしたマイナーブルの肉を薄く切ったものを乗せた何とも味気ない朝食を食べた後、シーターが元気よく今日の予定をアレクシスとヒロに説明した。
と言っても、すでにこの数日繰り返してきたことなので、特にわからないこともなかった。
ゴブリンは、この世界に蔓延るゴキブリみたいな扱いで1匹みたら10匹いると思えと言われている魔物だった。
人型だから勘違いされやすいが、この世界ではゴブリンと人とは子供を作ることはできない。
ゴブリンが人を狩るのは、あくまで食料としてだ。
ゴブリン自体は力も知能も低い魔物なのだが、その繁殖力は目を見張るものがある。
ただ、その繁殖力が仇となり、食料不足になったゴブリンは共食いを始めるのだ。
これにより、ゴブリンの異常繁殖という事態は避けられているのだ。
ただ、この共食いという行為は、非常に人間にとって危険な行為であり、昔、実際にあったことだが、共食いの最後の生き残りのゴブリンが異常進化を遂げたということがあった。
このゴブリンは、人間のような姿をしており、知能も高く、高位魔法まで使ったという。
そして何より他の魔物を従える能力を有しており、それによりゴブリンに率いられた魔物の群れに滅ぼされた国があるのだ。
この出来事は『ゴブリン王の厄祭』と呼ばれており、これを繰り返さないためにも冒険者組合が率先して、ゴブリン狩りを推奨しているのだ。
ちなみに、『グランベルグ大陸』内では、ゴブリンは進化種の一種として知られており、ある条件をクリアすると上位種に進化するとされていた。
「また、ゴブリンか。」
アレクシスはやや気乗りしない様子だ。
初めてゴブリンを狩った時に聞いたが、アレクシスのいた騎士団では入団したての団員は嫌になるほどゴブリンを狩らされるらしい。
それこそ飽きるほど狩らされるのだそうだ。
これは、騎士団という特性上、人間に似た姿をしているゴブリンを狩ることにより、人間を殺した時の精神的ダメージを和らげるという意味合いもある。
実際、ゴブリンを多く狩った者ほど、人間を初めて殺した時の精神的ダメージはあまりないそうだ。
アレクシスのゴブリン嫌いは、あまりに狩りすぎたために逆に嫌になったということらしい。
アレクシスの性格上、強い者との戦いを好む性格ということもあり、ゴブリンのような弱い魔物との戦いは弱い者いじめのような気がしてあまり好きでないということだった。
「はあ、何言ってんのよ、アレクシス。Cクラスの冒険者のくせして。ゴブリン狩りを甘く見る者は、ゴブリンに殺されるのよ。基本を疎かにする冒険者は、早死にするのが相場なんだからね。」
「わかってるさ、シーター。ちょっと、昔を思い出しただけだ。」
アレクシスは肩をすくめた。
シーターは、冒険者に成りたての頃、相当厳しい師匠に教わったらしく基本には口うるさかった。
3人は、30分ほど荷馬車に乗り、北のクリオラの森に行った。
クリオラの森は、エストラ男爵領の5倍はあると言われている広大な森林だ。
ゴブリンは森にいることが多く、特に森と川がある場所によく生息していた。
クリオラの森の前には川が流れており、ゴブリンが生息するには絶好のポイントだった。
3人は川を渡り、森の中を確認する。
今は、ゴブリンの姿を確認することは出来なかった。
森の中に入ることはせずに、森の端で隠れることができる場所で身を隠す。
森の中に入るとゴブリンは背が低いので、ゴブリンの姿を見逃すことがあり、下手したら不意打ちを喰らうことがあるため、そこまで危険を冒す必要が無い状況では、このように一定の場所で待ち構えるのが通常のゴブリン狩りのやり方だ。




