2 『ヒロリン』が人間ではなかった件
町を歩いてみると、確かに町の規模に比べて、異常に人の数が少なかった。
門番のおじいさんに言われた通りに歩いていくと、教えてもらった看板がついている建物があった。
入り口のドアは、西部劇に出てきそうなスイングドアだった。
「なにか用?」
『ヒロリン』が入ると、すぐに左手にある受付らしき場所に座っている女性から声を掛けられた。
「あの~、門番さんにアイテムや武器を買い取ってくれると聞いてきたんですけど?」
『ヒロリン』と受付の女性以外に今は誰もいないようだった。
入り口を入って、受付と反対の右側には、いくつかテーブルがあり、カウンターとその奥には多くのお酒のビンが棚に並べられていた。
「大丈夫だけど、あなた、冒険者?」
「いえ、なんというか・・・旅人というか迷子というか。」
『ヒロリン』は、門番のおじいさんにした説明を受付の女性にも繰り返した。
「へえ~・・・空間系の魔法かな?んっ?・・・ちょっと、私に近づいて目を見せて。」
『ヒロリン』は、受付のカウンター越しに顔を前に出し、受付の女性に近づける。
受付の女性も気持ち前に出て、『ヒロリン』の目をじっと見つめた。
受付の女性は、髪は肩より長く、白金色をしており、唇は血のように赤く、肌は雪のように白かった。
目は透き通ったブルーをしており、その瞳に見つめられると綺麗な海を見ているような感覚に陥る。
女性は椅子に座ったままだが、着ている服が胸の上部が出ているタイプの物ということもあり、かなりの大きさの胸であるということもわかり、『ヒロリン』はやや体温が上がるのを感じた。
「・・・・・・・はぁ・・あなた・・・どういうつもりでここに来たの?」
「どういうつもりと言われても?何かまずかったですか?」
「そりゃまずいでしょ。あなた人間じゃないわよね?・・しかもこの強さ、この町を滅ぼすつもり?」
「いや、そんなつもりはまったく無いですけど・・・やっぱり、バンパイアハーフはまずいですか?」
「まずいに決まってるでしょ!」
『ヒロリン』の『グランベルグ大陸』内での種族は、バンパイアハーフ。
いわゆる、吸血鬼と人間のハーフである。
しかも、お金を積まないと選ぶことができない課金レア種であるノーブル(貴族)種吸血鬼と人間のハーフであった。
『グランベルグ大陸』内では、ノーブル(貴族)種以上の吸血鬼が真祖とされている。
その真祖と人間のハーフ、お値段45万円である。
間違いなく両親の保険金のおかげでできた買い物であるが、きっと『ヒロリン』の両親は草葉の陰で泣いていることだろう。
「まったく何を考えてるの?・・・それにしても、バンパイアハーフという割には、髪の毛も黒色だし、眼の色も黒でバンパイアっぽくないわね?何か理由があるの?」
「理由と言うか、今の状態では人間種とほとんど変わりありませんから。・・・ちょっと待ってくださいね。」
『ヒロリン』は、『とめどない強欲の指輪』からアイテム『純血の乙女』を取り出す。
アイテム『純血の乙女』は、小瓶に入った乙女の血である。
その小瓶の蓋を開け、ほんの少し口につける。
すると、『ヒロリン』の姿は、あっという間に、白い髪に深紅の瞳へと変わった。
『グランベルグ大陸』内のステータスで言うと、元のステータスの4倍になっている状態である。
元々の『ヒロリン』の職業は、盗賊系を極めたトリックスターであるが、『純血の乙女』を飲んだ後は、ノーブル(貴族)種吸血鬼になり、盗賊系のスキルは使えなくなる。
その代わり、ノーブル(貴族)種吸血鬼のスキルや魔法を使用できるようになる。
ただし、ノーブル(貴族)種吸血鬼になれる時間は、『純血の乙女』を飲んだ量によって決まり、『純血の乙女』一瓶につき、およそ10分である。
ちなみに、『純血の乙女』一瓶の値段は、1本100円である。
「この魔力・・・とんでもないわね。」
10秒程度で『ヒロリン』の姿が、元の黒髪、黒眼に戻った。
バンパイアハーフと便宜上していますけど、基本的に血を飲まない状態では人間種、血を飲んでいる状態では吸血鬼になると思ってください。