26 『エルダ』 戦う(ただし、蹂躙というか虐殺というか一撃です。)
「エルダ、ありがとう。本当にありがとう。」
宿屋に戻ったラインベルトは、涙を流しながらエルダに抱きついた。
「エルダ様、顔。」
ルーベル爺に言われ、だらしなく緩んだ顔を戻すエルダ。しかし、その眼は緩んだままである。
「それにしても、エルダはどこであんな大金を稼いできたんだい?」
「何、いい武器屋でな。いい値段で買ってくれた。」
ルーベル爺は、エルダから貰った袋を開けて中を確認したが、そこに入っているのは白金貨ばかりであった。
「私からも感謝申し上げます、エルダ様。」
「何、気にするな、ルーベル爺。まあ、支度金というか結納金というかゴニョゴニョ。」
「えっ、何ですか、エルダ?」
「ラインベルト、まあ、いわゆる、初めての共同作業みたいなものだ。はははははは。」
「あのちょっと、エルダ様よろしいでしょうか?」
ルーベル爺は、浮かれるエルダを廊下へと引っ張りだした。
「何だ、ルーベル爺。」
「実はですね。その事なのですが、この国では結婚は15歳からとなっておりまして。」
「なん・・・だと。」
「申し訳ありません、あまりにラインベルト様とエルダ様がお似合いですので、そのことを失念しておりました。」
深く頭を下げるルーベル爺。絶対に嘘である。
「・・・・まあ、法律なら・・・仕方が無い。15歳まで待とうではないか。」
眼から血の涙を流しそうな表情で悔しがるエルダ。
「もう一つ問題がありまして。」
「何だ?」
「エルダ様とラインベルト様のような本当にお似合いのお二人が、借金のかたで結婚したと言われるのはあまりにも・・・。」
「・・・・確かに。」
「そこでどうでしょう。まだ、ラインベルト様は、恋も愛も知らぬお方。借金のかたといわれれば、喜んで結婚するでしょう。しかし、それでエルダ様は、本当にうれしいのでしょうか?」
「・・・うれしくない。うれしくないぞ、ルーベル爺。」
「そこで、この爺に一案があるのですが?今から3年間は、ラインベルト様の騎士として最善を尽くし、ラインベルト様から求婚されるようにしてはいかがでしょうか?」
「・・・・ラインベルトから求婚・・・そ、それは・・・それは素晴らしすぎるぞ、ルーベル爺。名案だ!」
「それでは、3年間は、ラインベルト様の妻としてではなく、騎士として過ごすということでよろしいでしょうか?」
「ああ、むしろこちらからお願いするぞ、ルーベル爺。」
「ちなみに、ラインベルト様の唯一にして無二の騎士たるエルダ様には、エストラ男爵領のことを金銭面を含めいろいろとお願いさせていただくことも出てくると思いますが、構いませんか?」
「当たり前だ。ラインベルトの唯一無二の騎士として出来ることはすべて任せろ。ははははは。」
ルーベル爺、彼こそエストラ男爵領唯一無二の執事であった。
翌日、早くにエルダ達は馬車で都市サイラスを出発した。
エルダは、朝から完全武装だった。
「エルダ、一瞬で完全武装できるのだから、わざわざ今から完全武装しなくても。」
「ラインベルト。騎士たる者、いつ何時も戦場に身を置いているという心構えが大切なのだ。キリッ。」
エルダ、超やる気である。
「そうなのか・・・確かにそうだ。さすがエルダだ。」
憧れのような表情でラインベルトに見られ、フルフェイスの中は緩みきった表情なのだが、ラインベルトからは確認できないので関係なかった。
サイラスからエストまでの距離は、馬車でおよそ6時間である。
そのちょうど半分程度進んだ時、遠くに馬群が見えた。
「ラインベルト様、盗賊でございます。」
御者の席から、ルーベル爺が焦った声を上げた。
「逃げ切れそうか、ルーベル爺?」
「無理でございます。あちらの方が、足が早ようございます。」
「ルーベル爺、馬車を止めてくれ。私が相手をしよう。」
「エルダ、大丈夫なのかい?」
「ふっ、心配するな、ラインベルト。あなたの騎士は愛さえあれば無敵だ。」
ルーベル爺は言われた通り馬車を止め、エルダ一人が馬車を降りた。
エルダの目にも遠くから近づいてくる馬群が見えた。
「フォルクス、出て来い。」
エルダが、指輪の一つに意識を集中すると、エルダの目の前に銀色の機械仕掛けの馬が現れた。
ユニコーンとペガサスを合わせたような馬体である。
「久しぶりだな、フォルクス。」
エルダは、優しくフォルクスの首をなでると、フォルクスの背に跨った。
「いけ、フォルクス。」
「ヒヒィーン。」
フォルクスは、地面を駆けるのではなく、空へと駆け上がっていった。
あっという間に、かなり上空に上がったエルダは、ラインベルトの乗った馬車に段々と近づいてくる馬群を見下ろしていた。
「愛のために死ね、盗賊共。天空騎士魔法『雷槍の雨』。」
馬群の上空に魔法陣が現れる。そして、魔法陣が完成すると、そこから雷の力を纏った多数の槍の雨が地上へと降り注いだ。
ズガガガガガガッガガガガガガガガガガガァーーーーーーーーーン
もの凄い地響きと土煙があたりを覆った。
土煙が晴れた後の地上を動いている生き物はいなかった。
「・・・エルダは・・・女神なのだろうか?」
馬車から見ていたラインベルトがつぶやいた。
「それにしては、少々、性癖に問題があるように思いますが・・・。」
そういいながらも、天空にいるエルダを見るルーベル爺の目には感謝の気持ちがこもっていた。




