21 『エルダ』 それって結婚詐欺じゃないの?
ラインベルトとエルダとルーベル爺が、都市サイラスに到着して3日が経っていた。
毎日、サイラスの中心部にあるサイラス伯爵領の城へと出かけているが、朝から夕方まで応接室で待たされるだけで、未だにサイラス伯爵には会えてなかった。
ただの嫌がらせということは分かりきっていたのだが、だからといってお金を借りている(それも尋常ではない金額)分際で、待たないというわけにもいかず、サイラス伯爵が会ってくれるまで通い続けるしかなかった。
「すいません、エルダ。」
貴族がとても泊まるような宿屋ではない安宿にラインベルトとエルダとルーベル爺は、2人部屋に3人で泊まっていた。
少しでも、お金を節約しなければいけないからだ。
ラインベルトとルーベル爺は、本当に申し訳なさそうにしていたが、「むしろ、望む所だ。」とエルダはなぜか頬を少し赤くしていた。
ちなみに、ラインベルトとルーベル爺が2人が同じベットで寝ると申し出たのだが、エルダの「そんなの誰得だ。いや、むしろありかもしれぬが、ここは、やはり、私とラインベルトが一緒に寝るのが一番よいのではないかと思うぞ。」という強引にラインベルトをベットに引き込むという手法により、結局ラインベルトとエルダが同じベットに入るようになっていた。
この世界の宿屋のベッドは、元の世界より体が大きい人間が多いからか、ベッドのサイズ自体も大きいため、シングルサイズといえども、エルダとラインベルトが一緒に寝るのに問題はなかった。
唯一の問題は、いつも寝ているとラインベルトの顔にエルダが胸を押し付けてきて窒息しそうになることぐらいで、3日目の朝にあまりの苦しさにエルダにそれとなく伝えたところ、「何、それはサービスのつもりだったのだが。」とわざとやっていたことがわかり、やんわりとやめてもらうように言った。
「何、ラインベルトの本拠地に帰れば、一緒に寝れないのだろ?それなら、むしろここに住んでもいいくらいだ。ところで、私を呼ぶときは、もうちょっと、何も知らない無垢な少年の感じで呼んでもらえると助かるぞ。」
「・・・エルダ?」
「う~ん。おしい。もうちょっと、声を高めに。」
「・・・エルダ。」
「そうそう、いい感じだぞ、ラインベルト。」
ラインベルトとエルダがこういうことを始めると、絶対に会話に入ってこないばかりか、存在を消す、出来る執事のルーベル爺であった。
「おう、そうだ、ラインベルト。私は、明日、ちょっと一人で行きたい場所があるのだが、いいだろうか?」
「ええ、構いませんよ、エルダ。たぶん、明日もサイラス伯爵には会えないでしょうから。大体、いつも5日か6日くらいは焦らされますから。」
「本当に性格の悪い男だな、サイラス伯爵という男は。あの城を見ても、あまりの趣味の悪さに吐き気がする。」
エルダが言っているのは、サイラス伯爵の城ではなく、城の両側に立っている塔のことである。
その2つの塔は、外壁を金粉を塗っており、住民の間では、黄金の塔と言われている、表向きは。
裏では、成金の塔と言われているのだ。
塔の中には、金貨や宝石がつめられており、ある意味、黄金の塔という呼び名が合っているともいえた。
城の中ではなく、あんな城の外にわざわざ塔を造ってまで、自らの財力を誇るのは、悪趣味の極みと言えるのではないかとエルダは思っているのだ。
「あの悪趣味な塔を破壊してやろうか。」と半ば本気でつぶやいた時に、隣にいたラインベルトが、「ははは。エルダ、やめてくださいよ。住民に迷惑がかかりますから。」と冗談で受け答えをしていたおかげで、とりあえずエルダは塔を破壊するのは思いとどまっていた。
「それより、どこに行かれるのですか?」
「ああ、さすがに着るものの換えがなくなってきてな。ちょっと買ってくる。あっ、金は自分で用意するからいいぞ。」
エルダは、サイラスに到着してすぐに簡単な着替えは、安い物だが、ラインベルトに買ってもらっていた。
ただ、お金の無いラインベルトのことなので、少ししか買えず、3日も宿屋に泊まれば、すぐに着替えが底をついていた。
「すいません。情けない領主で。」
ラインベルトの頬を一筋の涙が流れた。
そのラインベルトの表情を見て、思わず、ヨダレがこぼれるエルダ。
「エルダ様、ヨダレが出ていますぞ。」
小声でエルダに忠告するルーベル爺。
すぐに口元をぬぐい、表情をしっかりと戻す。
「いや、気にするな、少年。ちょうど、この都市の武器屋にも行って見たいと思っていたのだ。」
実際は、エルダは、ラインベルトのいない所でルーベル爺から言われていたのだ。
「実は、もう、この都市に滞在するための資金が底をつきかけておりまして・・・。」
「そうか。どこかに借りるあてはないのか?」
「残念ながら、もう、借金の担保になるものが、ラインベルト様本人ぐらいしかありませんので・・・。」
「・・・何?ラインベルト少年本人が、借金の担保だと?」
「はい。エストラ領に残された担保は、それぐらいであります。」
なぜか、興奮した表情へと変わるエルダ。
「ちなみにだ、ルーベル爺。あくまでちなみにだぞ、本気で思っているわけではないが、私が、お金を立て替えた場合、それは、ラインベルトを担保にした借金ということにできるのだろうか?」
「そうですね。一応、エルダ様は、ラインベルト様の騎士という立場ですから、ラインベルト様にお金を貸したからといってラインベルト様をもらえるということはありませんが・・・。」
「そ、そうなのか。」
わかりやすく落ち込むエルダ。
「出来るとしたら、借金の担保として、ラインベルト様の妻の座につくということでしょうか。それでしたら、エルダ様が借金の担保にラインベルト様を買ったと言えなくもないですから。」
「な、なんと!そんな素晴らしい状況を生み出せるとは。」
わかりやすく興奮するエルダ。
「・・・だが、私は、今年で20歳になるのだが、そのラインベルトとの年の差は大丈夫だろうか?」
すでにラインベルトと結婚する気満々のエルダは、もじもじしていた。
「はい。大丈夫だと推測致します。ラインベルト様は幼くして御母上を亡くされ、母親の温かさを知らずに育っております。そのため、どこか年上の女性に憧れるようなところがあるように爺は推測致しております。このことをふまえれば、まさにエルダ様は、ラインベルト様の好みのど真ん中ではないかと推測する次第でございます。」
あくまで推測で成り立っているルーベル爺の考えだが、興奮しているエルダはそれに気付く気配はない。
というか、むしろ積極的に信じていた。人間は信じたいものを信じるとはよく言ったものである。
「そうか。では、早速、お金を用意してこよう。どこか武器の売れる所はないかな、ルーベル爺。」
ルーベル爺は、このサイラスで一番有名な武器屋をエルダに教えた。
「それでは、未来のラインベルト様の妻であり、未来のエストラ男爵領領主の母君になられるお方、なにとぞよろしくお願い致します。」
「ふむ。まかせておけ、ルーベル爺。」
ルーベル爺、とんでもなくできる執事である。




