20 『エルダ』 自らの欲望まみれの理由で騎士になる
「クルーアをどうぞ。」
ルーベル爺が、エルダにカップを差し出したのをエルダが受け取り、一口飲んでみた。
「ほう、これは、コーヒーか。うまいな。」
「エルダ殿の地方では、これはコーヒーというのですか?」
ラインベルトもルーベル爺からカップを受け取り、クルーアに口をつける。
「ああ、そうだ。ここでは・・クルーア?というのだな。」
「はい。」
「それにしても、いい景色だな。」
エストとサイラスの間は、小さい森や多少の起伏や丘はあるものの、基本的に見晴らしのよい草原地帯であった。
「はい。ですが、最近は、このあたりでも盗賊の噂がありまして・・・。」
ラインベルトの表情が曇った。この盗賊のおかげで、エストの町には、サイラスから商人がこなかったのだ。ちなみに、エストの町とヒルメリア都市連合国の交易都市グロースの間にも盗賊が多発しており、これがグロースから商人がこない理由となっている。
「盗賊とな。それは、問題だな。」
「はい。僕に剣の腕があれば、自ら退治するのですが・・・。」
ラインベルトは、自らの腰に差している剣を左手でさすった。
すでに、祖父から受け継いだ剣は、お金のために売り払っており、腰に差しているのは所謂模造刀だ。当然、人など切れはしない。
「ちょっと、その腰に差した剣を見せてもらえるかな、少年。」
「・・・・はい、どうぞ。」
ラインベルトは、エルダに模造刀を見せるのは恥ずかしかったが、元々、祖父から受け継いだ剣を売ったのは自分のため、これも自分への罰の一つだと思い、素直に模造刀を渡した。
「ふむ、これは、模造刀か・・・珍しいな。少年、この模造刀とこの剣を交換してはくれないか?」
エルダが、自分の腕につけていた、細い腕輪をはずし、ラインベルトへと渡した。
その時見えたのだが、エルダは腕に多数の細い腕輪をつけていた。
「これは?」
「指にでもつけてみてくれ。」
「指にですか?」
腕輪の中に指を一本通すと不思議なことに、腕輪は、指輪サイズへと変化した。
そして、ラインベルトが、その指輪に意識を向けると、指輪は、先ほど馬車の中でエルダが見せた時と同じように武器に変化した。
立派な鞘から剣を抜くと、その剣は、ラインベルトが今まで見たことのないような綺麗な刃をしていた。
「まあ、ミスリルの剣だから、珍しくもなんともないけど、この模造刀にはちょうどいい交換品だろう。」
ラインベルトは頭が痛くなってきた。
実際に痛くなったのではなく、エルダの言葉が理解できなかったからだ。
どこの世界にミスリルの剣とくず鉄から作ったような模造刀を交換しようという者がいるのか。
目の前のエルダが、まさにそういう者なのだが、信じられない気持ちで一杯だった。
ちなみにラインベルトが祖父から引き継いだ剣は、よく鍛えられた鋼の剣であった。
その大事にしていた鋼の剣でさえミスリルとでは、天と地ほどの差があるのだ。
「いやいや、さすがにこれは無理です。」
ラインベルトは、ミスリルの剣を鞘にしまい、エルダに返そうとしたが、「ふむ、中々、少年は商売がうまいな。」と言って、新たに腕輪を渡してきた。
そういう話ではないのだが、と思いながらも、エルダがどのような武器を渡してきたのかに興味を抑えられずに、つい指につけて意識を向けてみた。
ミスリルの兜と鎧のセットであった。
ミスリルの兜と鎧と剣のセット。
「・・そんなに模造刀が珍しいのですか?」
「ああ、私は、鍛冶師だからな。見たことの無い剣は、どうしても欲しくなる。」
「そうですか、鍛冶師ですか・・・・って、騎士ではないのですか?」
てっきり、騎士と思い込んでいたラインベルトは、驚いた。
「うん?騎士と名乗ったことはなかったはずだが?」
「確かにそうですけど、・・・。」
確かにエルダの言うことはその通りだが、あんな格好でいれば、誰でも騎士と思うだろうと、ラインベルトはやや不満に思う。ちょっと騙されたような気分だ。
そんな気分を抑え込み、ラインベルトは、兜と鎧と剣を指輪に戻し、エルダへと返した。
「エルダ殿、その模造刀には、この剣などと同等の価値などありません。ゆえに、交換はできません。」
「別にそれでも構わないぞ。というか、それ以下の物は持ち合わせてないからな。」
「しかし・・・それでは、僕がエルダ殿を一方的に騙したようになりますので・・・。」
「う~ん・・・。あ~、そうだ。そうしよう。」
エルダがいかにも名案が浮かんだという声を上げた。
「残念ながら、私は、今、お金を持っていないから、この模造刀が買えない。だから、とりあえず、少年に、このミスリルの剣・・・とついでに兜と鎧も上げよう。」
エルダは、再び、指輪をラインベルトに渡した。
「それで、どのくらい差額が生じるのか私はわからないから、少年に任せるが、少年が私にその差額を返せたと思うまで、私は、少年について行くよ。」
「・・・はい?」
「そう言えば、少年は、貴族だったな。貴族には騎士がついているものだろう。見たところ、少年には専属の騎士がいないみたいだから、私が、それになってあげよう。何、本職は鍛冶師だが、騎士もできないわけではない。まかせたまえ。あっ、間違えてもらっては困るが、決して、私が、年下の可愛い少年が好きとかショタという属性を持っているということは断じてないからな。勘違いはよしてくれよ。」
「えっと・・・何を言っているのかわかりませんが?」
貴族専属の騎士というのは、自ら押しかけてなるものではなく、貴族が選ぶものである、当然ながら。それを、なってあげるよの一言でしてあげる貴族がいるのか?はたまた、してもいいのか?ラインベルトには分からなかった。
「ラインベルト様、よろしいのではありませんか?」
「ルーベル爺。しかし、本当によいのか?」
「別に押しかけたと思うのではなく、自己推薦をしてきた者を騎士にしたと思えばよいのではございませんか。・・・それに、あのミスリル一式は、今後どんな場面で役に立つか・・・まさに救いの手だと爺は思いますぞ。」
ルーベル爺の最後の方の言葉は小声だったため、エルダには聞こえなかった。
ルーベル爺の言いたい事は簡単だ。いよいよ借金で追い詰められた時は、あのミスリル一式を売ってしまえと言っているのだ。
確かに、それは、近い内に実現するだろう。
「・・・あの、一つだけ確認したいのですが、これを売ってお金に換えても・・・エルダ殿は、問題ないのですか?」
「ん?全然構わない。そんなの売ってもいくらになるか知らないが、たいした武器や防具ではないからな。」
「わかりました。それでは、エルダ殿のおっしゃった通り、エルダ殿を僕の騎士にします。」
「・・・ちなみに、あくまでちなみに聞いておくのだが、貴族専属の騎士というのは、当然、主人がお風呂に入る時は、お風呂の中にまでついて入って警備をするのだろ?」
エルダの視線は、ラインベルトから外れて空を見上げている。
「・・・そのような事はないとは思いますが、どのようにするのか今度調べておきます。」
ラインベルトは、そんなエルダを見て、やや不安に感じていた。
エルダの武器や防具が、腕輪や指輪になっているのは『グランベルグ大陸』の仕様で『リング化』という鍛冶スキルを使っているからです。
ゲームの中で『グランベルグ大陸』内のアイテムボックスに入れなくても戦闘中にノータイムで武器や防具を交換できるという利点があるスキルです。
武器や防具自体にスキルがかかっているため、他人に渡すこともできます。




