193 サイラス、最悪の1日(8)
「ガドンガルさん!」
サイラスの大通りを歩くガドンガルが振り返ると、ハイドが追いかけて来ていた。
「何か用か、ハイド?」
「いや、別に用ってわけじゃねぇーんだが・・・ガドンガルさんの息子って確か、サイラス伯爵の3男率いるテトリナ子爵の兵士達に殺されたんだったなと思い出してな・・・。」
「・・・・お前には関係ない。皆の下へ戻れ、ハイド。」
ガドンガルの視線には、ハイドが見たことの無いような殺気がこもっていた。
「そうは行くか。ここでガドンガルさんをみすみす死地に送ったとあれば、俺はギルドマスターに会わせる顔がねぇー。」
ハイドの言っているギルドマスターとは、ミサキではなく、傭兵ギルド『抗う心臓』のギルドマスターのことだ。
「・・・・。」
「・・・・。」
ハイドとガドンガルの睨み合いは暫しの間、続いた。
そして、ガドンガルの方が先に折れた。
「まったく・・・アイツは団員にどういう教育をしてきたんだが、自ら死地に行こうとするなんて傭兵としては致命的だろ。」
「それは、悪かったな・・・ただ、残念ながら、今、俺は傭兵休業中だ。1人の戦士ハイドとして、ガドンガルさんに助太刀するって決めたってだけだ。」
「・・・本当に生きて帰れないぞ?・・・ワシはただ、あのアダマンタイトの騎士に一太刀浴びせたいだけだ。」
「元『抗う心臓』のガドンガルさんともあろうものが、変なことを言うもんだぜ。戦場に出たら、仲間を見捨ててまで己の命を拾おうとする奴なんて、『抗う心臓』に居ると思うのか?両方死ぬか、共に生きるかだ。」
「『抗う心臓』を辞めたワシを仲間と言ってくれるのか。」
「一緒に酒飲んだだろ?立派な仲間じゃねぇーか。」
ガドンガルは、兜の入った袋を地面に置き、空いた手でハイドと固く握手をした。
「そうね。『抗う心臓』の心意気を見せてやりましょ!」
ガドンガルとハイドが握手をしている手の上に、もう1本、手が置かれた。
「・・・お前は、『抗う心臓』じゃねぇーだろ、ミサキ。」
呆れた表情のミサキを見るハイド。しかし、ミサキは、先ほどまでの不機嫌が嘘のようにニコニコとした表情だった。
「・・・ミサキも手伝ってくれるのか?」
ガドンガルは、驚いたような顔をしていた。
ヒロは、頼めば手を貸してくれたかもしれないが、ミサキは絶対にこういう敵討ちのようなことに手を貸す性格ではないと思っていたからだ。
「当たり前でしょ、髭面親父。私と髭面親父の仲じゃない。」
「・・・せめてガドンガルと呼んでくれないか?」
「わかったわ。ガガンガル。」
「それは、ワシの叔父の名前だ。」
「まさか存在するなんて、やるわね、ドワーフも。」
ミサキは変なことで感心していた。
「ミサキ・・・お前、本当に手伝ってくれるのか?」
ハイドは未だに半信半疑といった表情だった。
ハイドこそミサキがこんな敵討ちといった他人の事情に手を貸す性格ではないということをよく知っていたからだ。
「ハイド・・・歯を食いしばれー!」
ミサキは、ハイドを殴った。
「グゥッ」
ハイドは、ミサキに殴られ、地面に膝をついた。
「な、何するんだよ、ミサキ。」
「アンタね、『パンプキン・サーカス』の一員ともあろう者が、こんな楽しそうなパーティーを1人で楽しもうとするなんて、どういう了見よ!他のメンバーには黙っておいても、私には教えてくれなきゃ。」
「あっ・・・そういう受け取り方なわけね・・・。」
ハイドは、ミサキが来た理由がようやく理解できた。
ミサキにとっては、楽しい遊びの一環なのだ。
「さあ!ハロウィン・パーティーの始まりよ!楽しみましょ!」
ミサキは腰につけたアイテムボックスからパンプキンヘッドを取り出し、そしてパンプキンヘッドをかぶり、ご機嫌でサイラスの城へと向い歩き始めた。
ハイドとガドンガルも、半分呆れ、そして、半分笑いながら、ミサキの後を歩き始めた。