192 サイラス、最悪の1日(7)
エストの城のラインベルトの部屋のバルコニーでは、ラインベルトが、沈む夕日を眺めていた。
「ラインベルト、夕日なんて眺めてどうした?」
エルダがノックもせずにラインベルトの部屋に入って来た。
しかし、いつものことなので、ラインベルトは気にした様子はなかった。
「なんでもないよ、エルダ。・・・ただ、何か不安を感じて・・・。」
「心配することなど無いぞ、ラインベルト。私は、いつまでもピチピチだ。」
「何の話をしてるんだよ、エルダは。僕が言いたいのは、サイラスに行った人達のことだよ。」
ラインベルトの顔は夕日に照らされているのもあり、真っ赤だった。
「何だ、そんなことか。安心しろ、ラインベルト。アイツらなら誰が来ても負けることはない。」
エルダの顔には、ミサキ達への信頼が溢れていた。
しかし、ラインベルトが心配しているのは、そんなことではなかった。むしろ、誰にでも喧嘩を売るミサキ達が、暴れないかを心配しているのだ。
「・・・やっぱり、暴れちゃうんだね・・・。」
ラインベルトの顔は悲しそうだった。
「当然だ!ギルド『パンプキン・サーカス』と喧嘩はワンセットだ。」
「・・・そうなんだ。・・・でも、万が一、ただ武器を売って帰ってくるということは・・・。」
「ハハハハハハハハッ、面白いことを言うな、ラインベルトは。断言しよう。そんなことはありえない。ギルドマスターのミサキがいるんだぞ?怪我人だけで済んだら奇跡だ。」
「・・・エルダはそれをわかってて、サイラスにミサキさん達を送ったの?」
「んっ?そこまで深く考えたわけではないが、とりあえず、サイラスのあの城とあの豚は不快だから、ミサキが暴れて無茶苦茶にしてくれたらいいなぁー程度には考えたかもしれないな。」
エルダ、意外と知能犯だった。
「ああああ・・・どうしよう・・・。」
ラインベルトは頭を抱えてうずくまった。
「何なら、様子でも見に行くか?私のフォルクスを使えば、そう時間はかからないと思うぞ?」
「・・・うん、行こう。ちょっと見て、町が無事なら、そのまま帰ってくればいいし。」
「わかった。ちょっと待っていろ。」
エルダは、フォルクスを出すとラインベルトをフォルクスの背に乗せてから、自分もラインベルトの後ろに乗った。
「どうだ、ラインベルト、大丈夫か?」
「うん、平気だよ、エルダ。」
「そうではなくて、私の胸の感触はいつもの通りかという意味なんだが?」
「し、知らないよ、エルダ。そんなことより、早く出発してよ。」
ラインベルトは、わずかにエルダの胸に当たっていた自分の頭を前に出した。
「うほっ、ラインベルト、頭を乳首に当てるとは、なかなか高度な技術だな。」
「いいから、早く出してよ、エルダ。」
「よし、わかったぞ、ラインベルト。気分も高揚したところで、行こうか!」
エルダの命令でフォルクスが空高く駆け上がる。
「私も、仲間はずれは嫌だなと思っていたところだ・・・。」
エルダの顔が凶悪な笑みを浮かべたが、エルダの前に乗っていたラインベルトには見えなかった。
「何?何か言った?」
フォルクスが猛スピードで空を駆け上がっているため、ラインベルトにはエルダの声が聞こえなかった様子だった。
「いや、何でもないぞ、ラインベルト。」
そして、ラインベルトとエルダは、フォルクスに乗って、サイラスへと猛スピードで空を走り始めた。