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190 サイラス、最悪の1日(5)


「ハイド、奴隷って何?」



「ミサキ、お前、交易都市グロースで奴隷見なかったのか?」



ミサキは、首を左右に振った。どうやら、ミサキは、交易都市では奴隷と出くわすことがなかったようだ。



「あの犬族の獣人の子供は、首に首輪をしていただろ?」



「ええ。でも、犬は首輪をするものでしょ?」



「・・・それは、どこの世界の常識か知らねぇーが、この世界では普通じゃねぇーんだ。」



ハイドは、それから、奴隷について説明してくれた。



奴隷とは、首輪をされている者のことで、この世界では割と一般的なことらしい。



この首輪は、呪いのアイテムで、これをつけると主人の命令に逆らうと首輪が締まる仕組みになっているそうだ。



奴隷は、犯罪者も多いが、それ以外にも、戦争の敗戦国の者達や国によっては人間以外の種族は強制的に奴隷として捕まえられる場合もあるらしい。



また、奴隷の子供は、強制的に身分が奴隷になるらしく、子供の奴隷の多くが親が奴隷のために強制的に奴隷にされている者が多いそうだ。



「このアリステーゼ王国は、奴隷にすることを禁じているから、それほど表立って奴隷を見ることはねぇーが、奴隷を使うことは禁じられてねぇーから、こういう都会に来るとそれなりに奴隷はいるぜ。そもそも、ここの奴隷のほとんどが、交易都市グロースから売られて来てるんだろうから、ミサキが知らないってのも可笑しな話なんだがな。」



「なるほど。で、あの首輪はどこで手に入るの?」



「・・・奴隷商人に頼めば、手に入れることができると思うが・・・何に使うつもりだ?」



「決まってるじゃない。うちの躾の出来てない狼につけたら、少しは躾けられるかと思って。」



ミサキは真剣な顔だった。そのミサキの真剣な顔を、ハイドは呆れた顔で見ていた。



「冗談ならやめとけ。あの首輪は、つけるのは奴隷商人にでもつけることができるが、はずすにはわざわざシャナール聖王国に行くか、もしくは、各都市にあるシャナール教の教会に行って、はずしてもらわなくちゃいけねぇーんだ。しかも、多額のお金を払ってな。」



「そうだぞ。あの首輪をはずすには、最低金貨5枚かかるんだ。面白がってつけるものじゃないぞ。」



酒場のマスターが、エール酒を4杯、ミサキ達のテーブルに持ってきてくれた。



「まだ、注文してねぇーが?」



「これは、俺からの奢りだ。・・・あの子を抱っこしてくれてありがとよ。あの子の母親は、あの子が生まれて、ちょっとしてから亡くなったから、抱っこさえされた記憶がないんだ・・・今、裏でうれしそうにしてたよ。」



マスターは嬉しい気持ちを隠したいのか、どこか恥ずかしげにしていた。



「あら、抱っこと言わず、いつまででも撫で回してあげるけど?」



「・・・あの子が、この後、辛くなるから、あれくらいでいいのさ。」



マスターは辛そうだった。



「あんたの奴隷なのか?」



「・・・ああ、一応な。あの子の父親は俺の戦友だったんだ。だが、敵に捕まって、奴隷落ちにされてな・・・俺が見つけ出した時は、すでに父親は亡くなっていて、同じ奴隷の母親も病気で死ぬ寸前だった。だから、俺があの子を買ったんだ。・・・できれば、子供だけでも奴隷から抜け出させてやりたかったんだが、あの子の首輪をはずすには、白金貨10枚がかけられていてな・・・。」



「父親が戦争で貴族でも殺したか。」



「ああ。あの子の父親はいい戦士だったんだ・・・。それが、奴隷落ちで仇になるなんてな。」



奴隷は、罪の大きさなどによって、首輪をはずすのにかかる料金が違うらしい。



貴族を殺した場合は、当然、その罪は重くなり、首輪にかけられる金額も大きくなる。



首輪にかかっている呪いの種類に違いがあるらしい。



その呪いを見て、シャナール教は、金額を設定しているということだった。



「・・・呪いね。」



ミサキがヒロを真っ直ぐ見ていた。



ヒロは、その視線に困ったように「俺は別にいいんですけど・・・後で問題になりませんかね?」とミサキを見て言った。



「後で問題になる?大いに結構じゃない。ギルド『パンプキン・サーカス』はそういうの大好きよ。」



ミサキは、不気味な笑みを浮かべていた。



ヒロは、そのミサキの表情を見て、「フゥ。」と深いため息をついた。



「どうしたんだ、2人共?」



ハイドが、ミサキとヒロの様子がおかしいことに気付いた。



「あの子を連れてきてもらえますか?」



「・・・何をするつもりだ?」



マスターは、不安そうな顔でヒロを見ていた。



「別に変なことではありませんよ。ちょっと、首輪をはずせるか試すだけです。」



「本当にはずせるのか!」



「期待はしないでください。ただ、呪いを解く方法を少し知っているもので。」



マスターは、ヒロの気が変わらないようにと、急いで、犬族の少年をヒロの前に連れてきた。



「な、何が起きるの?」



犬族の少年は、不安そうにマスターを見ていたが、マスターは優しく犬族の少年に微笑みかけ、「大丈夫だよ。」と言い聞かせた。



その関係を見ても、マスターが犬族の少年を大事にしているのが見て取れた。



「・・・盗賊スキル『解呪』。」



盗賊スキル『解呪』は、本来、宝箱にかかってる呪いを解くためのスキルだ。僧侶系の職業の魔法の中にも呪いを解くものがあるので、実際に効くかどうかはわからないが、やらないよりはマシだということで、ヒロは試してみたのだ。



ヒロの声に反応して、首輪が一瞬青白く光った。



そして、ポロリと首輪が勝手に外れて床に落ちた。



「おおおー!」



マスターが驚いて声を上げた。



犬族の少年は、何が起こったのか理解できずに自分の首を何度も触っていた。



「ありがとう!本当にありがとう!」



マスターは何度もヒロの手を強く握った。



「気にしなくていいですよ。俺はミサキさんに言われてやっただけですから。」



ヒロは少し恥ずかしそうにしていた。



「そうよ。これは、ギルド『パンプキン・サーカス』のギルドマスターとしての命令よ。よって、私が偉い。」



ミサキ、まったく恥ずかしがる素振りも見せずに胸を張っていた。



「「ギルド『パンプキン・サーカス』?」」



マスターと犬族の少年が、ミサキを見た。



「そう。正義・愛・友情を合言葉に活動する組織、ギルド『パンプキン・サーカス』・・・忘れないでね。」



「忘れません。絶対、忘れません。」



犬族の少年は、何度も頷いていた。マスターも無言で涙を流しながら、何度も頷いていた。



「ヒロ、俺の知っているギルドで同名のギルドがあるんだが、そのギルドの辞書に正義・愛・友情なんてものは存在しないと思っていたんだが、これは、同名の別のギルドの話か?」



「奇遇ですね、ハイドさん。俺の所属している同名のギルドでも、正義・愛・友情なんて聞いたことありませんよ。きっと別の同名のギルドの話ですよ。」



ハイドとヒロは、そうは言いながらも、お互い目を合わせて笑っていた。



「というわけで、今度、この子は、私に毎日モフモフされなければいけないということになりました。」



「も、モフモフ?」



犬族の少年が、意味がわからない様子で止まっていた。



「そのとーり!人生、タダほど高いものはないのです。見返りは当然のこと。」



「・・・。」



マスターも先ほどの感動がどこかに吹き飛んでしまった様子だった。



「ヒロ、正義を口にしながら、早速、見返りを要求しやがったぜ。」



「ハイドさん、これは、俺のよく知っているギルドの行動です。」



「ああ、俺もよく知ってるギルドの行動だ。」



「うっさーい、2人共!見返りを要求して何が悪い!タダで助けてもらおうとする方が悪でしょ?私は悪くない!」



いつものミサキだった。



「・・・にゃーもちょっと恥ずかしいにゃ。」



ニーナがボソリッと言った。



「なっ!ニーナまで!これじゃあ、まるで、私が悪いみたいじゃない!もういい!」



ミサキは、頬を膨らませ横を向いた。



「ミサキさんも、もういいって言ってますし、見返りは結構ですよ。」



ヒロは、引きつった笑みを浮かべながら、マスターと犬族の少年を見た。



「い、いや、確かにお礼をするのは、人として当然の行動ですので・・・よろしければ、今日は好きなだけ飲んでいってください。私の奢りです。」



「・・・なんか悪いな。」



ハイドはそう言いながらも、飲み始めた。


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