184 ヤマトとサクラの日常(4)
「シーニュちゃんに言わない方がいいんですか?」
ヤマトとサクラは、ケイティート子爵領の都市ケイトラーダの市場に来ていた。
家には2人分の食料しかないため、ローマンとシーニュの分を買い出しに来ているのだ。
現在、まだ本調子ではないローマンは、ヤマト達の家で寝ており、シーニュは「ロマ兄が心配だから、家にいる。」と言ってついては来なかった。
そこで、サクラが、先ほどシーニュに何か言おうとしたのを止めたことを聞いてきた。
「・・・ああ、まだ、現実のシーニュがどんな性格しているかわからないからな。」
「そんな悪い子じゃないですよ?」
「サクラは、『エル・ブランシュ・アンジェ・フォル』と関わったことあるか?」
「いえ、私はありませんが・・・。」
「あのギルドは、頭のおかしな・・・いや、かなり危険なギルドなんだ。シーニュはそこのギルドマスターだから簡単に信用しない方がいい。」
ヤマトは、立ち止まり、真剣な表情でサクラに忠告した。
ただ、『エル・ブランシュ・アンジェ・フォル』のメンバーに言わせれば、『パンプキン・サーカス』だけには言われたくないと言うだろうが・・・。
「そうなんですか?だったら、私達のこと言わない方がいいですね。」
「ああ、幸い、ローマンは信用できる奴みたいだから、シーニュのことは彼に任せよう。」
いつもとは違う感じのヤマトに戸惑いながらも、サクラはヤマトの言葉に従うことにした。
そして、様々な食材を買い込むとヤマトとサクラは、家へと帰っていった。
「うわー、これ美味しいー!」
シーニュは、ヤマト達と夕食を食べていた。
ローマンも起きて、夕食を取っている。
ヤマトとサクラの2人の時は、だいたいヤマトが料理を作っているので、今回もヤマトが料理をしていた。
「そうですよ。ヤマトさん、料理上手なんですよ。」
ヤマトが作った料理を褒められてうれしいのか、サクラは、満面の笑みを浮かべていた。
「本当にヤマトは料理が上手だね。王宮にでも勤められそうなくらいだよ。」
「それは褒めすぎだ、ローマン。そもそも、王宮の料理なんて食べたことあるのか?」
「・・・いや、今のは言葉のあやだよ。」
ローマンの顔はちょっと引きつった笑いを浮かべていた。
「それにしても、こっちの世界にも刀があるんだねー。」
シーニュは、ヤマトが適当に置いていた4本の刀に視線がいっていた。
「へぇー、こんな剣、見たこと無いなぁー。」
ローマンも興味深そうに刀を見た。
「ああ、その4本は元々俺の物じゃないんだけどな。・・・俺のは、この腰に差している2本だ。」
「だったら、これは、いらないの?」
シーニュが食事中にも関わらず、適当に置かれていた4本の刀の場所に行き、その中の1本を興味深げに観察していた。
「なんだ、その刀、欲しいのか?」
「う~ん。欲しいって言ったらくれるの?」
ヤマトはちょっと考え込みながら、「そうだな・・・別にいいぞ。」と答えた。
「本当?だったら、もらっちゃお。」
シーニュは、その興味深げに見ていた1本の刀を持って、食事をしていたテーブルに戻ってきた。
「本当にいいのかい?」
「ああ、構わないさ。」
心配そうなローマンにヤマトは笑顔を向けた。
「ところで、2人は兄弟ではないよね?ハーフエルフと人間だし?」
「ああ、違うぞ。俺にはあ・・・俺は一人っ子だ。」
「私も一人っ子ですよ。」
「へぇーそうなんだ・・・もしかして、恋人?」
シーニュの顔が興味津々の表情になっていた。
「そ、そ、そんなことごにょごにょごにょ・・・。」
サクラは否定しているのだろうが、最後の方は何を言っているのかわからなかった。
「違うぞ。」
ヤマトは特にこだわり無い感じで否定した。
そのヤマトの素っ気無さにサクラの肩がガクンッと落ちた。
「・・・あっ、もしかして、私、また地雷踏んじゃった?」
ローマンはそんな様子を見ながら、フゥーッと深いため息をついていた。
その後、今日調査するはずだったオークの集落の話やローマンとシーニュの旅の話を聞きながら、夜は更けていった・・・。