182 ヤマトとサクラの日常(2)
「おはよう。」
ヤマトとサクラが冒険者組合の建物に入ってすぐに、レギウス護衛団のリーダーの男が挨拶してきた。
レギウス護衛団は、ヤマトとサクラがパルテに拾ってもらった時にパルテのレッドミラー商会を護衛していた冒険者パーティーだ。
このレギウス護衛団のリーダーは、ヤマトに命を救ってもらい、サクラに骨折を治療してもらったので、ヤマトとサクラが冒険者を始めるという時から気を使ってくれていた。
「おはよう。」「おはようございます。」
ヤマトとサクラも挨拶を返した。
「おい、リードの森にオークの集落が発見されたらしいぞ。」
オークは、いわゆる豚を二足歩行にしたような魔物だ。元の世界であったオークのイメージと同じような姿をしていた。
ただ、元の世界のイメージのように人間の女性と子供を作ることはできない。
オークが人を狩るのも当然、人を食料にするためだ。
オーク自体は、1体で問題になるような魔物ではないが、問題はオークが集落を作る性質があるということだった。
しかも、オークの繁殖能力は凄まじいものがあり、1年で3回の発情期があると言われている。
そのため、妊娠期間も3ヶ月と短く、生後1年経つと普通に狩りに出るまでに成長するため、早めの駆除が求められる魔物であった。
「しかも、キング級もしくは、ジェネラル級の個体が居るらしいぞ。」
オークの通常個体は2mちょっとだが、ジェネラル級で身長3~4m、キング級で身長5m~6mと言われていた。
また、身長が高い個体ほど知能も発達していると言われていた。
「討伐依頼は出たのか?」
「ああ、今回は絶対に討ちもらせない魔物だからな。こっちも大勢で行くらしいぞ。」
「お前達は行くのか?」
「いや、俺達は、商隊の護衛が主のパーティーだからな。・・・ここだけの話、戦闘能力には自信がない。」
レギウス護衛団のリーダーは苦笑いを浮かべ、頭を掻いていた。
「ヤマトさん、私達はどうしますか?」
サクラの表情は、オークと聞いても特に変化はなかった。
『グランベルグ大陸』内ではオーク自体たいした魔物ではなかったし、それにヤマトの戦闘能力に対する信頼があるからだ。
確かに、オーク程度がいくら集まっても、『グランベルグ大陸』でレベル100だったヤマトの相手にはならないだろう。
それどころか、普通のオークでは、レベル50程度のサクラでさえなんとかできるとは思えなかった。
ただし、それはあくまで普通のオークの話であり、ジェネラル級やキング級ともなれば話は別だ。
もし、キング級が『グランベルグ大陸』でいうボスクラスなら、もしかしたら、ヤマト1人では厳しいのかもしれなかった。
この世界で、すでに何度も魔物と戦ってはいるが、いまいち、魔物の強さというものが、ヤマトはつかめないでいたからだ。
簡単にいうと弱すぎるのだ。
たまにサクラと模擬戦をするが、明らかにサクラの方が魔物より遥かに強かった。
ただ、だからこそ油断大敵と己を戒めるヤマトだった。
「とりあえず、依頼を確認してからだな。」
ヤマトとサクラは、レギウス護衛団のリーダーに別れを告げて、依頼が張ってある掲示板の前へと行った。
「出発は1週間後か・・・随分、時間をかけるんだな。」
「なんでも、他の場所からオーク専門のギルドを呼んだらしいぜ。」
ヤマトと顔見知りの冒険者がヤマトの独り言を聞いて、教えてくれた。
「ギルドの他に冒険者も集めているのか?」
「ああ、今回の集落の発見者が言うには、結構でかい集落らしい。それで、冒険者達が周辺を囲んで逃げられないようにしておいて、そのギルドがオークの集落に突撃するらしい。」
「なるほど。そのギルドの名前はわかるか?」
「確か・・・クーコロ白騎士団・・だったかな?」
「・・・・ヤマトさん、私、もの凄い嫌な予感がするんですけど。」
何かを予感したサクラの表情が曇った。
「・・・確かに名前はいい感じはしないな。でも、まさか、女騎士だけの冒険者ギルドってこともないだろ?」
「おっ、ヤマト、お前よく知ってるじゃないか。クーコロ白騎士団は、白い鎧に身を包んだ女騎士の集団らしいぞ。」
「私、間違えられたら嫌なので、別の色の服、買いましょうか・・・。」
サクラが着ているものも主体が白色なので、本気で嫌そうな顔になっていた。ただ、嫌な理由は、色がかぶるということだけではないだろうが・・・。
「そう言えば、今日、正確なオークの集落の調査依頼も出てたぜ。期限は、そのクーコロ白騎士団が到着するまでにってことだから急ぎの依頼だな。」
オークの集落のあるリードの森までは、馬車で4時間ほどの道程だ。
(調査なら、弧月の能力でなんとかなるな。)
ヤマトはそんなことを考えながら、サクラに「調査依頼を受けてみるか?」と尋ねた。
「あんまり関わりたくない依頼なんですけど・・・。」と言いながら、サクラは他の依頼にも目を通した。
しかし、他に目ぼしい依頼はなかった。
しかも、この調査依頼は、依頼料総額金貨3枚と集落の調査だけの依頼としては金額が高かった。
この総額というのは、調査に行き、持って来た情報量によって、最高金貨3枚渡すということである。
「・・・調査依頼より良さそうな依頼ありませんね。」
サクラは、他の依頼を最後まで見て、残念そうに呟いた。
「嫌なら、俺だけで行ってくるぞ?」
ヤマトは、サクラに気を使って言ったのだが、サクラは、その言葉を聞いて、「えっ、いいです。私も行きます、絶対。」と焦ったようにヤマトに詰め寄った。
「そ、そうか?だったら、一緒に行こうか。」
「はい。」
ヤマトは何故サクラが焦っているのかわからないが、とりあえず、依頼を受けるために冒険者組合のカウンターへと行き、依頼を受けた。
「それじゃあ、行くか。」
「はい。」
ヤマトとサクラは、オークの集落の調査をするために馬車を借りてケイティート子爵領の都市ケイトラーダを出発した。