180 ギルド『パンプキン・サーカス』会議(7)
今日5/13(土)は177話から投稿しています。
「なるほど・・・で、どこら辺が悲劇なんですかね?」
ヒロは今の話を聞いて、ミサキに尋ねた。ヒロにはさっぱりどこが悲劇なのかわからなかったのだ。
「なんと、あの日バイト代が貰えなかったの。」
ミサキとニーナは絶望の表情を浮かべた。
「・・・でしょうね。」
ヒロは当然でしょうねという表情だ。
「いやいや、損害を請求しなかっただけマシだろ?」
ミサキの話の最中に部屋に入ってきたディートは、笑いながらも呆れた表情を浮かべていた。
ミサキの話の最中に、仕事終わりのディートとグラハム、そして、何故かジュリも部屋に入ってきていた。
「それで、ディートさんとグラハムさん、ジュリ様がここにいる理由は何ですか?」
「それはね、ヒロリン。ディートとグラハムの『乱華酒家』は今後、ギルド『パンプキン・サーカス』と同盟関係を結ぶことになりました。そして、ジュリは、ギルド『パンプキン・サーカス』の外部理事となります。はい、拍手。」
パチパチパチッとドルト1人が拍手した。
「ミサキさん、同盟関係はなんとなくわかるんですけど、外部理事って何ですか?」
「ようするに、外の人間には、ジュリがギルド『パンプキン・サーカス』ということを黙っておいて、外部の情報をギルド『パンプキン・サーカス』に流してもらいます。」
「・・・それ、ただのスパイですよね?」
「まあ、そうだけどさ。」
「いいのよ、ヒロ、名前なんて何でも。私がミサキ様と共に働けて、ヒロを合法的にこき使えれば。」
ジュリの顔には、してやったりの表情が浮かんでいた。
「とりあえず、ギルドメンバーと外部理事の立場の関係性の説明を強く求めます。」
ヒロは真剣な表情だった。確かにヒロにとっては死活問題だ。ただ、ミサキにとっては死活問題ではなかった。
「う~ん。それなんだけどね。ジュリからの唯一の条件が、ヒロリンの上に立つことだから。メンバーと外部理事は一応平等だけど、ヒロリンだけはジュリの下ってことで、よろシコリンコ。」
「何ですか?そのフザけた語尾は?絶対にミサキさん、面白がってるでしょ?」
「・・・黙秘権の行使を求めます。」
ミサキは、口を手で隠した。しかし、目は確実に笑っていた。
「いいじゃない、ヒロ。いままで通りと思えば。私が今までヒロにそんな無茶言った事ないでしょ?」
「そうですね。奢らされたり、犯罪の片棒を無理やり担がされたり、確かに無茶なことは言われてないですね。最低なことはやらされてますが。」
「もう、ヒロと私の仲じゃない。それぐらい許してよ。」
ジュリは、可愛く困った表情を作るが、当然、そんなものに騙されるヒロではない。
「というか、そう言えば、俺の今の冒険者ランクってどうなってるんですか?ドワーフ達の件とかで上がったんですかね?それに報酬とか?」
「えっ、あの件については、ヒロ、いらないって言ったじゃない。だから、すべて、私の功績になってるけど?」
ヒロは、記憶を辿ってみたが、そんな記憶はどこにもなかった。
「そんなこと言ってませんよ?」
「言ったわよ。私がヒロの部屋に起こしに行った時に、見返りはなしでいいのねって確認したわよ。」
ヒロは、ジュリに言われてようやく思い出した。
「いや、あれは・・・。」
「とにかく、もう、あの件は処理済みだから。どうしようもないわよ。ランクを上げたければ、次から頑張ってね。ちなみに、ドワーフの地下空洞の新しい遺跡についても私の功績になってるから。」
さも、当然の表情で言い切るジュリ。
「・・・新しい遺跡ではなくて、偽造された遺跡ですよね?」
ヒロは完全に呆れていた。
「あら、私は偽造なんて知らないけど・・・もしかして、ヒロが偽造したの?」
「・・・最低だ。」
ジュリは、明らかに遺跡偽造の罪をヒロ1人に押し付けようとしていた。
「はい、そこまで!個人的な話は後にして。今は、ギルド『パンプキン・サーカス』の会議中ですよ。」
ミサキは、手をパンッパンッと叩きながら、ヒロとジュリの会話を止めた。
「えっ、もう会議は終わりじゃないんですか?」
「何言ってるの、ヒロリン。今からが本題でしょ。今までの話を聞いて理解できると思うけどなぁー。」
ミサキは、非常に不満げだった。
「まったく理解できないので教えてくれませんか?」
ヒロは、本当にわからずに困惑していた。
「だーかーら、私、金欠ってことだよ、ヒロリン。」
「・・・・。」
その場にいたアオイ以外全員がミサキを呆れた表情で見た。
それ、思いっきり個人的な話じゃね?とミサキを見ていた全員が思っていた。
会議が終わり、ミサキやヒロはエストの隣の都市サイラスへと出発する準備をしていた。
結局、ミサキに押し切られ、ミサキの金欠を解消する方法を皆で会議したのだ。
その結果、エルダが、サイラスの武器屋は高く買ってくれる上に即金で払ってくれると発言して、ミサキがそれを採用とした。
今回、行くメンバーは、ミサキ、ヒロ、ニーナ、ハイドの4人だ。
ドルトはエストでやることがある上に、サイラスの商人組合に悪い意味で顔を知られているので、あまりサイラスには行かない方がいいという理由で行くのを断った。
ヒロは、違う町に一度行ってみたかったので、一緒に行くことにしたのだ。
ハイドは、もう、ディートの店に夜、警備に行くのが嫌で絶対にサイラスについて行くと言い張っていた。
ハイドとギ・ガ・ゾルドが、あれほど疲れていたのは、肉体的な面だけではなく、精神的な面が大きかったらしい。
「女の裏の顔は怖いぜ、ヒロ。」
しみじみとハイドが語ったものだ。どうやら、ハイドの待機場所が、ディートの店で働いている女性の待機場所と同じだったらしいのだが、そこで相当、女性の嫌な面を見てしまったらしかった。
ちなみに、ハイドが居ない間は、ギ・ガ・ゾルドと獅子族の面々がその仕事を請け負うことになっているらしい。・・・ギ・ガ・ゾルドは相当渋ったらしいが、ミサキにねだられて断れなかったそうだ。
「それでは、サイラスへしゅっぱーつ。」
ミサキの声で、ヒロ達を乗せた馬車がサイラスへ向けて動き出した。
ちなみにその頃、ドルトは料理を作るのに忙しかった。
「・・・こんなことなら、顔を隠してでも、ミサキ様についていけばよかったですね。」
ドルトの後ろからは、ミュミュの「まだです。まだまだです。早く次を持って来るです。」という声が聞こえて来ていた。
ドルトの料理がかなりミュミュの味覚にあっていたらしく、ドルトはミュミュの料理の世話をさせられていたのだ。
今回、ミュミュがヒロについてこなかったのも、ドルトの料理が食べたいためだった。
「私・・・仕事が溜まっているんですけど・・・。」
ドルトの嘆きが調理場に悲しく響いていた。
今日5/13(土)はもう少し投稿する予定です。