179 ギルド『パンプキン・サーカス』会議(6)
今日5/13(土)は、177から投稿してます。
「おう、ハイド、今日はよく来てくれたな。」
ハイド達の席にディートがやって来た。
「・・・ディート、お前、こいつらをよく雇おうと思ったな。」
ハイドは、呆れた表情でディートを見ていた。
ディートは笑いながら、ニーナの隣に座ると、テーブルの上にわずかに残っていた『ロイヤルウエディング』をコップに注ぐとグイッと飲んだ。
「いやー、本当にミサキは役に立ってるぜ。あっという間に従業員をシメて、教育までしてくれたからな。」
「当然よ。それがナンバー1の仕事だもの。」
ミサキはさも当然の評価と言わんばかりの態度であった。
「にゃーは?」
「・・・・まあ、それはいいじゃないか。」
ディート、視線と同時に話題も逸らした。
「にゃ!にゃーは役に立ってないのかにゃ?し、失礼にゃ。なんて屈辱にゃ。こんな店ではにゃーのいいところは引き出せないにゃ。辞めてやるにゃ。」
ニーナは、立ち上がりディートに詰め寄った。
「あら?ニーナが辞めるなら、私も辞めるわ。」
「それは困るな。・・・そうだ、こういうのはどうだ、ミサキ。」
ディートがミサキに提案したのは、ギルド『パンプキン・サーカス』がこの店の用心棒的な役割を請け負ってくれということだった。
「どうしても、こういう店ではさっきみたいな客が現れるからな。当然、金は払うぜ。」
「・・・それは、私に毎日出勤しろっていうことかしら?」
「いや、別にミサキじゃなくてもかまわねぇーよ。『パンプキン・サーカス』の誰かがこの店の用心棒をしてくれたら。」
「それなら、いいわ。」
ミサキはディートの提案を承諾した。
「それじゃあ、正式に依頼として受けてもらえるってことだな。」
「ええ、ギルド『パンプキン・サーカス』が請け負うことを約束するわ。」
「あのよー。ひとついいか?」
ディートとミサキの話し合いを聞いていたハイドが割って入った。
「なんだ、ハイド?」
ディートは視線をハイドに向けた。
「ミサキの言ってるギルド『パンプキン・サーカス』ってのは、どの組合にも属してないギルドだぞ?」
「・・・もしかして、闇ギルドなのか?」
ディートは驚いたようにミサキを見た。
闇ギルドとは、冒険者組合や傭兵組合や商人組合に属さないギルドのことで、犯罪に手を染めていることも少なくないギルドのことであった。
「そこは大丈夫だぜ、ディート。犯罪は起こして・・・ないとは言えないが、お前が思っているような犯罪は犯してないぜ。・・・ただ、ちょっと騒動を巻き起こしているぐらいだ。」
「そう言えば、古いエスト破壊したのも、お前達だったな・・・。まぁー、いいか。お前らが悪い奴じゃないってのは、俺はよく知ってるし、問題ないだろ?」
ハイドは、ディートの楽観主義にやや呆れながらも、その大らかさに好感を抱いていた。
「契約成立でいいのね?」
「ああ、頼むぜ。この町でお前ら以上に揉め事で頼りになる奴はいないからな。」
ミサキとディートは固く握手をした。
「あとでドルトを寄越すから、詳しい話はドルトにしてね。」
ミサキの言葉に「わかった。」とディートが答えた。
「にゃーは反対にゃ。」
ニーナは不服そうだったが、「ニーナ、これで働かなくてもお金が入ってくるようになるのよ。」というミサキの言葉に「本当かにゃ。凄いにゃ。」と驚いていた。
「いや、働かなくてもいいわけないだろ?」というハイドの言葉に、「あっ、間違えたわ。私とニーナは働かなくてもいいの間違いだったわ。」とミサキが言い直した。
絶対、こいつ、俺やドルトだけをここに寄越して働かせるつもりだろと気付いていたが、そこを突っ込むとまた何を言われるかわからないのでハイドは黙っておいた。
ハイドからしたら、今日はこのまま静かに終わってくれることを祈っていたのだ。ミサキがハイドが話したことを思い出さないように。この流れのまま、終わることを。
しかし、終わるわけはなかった。
ミサキは、店員の男達に「あなた達、ちょっとテーブルをずらして、広い場所を作ってくれる?」と頼み、店員の男達は「御意。」とミサキの命令に従った。
「何をするつもりだ、ミサキ?」
「決まってるじゃない。お・し・お・きタイムよ。」
ミサキの顔に笑顔が浮かんでいたが、それは純真無垢な笑顔ではなかった。
ミサキは、店員の作った場所の真ん中に立つと店内に響く声で「さあ、皆さん、本日のメインイベントですよー。あのギルド『パンプキン・サーカス』の空前絶後の美少女魔王ミサキ対クリオラの森の狼族が生んだ世紀の変態ハイドの戦いを只今より開催致しまーす。」と宣言した。
「「「おおーーーーー!」」
店にいた客から歓声が上がった。
ここで、いつものハイドならすでに逃げ出していただろうが、今日のハイドは一味違った。
そう、今日のハイドはお酒がしこたま入っていて、気が大きくなっていたのだ。
こういう状況を避けたかったことは事実だが、なったらなったで仕方が無いとハイドは腹をくくっていた。
というか、今日ならミサキを倒せる、そんな気さえしていた。
ハイドは、ゆっくりとソファーから立ち上がり、右手を上げて店内の客の声援に応えながら、ミサキの前まで歩いていった。
「ミサキ、今日こそお前を超える。」
ハイドの表情は、どこかすでに勝ち誇っていた。
「ハイドー。クリオラの森の狼族の無念を晴らしてくれー!」
店内には、クリオラの森の狼族も居たのだろう。ハイドに熱い声援がかけられた。
「まかせとけ。」
ハイドは、自信に溢れていた。・・・その自信がどこから来ているのかをハイドが理解していれば、この後の悲劇は起こらなかっただろう。お酒による自信など何の意味もないのだ。
ミサキはというと、手をブラブラさせながら、軽く準備運動をしているようだった。
「いくぞ、ミサキ!」
「どこからでもどーぞー。」
意気込むハイドに余裕のミサキ。
ハイドは、そのミサキの余裕を消してやろうと余計に意気込んでミサキに突っ込んでいった。
そして、20秒後、床に半分オシリの出た状態でうつむけに倒れるハイドの姿がそこにあった。
無様な姿をさらすハイドの隣では、観客の声援を浴び、両手を挙げるミサキの姿があった。
ミサキに観客から銀貨が投げこまれた。
ミサキの周りに落ちる銀貨をニーナがうれしそうに拾い集める。
そして、ある客の投げた銀貨が不幸にも、ミサキの頭へとヒットした。
狙ったわけではない。ただゆっくりと放物線を描いて落ちてくる銀貨の落下場所にミサキの頭があったのだ。
「・・・あっ?」
ミサキの表情が、一瞬で変化した。まさに鬼の表情だった。
睨まれた方向の客が俺じゃないと必死に手を振って否定するが、そんなものミサキには通用しなかった。
10分後、山積みされた客の頂上で雄叫びを上げるミサキの姿があった。
幸い、ディートは、その乱闘に加わらず、酒を飲みながら、その光景を楽しんでいたので特に問題にはならなかったが、やはり少し契約金を減らされたと後でドルトがぼやいていたらしい。
これが、3日前の出来事だった。
今日5/13(土)はもう少し投稿します。