178 ギルド『パンプキン・サーカス』会議(5)
今日5/13(土)はこの前の177から投稿しています。
その時、背後の方の席で騒がしい声が聞こえた。
どうやら、店の女性と客の男が揉めているようだった。
女性が「やめてください。」と言っている声が店内に響く。
「チッ、仕方ねぇーな。」
ハイドは、ミリアーナや店内の女性達にいい所を見せるチャンスだと思い、席から立ち上がりかけるが、そのハイドの膝にミリアーナの手が置かれた。
「大丈夫ですよ。」
「えっ?」
ハイドは、ミリアーナを見ると、ミリアーナの手には、『ロイヤルウエディング』が1本握られていた。
そして、ミリアーナはそれを軽い感じで投げると、ハイドの背後の方で女性と揉めていた男の頭に命中した。
ガシャンッと砕け散る最高級酒『ローヤルウエディング』。
それと同時に床に倒れる男。
「あなた達、他の御客様の邪魔だから、さっさと運び出して。」
ミリアーナは、店員の男達に指示を出した。
「御意。」
店員の男達は、ミリアーナの指示に即座に反応して、倒れた男を店外へと運び出して行った。
「・・・御意?」
ハイドの表情が固まる。
その『御意』という言葉は、ハイドにとっていい思い出がなかったからだ。
「どうかされましたか、ハイド様?」
ハイドは、再度、ミリアーナの顔を確認するが、ミリアーナの顔はちょっとミサキに似てはいたが、ミリアーナはしっかり化粧をしていたので、ミサキではないとハイドは判断した。
ハイドが出会ってから、ミサキは化粧をしたことがなかったからだ。
それに、ミサキが化粧に興味があるとも思えなかった。
「・・・一応、確認したいんだが、ミサキじゃないよな?」
それでも念のためにとハイドは、ミリアーナに確認した。
「ミサキ?・・・ああ、あの有名な『パンプキン・サーカス』の美少女ミサキ様ですか?違いますよー。」
ハイドは、ミリアーナの答えで安心した。
確かに、ミリアーナとミサキでは髪の色も違うし、声も違っていた。
「いや、悪かったな、ミリアーナ。確かにミリアーナとミサキを比べるなんて、ミリアーナに失礼だったな。」
「そんなことないですよー。光栄です。」
ミリアーナは屈託の無い笑顔を浮かべていた。
その笑顔を見たハイドは、こんないい笑顔の女性が、あのミサキなんかと同じ人物なわけないとミサキかと疑った自分を恥じた。
その時、再び、店内のハイドの席とかなり離れた席で、大きな声が聞こえてきた。
「にゃーに気軽に触るとはいい度胸だにゃ。」
ハイドが聞き覚えのある声に気付き、そちらの方を見ると、そこには豪華に着飾ったニーナがいた。
次の瞬間、ハイドを華麗に飛び越えて、ニーナの下へと走る者の姿をハイドは見た。
そして、その者は、ニーナのついていた客をあっという間にボコボコにすると、再びハイドの隣に戻ってきていた。
「・・・・・・。」
ミリアーナをジッと凝視するハイド。
「あら、私の顔に何か付いていますか?」
「・・・返り血。」
「あらやだ。私としたことが。それにしても喉が渇いたわね。もう1本、『ロイヤルウエディング』を頼んでもいいかしら?」
ミリアーナは、綺麗な金髪のカツラを持ち上げると暑そうに手で扇いだ。ミリアーナの金髪の下にあったのは黒髪だった。
「駄目に決まってんだろ、ミサキ!お前、こんなところで何やってんだよ!」
ハイドはようやく気付いた。ミリアーナがミサキであるということに。
「まったく、あの客は失礼にゃ。この夜の女王のにゃーに気軽に触れようとするとは。」
ブツブツと文句を言いながら、ニーナがハイドの隣に座った。
「お前も何してんだ、ニーナ。」
「んっ?何って、バイトにゃ。」
「・・・バイトって、ドルトからお小遣い貰ってるだろ?」
「あんなはした金、もう使ったにゃ。」
ちなみにハイドもドルトからお金を貰っていた。ただし、それはあくまで日々ドルトの作業を手伝っている給金であり、ニーナとミサキはまったくドルトの作業を手伝っていないので、正真正銘お小遣いだ。
「プッ。」
ミサキが口の中から何かを吐き出した。
見ると水色の小さなスライムだった。
「・・・これは何だ、ミサキ。」
「んっ?ああ、これは、声色を変えてくれるスライム。便利でしょ?」
ハイドは、ようやく納得がいった。いくら多少容姿を偽ったとしても、声が同じならハイドがミサキに気がつかないはずはなかったからだ。
今日5/13(土)はもう少し投稿する予定です。